スケート場 創がスケート場のチケットを、琥珀と鈴鹿に持ってきたのが数日前。どうやら、練習して好きな子にいい所を見せたいとのこと。特に用事も無かった二人は、創の提案に快く賛成した。スケートなんてほぼやった事ないのだが、と琥珀は思ったが、行くだけ行くかと思いつつ。そもそも、三人でこうしてどこかに行くのも久しぶりだったため、楽しみでもあった。
高校時代の時は、既に認可として活動していた琥珀と創は忙しかったが、それでも鈴鹿と一緒に学生らしい事をしていた。認可として見てるのではなく、普通に個人の人間として仲良くしてくれた鈴鹿には感謝していた。高校卒業して、あの事があってからどこかに出かける、というのが減った。
そして今、創が戻ってきてから久しぶりに出かけるのだ。楽しみに決まっている。
数日後、スケート場にやってきた三人。平日からか、滑っている人達は少なかった。スケート靴に履き替えて、早速滑る───のだが。
「あいだっ!」
早速創が滑って転んだ。スケート場の手すりに捕まっていたのだが、三人とも初心者だ。すぐに立てるはずが無い。係の人が基本的な立ち方を教えてくれた。なお、係の人は女性だったため、若干琥珀は距離を取っていた。三人は四苦八苦しながら立つ、最初に立てたのは琥珀だった。
「お兄さん筋がいいですね」
「……そうですか……?」
琥珀はあまり分からなかったが、後ろを向いて中腰でぷるぷると体を震えさせてその場から動けていない鈴鹿と、相変わらずずるり、と滑って転ける創。
「いだい!」
「ちょ、創揺らすな、転ける」
「揺らしてないけど!?」
立とうとして滑りそうになっている創に、慌てて係の人が手助けに行く。琥珀は手を差し出して鈴鹿の手を握った。
「大丈夫か……?」
「だ、大丈夫……」
どのくらい時間が経っただろうか。係の人から歩き方、滑り方を教わった三人。先程よりか転んではないが、腰の引けた創と、動けていない鈴鹿。反対に、ゆっくりだが滑れている琥珀の図になっていた。
「え……琥珀なんで滑れてるわけ……?」
「琥珀って案外器用……」
「大丈夫か二人とも」
ゆっくりと滑って近くに来る琥珀。琥珀は少し考えて鈴鹿の手を握った。
「反対の手は手すり握ってて、ほらゆっくり……」
「ぅ……お、……う……」
「え? 俺置いてけぼり?」
創の言葉は聞こえていないのか、琥珀も手すりを捕まり、ゆっくりと鈴海と滑る。
「鈴鹿、大丈夫だから。ほら滑れてる」
琥珀はそう言うと笑う。鈴鹿の手は少し震えていたが、段々と慣れてきたのか先程よりかちゃんと滑れるようになっていた。琥珀は鈴鹿に手すりを離そうか、と言う。最初は驚いていた鈴海だったが、少しするとゆっくりと手すりを握っていた手を離した。琥珀は反対の手も握り、ゆっくりと滑る。
「お、お……」
「ほらちゃんと滑れてる」
「……俺が女だったら惚れてる……」
鈴鹿の言葉に思わず笑う琥珀。流石に、鈴鹿が女性だったら今みたいに手を握って一緒に滑るのは出来ないが、そう言って貰えるのは嫌ではない。人から好意を向けられるのは誰だって嫌ではないだろう、鈴鹿の手を優しく握り、琥珀は口を開く。
「なんだ、惚れてくれるのか。ありがとう」
「……前から思ってたけど、天然タラシって言われるだろ」
「……」
似たようなこと言われたような気がする、と琥珀は少し首を傾げる。創からも言われたことがあるし、自分の知り合いのツクリテからも言われたような気がする。けど自分のどこが天然タラシなのか皆目見当もつかない。
「いやまぁ、俺も惚れてるんだけど」
「そっか、なら俺も鈴鹿に惚れてるな」
「両想いじゃーん!」
「そうだな」
傍から聞いたらとんでもない会話をしているのだが、二人とも笑って滑っていた。鈴鹿の存在に救われている琥珀だからこそ、言えたのだろう。創の事も、目の前にいる鈴鹿の事も好きだな、なんて思って笑う。
そして、この状況に一番置いていかれているのが、未だに手すりに捕まって二人の様子を遠くの方で見ていた創だった。会話までは聞こえなかったが、どう見ても二人の世界に入っているのは見て分かる。
「え……もしかして俺……ハブられてる……? ちょっと〜! 二人とも〜! 俺を置いてけぼりにしないでぇ〜!」
創が泣き言のように大声で言うと、少しして創の側まで滑って近寄る二人。
「まだ滑れてないのかよ。わはは、創も好きだぞ〜」
「好きな子にいい所見せたいんじゃなかったのか? 俺も創の事好きだけど」
「なに? 突然の告白? 俺モテ期? 俺も二人の事めちゃくちゃ好きだけど?」
そう言うと三人顔を見合わせて笑う。この楽しい時間がずっと続けばいいのに、そう思ったのは誰なのだろうか。もしかしたら、三人ともそう思ったのかもしれない。