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    桜庭薫と貴音さんが、欲しいものについて語らう話

    ほしいものは、『ゆうて売れっ子アイドルなんだし稼いでるでしょ? 何に使ってんのー?』
    「……」
     たまたま点けたテレビから下世話な声が流れ出る。桜庭薫は即座にチャンネルを変えようとしたが、指がリモコンのボタンを押すより早くテレビはそのアイドルの顔を映し出したので薫は動きを止めた。
    (……彼女は)
     Jupiterが961プロを脱退するより前に765プロへの移籍を果たしたProject Fairyの一人――四条貴音は、嗤いを含む出演者の声など意に介さず、カメラ越しに薫を見つめている。
    「故郷の民に勇気を与え、いつか私自身が故郷へ帰るために、私には蓄えが必要なのです」
    「――」
     一点の曇もない瞳は揺らがない。
     ――いつのまにか握りしめていたイルカのペンダントは、薫の手の中でぬくもりを帯びていた。

     薫が彼女と初めて顔を合わせたのは、他事務所との合同ライブのためのユニット結成の時だった。
     貴音をセンターに、薫と古論クリスを左右に配するユニットで踊る『エージェント夜を往く』は見栄えが良いと評判だ。指導にレッスン、ライブのために三人で行動する機会が増えるうちに親交も深まった。柏木翼と同じくらいの健啖家で、視力が悪いのに頑なに眼鏡をかけようとはせず、クリスの海の話を理解しているのかしていないのかは分からないが静かに聞き入っていることが多い彼女は、帰りが遅くなった日には空を見上げて微笑んでいることもある。月夜を浴びる横顔を眺めて、薫はふと彼女の故郷について尋ねる気持ちが湧いた。
    「――君の故郷は遠いのか」
     唐突な問いに、しかし貴音はすぐに微笑みを浮かべて応じる。
    「はい。容易には帰れないほど遠くにあるのです」
    「随分帰っていないんだろう」
    「アイドルになってからは、一度も帰っていないのです。――ですが」
     見つめる視線は空の果てへ。
    「私がアイドルとして高みに上り、ロケットを手に入れた暁には、必ずや故郷の皆の顔を見たいと思っています」
    「……そうだな……」
     どこか淋しげで、イイ感じの空気の中で、薫はひっそりと想う。

     ――とてもロケットについて訊ける雰囲気ではないな、と。
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