レモネードと共に 七月が終わろうとしていた。夜でもクーラーがないと寝ることも出来ず、夏場になるとほぼ毎日のようにクーラーを入れていた。今日の夜もまた、クーラーを入れて寝たのだが、丁度日付の変わった八月の夜中、誰かしらの気配を感じて思わず目を開けると、目の前には琥珀のよく知っているニジゲン──灰純がそこに居た。毎度のように、ちゃんと戸締りもしているはずなのに、どうやって侵入しているのか知らないが、琥珀は少し黙ったあと、起き出した。
「こんばんは、琥珀兄さん」
「……はぁ………。……こんばんは」
クーラーをいれているはずなのに、額から冷や汗がでていた。それを拭ったあと、琥珀は少し考えた。冬場の時は、この後灰純にココアを入れるのが毎回の決まりになりつつにあった、けれど今は夏。アイスココアももちろんあるが、どうも夏にココア、といったイメージがわかない。
少し考えたあと、確か材料は残っていたはずと思い出し、今日はアレを作ってみるか、とそのままベッドから起き上がって灰純を手招きする。
「おいで」
リビングに来た時、ムッとした空気が二人を出迎え、思わず琥珀は顔を顰めつつエアコンをいれた。灰純にソファで待ってて欲しいと行った後に、自分はキッチンへと行って材料を用意すると、とある飲み物を作る。
そして、灰純の前に差し出した。
「……レモネード?」
「この時期にピッタリだろ」
そう、琥珀が作っていたのはレモネードだった。ここ最近、自分のニジゲンであるリヒトがレモネードにハマったからか、よく作るのをもらったりしていた。灰純が相変わらずのお人好し、と呟いた後飲んでいる横目で、琥珀はそっととあるものを置いた。
「……え、チーズケーキ……と……? それ……」
「本当は日中に渡そうかと思ってたけど……今日、誕生日なんだろ? お誕生日おめでとう。こっちは灰純で、こっちは灰清の分な」
「……知ってたんだ、誕生日」
「聞いてたから、プレゼントの中身は開けてのお楽しみだ」
本当は今日、診察の日だったためその時に誰かにでも頼んで渡してもらおうかと思っていたが、まさかこんなタイミングで渡すとは思わなかったのだ。
ちなみに、プレゼントの中身は、ネコのオルゴールだ。ガラスの球体に、綺麗な夜空と、星を纏ったネコが手をそっとあげているデザインが施されていた。これらを買う時、丁度二種類あったため、ちょうどいいだろうと思って買ったのだ。灰純のは、猫が手を伸ばした先にあるのは蝶で、灰清のは花だ。
灰純はチーズケーキとレモネードを完食したあと、そっとプレゼントの箱を手に取る。
「琥珀兄さん、ありがとうございます」
「俺が祝いたかったから、帰るならこのチーズケーキ、灰清にも渡して」
そう言って琥珀は、ケーキ用の箱に残りのチーズケーキを入れて灰純に渡した。今日はハウスでお祝いされるのだろうなと思いつつ、琥珀は笑う。
今日一日、灰純と灰清にとって幸せな一日でありますように。