スピン・オフ 足を進めるたびに人に身体が当たる。痛みに顔をしかめると、スニーカーの上からハイヒールの凶器みたいな踵が離れていくのが見えた。たくさんの脚の中に紛れて、誰が踏んだのかなんて一瞬でわからなくなる。それぞれ自由に身体を揺らして音楽にのっている集団の中で、できるだけ居心地良い場所を探して右往左往。壁際にたどり着いたとしてもそこはぺったりと身体や顔同士をくっつけ合う人達ばかりで、まったく安住の地じゃなかった。濃い色の唇で笑う女の人達と、その周りに群がるような男の人達。楽しそうな顔ばかりのこの空間の中で俺だけが場違いだ。
フロアに爆音で響き渡る、EDMだか、トランスだか。音楽のジャンルはもともとよくわからない。この系統が好きかと聞かれたら、どちらかというと嫌いと答えるかもしれない。瞬く間に色を変えるチカチカと眩しいライト。身体を強く振動させるほどの大きな音。不安になるほど一定で途切れない、無機質な電子音。じっとして聴いていると酔いそうになってくる。酸素が薄くて息切れしそうだ。でも、そんな場所でも俺にとっては思い入れがあって。
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