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    mame

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    mame

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    出ロデ(プロヒ×パイロット)
    デクガチ勢モブ視点
    ※善良なモブとは別に腹が立つモブも出てきます

     最近、デクのファンサが垢抜けてきた。
     デクファン界隈に住む全員が頷くレベルで垢抜けた。
     ヒーローのときは眩しい笑顔で頼もしく救ってくれるというのに、いざ救助が終わると、テレビがある所では一気にぎこちない笑顔になり、ファンには照れながら手を振りかえす。
    「それが! 最高のギャップ萌えだったのに!!」
     ダンッと音を立て、中身が半分に減ったビアジョッキをテーブルに叩きつければ、正面に座っている同期も深くうなずいている。私はそれに「だよねえ〜」とテーブルにべちゃりと頬をつけた。火照った頬に、冷たいテーブルが気持ちいい。
     この同期とは入社式のときに、互いが日常使いできるわかる人にはわかるという大人のファンには有難いデクグッズを身に着けていたことにより、アイコンタクトを交わして以来の仲だ。入社式が終わってからしゃべったこともないのに自然と集まり、そのまま酒を飲みに行った。以降、デクファン仲間として定期的に集まっては酒を飲んでいる。
     生物学上、同期は男でわたしは女ということもあり、よくカップルに間違えられるが、ふたりの間にはデクファンという仲間意識しかないため、毎度そのからかいを回避するのに苦労する。今日も今日とて終業後、この同期をオフィスで待っているとお熱いねえなんて上司ににやついた笑みを向けられた。「誤解ですってえ~」と笑って答えたが、心の底から小指をタンスでぶつけてほしいと願っている。骨折しない程度で。休まれたら困るので。
     そうして始まった今日の飲み会は、会社の愚痴からはじまり、すぐに最近のデクについてになった。議題は最近ファンサが垢ぬけてきたデクについてである。
    「デクになにがあったの? 最近私服もかっこよくない? あのよくわかんないおもしろTシャツどうしちゃったのよ」
    「ひさしぶりに見たいよな。俺『ネルシャツ』がすき」
    「わかる~! わたしは『カットソー』!」
    「わかる……」
     ぼりぼりと漬物を食べながら、同期が深く頷くので、私も深く頷き返した。
     そう、最近ファンサだけでなく週刊誌に取り上げられたり目撃情報としてSNSにあがる私服も随分おしゃれになったのだ。ベビーフェイスながらに筋肉があるので、それがまた似合う。ファンのひいき目かもしれないが、先日撮られていたビッグシルエットのセットアップなんて最高にかっこよかった。
    「ファンサもファッションも垢抜けたデクなんて、デクなんて……!」
    「ただカッコいいだけなんだよな〜!!」
    「それ~~~~~!!」
     苦虫をかみつぶしたような声を出した私のセリフに、同期が力いっぱい乗ってくれる。それに私も全力をもって同意を返した。
    「最高!」
    「そうそれはそれで最高!」
    「スマートなファンサもされたい!」
    「ちょっと寂しいけどさらにカッコよくなったデクに乾杯!」
    「かんぱーい!!」
     それなりに酒も進んでいる私たちだ。推しのことを話し盛り上がるのは酒なしでも全然いけるが、酒が入っているとテンションがさらに上がるわけで。本日何度目かになる乾杯をするべく、ふたりしてガツンとビアジョッキをぶつけあった。
    「でも実際よ……? いままで、かわいい〜!! で済んでたデクのファンサ受けたらさあ……どうなるかな……」
    「俺は卒倒する自信がある」
    「それな」
     ぴっと私が同期めがけて指をさした瞬間、隣のテーブルからプッと吹き出した音がした。ちらりと横目で見れば、茶髪をゆるく首の後ろで結んだ男性が肩を揺らしていた。顔は俯いていてわからないけれど、おそらく日本人ではない。アジアンテイストの派手な柄のヘアバンドで髪を整え、ハイネックのインナーの上からチェスターコートを羽織っている。かなりのおしゃれ上級者だ。そんな相手におそらく聞こえたスーツ姿の自分たちの会話。すこし気まずくなって、声がデカすぎたか、と私が反省したときだった。
    「楽しそうにはなしてんじゃねえか、俺も混ぜてくれよ」
     見知らぬ赤ら顔のおじさんに話しかけられたのは。
    「……知り合い?」
    「いや……」
     同期にこっそり話すが、眉間に皺を寄せた同期の表情に迷惑な酔っ払いだとすぐに理解する。テーブルの横に立ったおじさんは、わたしたちを交互にみながら相変わらずにやついている。
    「いまからふたりともいちゃこらするんだろ~? そのまえに俺ともさあ~」
