出会い フレイは、とある家の前で立っていた。フレイが魔法の地図に導かれるように立ち寄ったとある国、その国の人達はフレイを歓迎してくれた。その時、国の人から頼まれたことがあったのだ。それは、ある子を助けてあげて欲しい、との願いだった。
『リヒトっていうの、あの子の両親は頭のいい魔法使いで……私達のことをいつも助けてくれた。私達も、リヒトくんの事を可愛がってた。けど、その両親が亡くなってから拒絶するように、あの家から出てこなくなって……』
そうして住人は指を指した。フレイが目を追うと、少し高台のところにポツン、と寂しそうに建っている家を見つけた。あの家にその【リヒト】という人がいると、フレイはその話を聞いてほっとけない、と感じた。住人の願いに快く引き受け、今こうして扉の前に居た。
家の周りを見る、恐らく花が咲いてたであろう花壇には何も植えられていない。雑草が生えてないのは、リヒトの魔法のおかげなのだろう。家の周りは綺麗だった、けれど、綺麗すぎてなにもないからか、寂しく感じた。
家の窓から見えるのは、沢山の本棚だった。住人が言っていたことだが、リヒトの両親が世界中から集めた本が沢山あると。両親もリヒトも、本が好きだということも。だからこそ、住人達は心配した。本の世界に閉じこもってしまったのでは、と。
「……」
フレイは黙ったまま、ドアノブを握る。本よりも、楽しい世界をフレイは知っている。なにより、フレイは興味を持っていた、そのリヒトに。そして、力いっぱいドアを開けた。
「おーい!」
鍵は開いていた。フレイは大声でそう叫び中に入る。外からはよく分からなかったが、中は圧巻するほどの本棚に敷き詰められるように入っていた本達がフレイを出迎える。思わず後ろに仰け反りそうになった、どのくらいの時間があれば、この本達を読み切ることが出来るのだろうか。
そして、フレイの声になにやら本がばさばさと落ちる音がした。
「だ、だれ……!?」
怯えるように、本棚の隅からそっと、顔を覗く青年がいた。怯えた態度と顔立ちの幼さのせいか、フレイとあまり歳の変わらないようには見えなかった。あの青年が、リヒトだとフレイは思いながら近づく。
「俺、フレイって言うの。探し物をしてて旅してたけど……ここの住人からお前のこと聞いて、話してみたいなって」
「……僕と……?」
そう言うと、リヒトは恐る恐る、本棚から姿を見せる。茶髪の髪に赤紫色の目がこちらを見ていた。リヒトは、信じられないかのような声で言う。
「……なんで……僕はそんな……両親みたいに凄い人じゃないから……」
「……住人、お前の事心配してたぞ。ずっと出てこないって」
「……」
そう言うとリヒトは否定するかのように首を振る。
「……僕、両親みたいに何も出来ない、から、ここの国の人達に何も出来ないの、嫌で……。そう考えたら、外に出るの怖くなって……怖い、外がもう怖い。だから……本なら、僕を置いていかない、から……」
そう言うとリヒトは泣き出してしまった。フレイはリヒトの両親のことは何も知らない、けれど、フレイはそうは思わなかった。フレイは、リヒトの手を掴んだ。
「え、なに……」
「……なぁ、お前の名前、光って意味なんだろ? この国の言葉で」
「う、うん……」
「ならさ、光がこんな所で閉じこもってたら、光なんて届かないじゃん! 消えちゃうだろ? あのさ、お前がそう思ってるほど、外は怖くない! せーの!」
「え、うわ……!」
フレイがそう言って笑うと、リヒトの手を引っ張って外に一緒に飛び出した。久しぶりの日光に思わず目を細めて瞑ってしまうリヒト。怖い、と感じた時、フレイが手を強く握った。
「目、開けろよ。怖くないよ」
「……」
恐る恐る、とゆっくり目を開けた。リヒトの目に映ったのは、真っ青な青空のようなフレイの瞳と、青空だった。雲ひとつない青空、そして迷いのないフレイの瞳。リヒトはじっと、目が離せなかった。あの部屋より、とても綺麗に見えたのだ。それは本にも書いていない、事実だった。
「……青……」
「ん? あぁ綺麗な青空だな」
「……う、ん」
心臓はうるさい、久しぶりに外に出たのだ。怖くて足が震えそうになる。けれど、それ以上に、安心がリヒトを包んでいた。
その時、フレイが笑って話す。
「なぁ! 俺と旅しよう!」
「……え!?」
「俺、お前となら見つけられる気がするんだ! 俺は! お前と、リヒトと旅に出たい! 俺と世界を見よう!」
そう言ってリヒトの返事を聞かずに走り出すフレイ。リヒトは手を振りほどこうにも、相手の力が強くて振りほどけなかった、山道をぬけて街中へ。街では久しぶりに見たリヒトの姿に住人達は驚いていた。皆がリヒトのことを心配して、泣いて、抱きしめた。
リヒトはおろおろ、としてしまう。リヒトからしたら、自分は嫌われているだの勝手に思っていたから。フレイは住人達に大声で叫ぶ。
「こいつ、俺と旅するから! こいつにもっと世界を見せたいって思ったからな!」
「ま、まって、僕は……!」
困惑するリヒトを横目に、フレイは走り出す。住人達もそんな二人を見送るように手を振った。
こうして、リヒトは無理やりフレイの旅に同行することになってしまった。城門を出た後、リヒトは思わず怒鳴ってしまう。
「ぼ、僕は旅するなんて言ってないよ!」
「まーまー、旅も悪くないって」
怒るリヒトを横目に、フレイは魔法の地図を広げた。リヒトはその地図を一目見て動きをとめた。あの地図、もしかして、と。
「え、その地図……」
「ん? じーちゃんの。俺、じーちゃんが遺した宝物を見つけなきゃいけないんだ」
「……宝物……」
リヒトの記憶が正しければ、今フレイが持っている地図は、と考えてしまう。けれど、本で読んだ記述では、とリヒトは考え込んでしまった。リヒトの中では、なぜその地図をフレイが持っているのか、という考えが占めてしまった。
『示せ! 地図の示す先へ!』
フレイがそう叫ぶと、地図は淡く光り出す。そして、何も書かれてなかったまっさらな地図に、事細かに周辺の地形の様子が書かれ、とある国の名前が光った。
「お、目的地はここか」
「……やっぱり、それ……」
「ん? なんか言った?」
「え、い、いや……」
「さぁ行くぞ!」
フレイはそう笑って道を歩き出す。リヒトも観念して後ろを着いて行った。どうなるのだろう、と不安もあるが、それ以上の心臓の高鳴りを感じていた。フレイの無鉄砲さに怒っていたはずなのに、旅などしたことないのに、この気持ちは、楽しみ、という気持ちなのだろうか、とリヒトは黙って考えた。
後の、親友になる二人である事は、まだ知らない出来事だ。