杜野凛世:かたしろ:凛世が倉庫にある自身のフィギュアを見つける話「……!」
283プロの倉庫の一角、人知れず杜野凛世は身を震わせる。
これまでに発売された283プロのアイドルたちのグッズが保管されたその棚にはCDが並び、キーホルダー、タオルなどの小物も全て取り揃えられている。
「……」
凛世のフィギュアも、箱から出されることなく、そのまま。
「……プロデューサーさま……」
震えた声にうら寂しさが滲む。
フィギュアの発売から一年が経ったから、今年発売されたグッズ類の後ろにフィギュアは潜んでいた。追いやられたようだ、と思うと、凛世はそれが自分のことのように錯覚してしまいそうになる。
「――凛世? ここにいたのか」
不意にドアが開いて、プロデューサーが姿を見せる。さあと心に涼風が吹きつけたかと思えば心臓がちりりと焦げ、だというのに胸に覚えた寂しさはそのまま凛世の胸に穴を開けたままだった。
「、プロデューサーさま……」
「何見てたんだ? ――お、フィギュアか。すごく良い出来だよな、百時間配信も……はは、大変だったけどいい思い出になった」
「はい、ですが…………」
「?」
言い淀む凛世の顔を覗き込む長身。鼓動を早めながらも凛世はおもてを伏せ、フィギュアの入る箱のへりを指で辿る。
「このような、場所では……寒く、寂しいのではないかと……」
「……。――はは、なるほどな」
凛世が辿った上辺をプロデューサーもまたなぞる。フィギュアの頭あたりを撫でる手つきに、凛世は自分の頭を撫でられたかのような心地で肩をそびやかす。
「そうか、そういう考え方もあるよな。……フィギュアは、箱から出して事務所に飾ろうかとも思ってたんだ」
でも、と呟くプロデューサーの瞳はどこまでも優しい。
「事務所は、みんながリラックスできる場所だから。……ステージ衣装を着た凛世がいるのは違うと思って」
「――!」
言葉に顔を上げると、プロデューサーの顔は思いの外近い。
「……!」
「でも、凛世が寂しいなら、事務所にいてもらってもいいのかもな」
「いえ……! ……いえ、凛世は…………ここに、おります」
ステージで見せる煌めきは、事務所で放つには場違いなものだから。
「凛世は、事務所では憩いましょう……」
「……はは」
二人の手が、箱から離れる。
「そういえば、頂き物のフォンダンショコラがあるんだ。一緒に食べないか?」
「――はい。……でろーん……でございます……」
笑い声の余韻は、倉庫の中に閉じ込められた。