     ぞわりとする発言に一気に嫌悪感がます。舐めるようにわたしを見てくるその男に、同期が慌てて立ち上がってくれるが、やけに動きが早く。べたべた触れてくる手は止められなかった。
    「いや、ちょっと、すみません。そういうのは」
    「なんだあ? 自分だけのものってかあ?」
     同期のものでもないしあんたのものでもないし、私は私のものだ! と啖呵を切りたいのに、同期の制止も聞かず肩をさわってくる手に嫌悪感が強すぎて喉がひきつった。下手に刺激すれば同期が怪我をする事態になるかもしれない、なんて考えれば余計に動けない。こちらの異変に気付いた店員もどう声をかけようか迷っている様子だった。
     どうしよう、どうしよう。そう頭が不安だらけになった、そのとき――。
    「Hey, what are you doing The woman is in trouble.A man does not seem to be fun, too.Therefore is your action not wrong」
     流暢な英語がテーブルにするりと届いた。自然と俯いていた顔をあげれば、酔っ払い迷惑おじさんの肩を組み、薄い笑みを浮かべながら笑顔でしゃべりかけている男性。
     あ、隣に座っていた人だ。すぐにそうわかって、わたしは目を見開いた。
     迷惑おじさんは突然入ってきた外国人にたじろいでいる様子で、その外国人はというと、呆気にとられている同期と私にパチンと華麗にウィンクをして、そのままおじさんを連れて歩き出す。うそでしょ、ウィンクってあんなに様になるものなの。
     男性は席の合間を抜け、店員に目配せをしてそのままレジに向かって連れていく。まわりの客もその姿を固唾をのんで見守っていた。
    「It is good to drink liquor happily.However, it is not good to trouble a person」
     どうやら男性の荷物を持ってきたらしい店員からその荷物を受け取り、茶髪の男性は財布をとりだして、迷惑おじさんの手を出させ丁寧に渡した。迷惑おじさんもその財布を素直に受け取る。
    「How much?」
    「三七〇〇円です!」
    「OK! サンゼンナナヒャクエン!」
     ほらほら、と笑顔でおじさんに話しかけ、そのおじさんは何が起こっているかわからないまま財布からお金を取り出し、会計を済ませてしまった。ばしばしと迷惑おじさんの背中を気を良く叩いた茶髪の男性は、そのままその背を押して、店の扉を開ける。
    「Go the fuck home and suck your mama's tities」
     ひらひらと手を振り、酔っ払いを外に出した。おじさんは混乱しながらも、なぜか笑顔でひらひらと手を振り、そのまま去っていった。その背中が道を曲がって見えなくなったところで、茶髪の男性が店の扉を閉めた瞬間――店内が歓声で満ち溢れた。
     各テーブルからすごい、なんだいまのと言葉が飛び出る中、ぱちぱちと瞬きをしながら目を合わせた私と同期は店員にお礼を言われている茶髪の男性に駆け寄った。
    「あの、ありがとうございます!」
    「あ、英語! サンキューソーマッチ!!」
     すらりと立つその男性はやはり顔立ちが酷く整っていた。大きな目が駆け寄ってきた私たちにきょとんとし、すぐに目を細めゆるりと微笑んだ。
    「大変だったね、オニーサン、オネーサン」
    「あれ、日本語……」
    「ちょっとだけだけど話せるんだ」
    「え、じゃあさっきの英語は……」
    「ああいう輩は訳がわかんないことが起きると処理するまでに時間がかかるからさ。英語捲し立ててその間にご退場願ったってわけ」
    「はあー……なるほど……策士……」
     同期が感心した声を上げた。わたしもその隣でこくりと頷く。本当に流暢な英語でぺらぺらと捲し立てていたので、英語が苦手なわたしにはまったくなにを言っているのかわからなかった。しかし落ち着いた今となってはあの笑顔で何を言っていたのか気になってしまう。
    「なんて言ったんですか……?」
     おず、と尋ねれば、さきほどの酔っ払いにみせていた笑みとは全く違う爽やかな笑みを男性は浮かべた。そして両手を上げおどけたように口を開く。
    「オネーサンとオニーサンが困ってるから酒はやめて、クソ野郎はおうちに帰ってママのミルクのみな~って懇切丁寧に言ってやったんだよ」
     肩をひょいと竦めて整った顔でそんなことを言うので、同期とわたしはぷっと噴き出してしまった。そしてわたしは肩に入っていた力がすっかり抜けたことにようやく気付いた。
    「酔っ払い相手するのは結構慣れててね。俺もデクのファンなんだ。隣から聞こえる会話、盗み聞きして楽しませて貰ってたからさ。余計なお世話かなとは思ったけど、困ってたっぽかったし、盗み聞きしちまったお詫びってことで」
     ふっと息を吐くように、そんなことを言ってくれた男性に、同期とわたしは思わず顔を見合わせた。こういうのは離したらいけないのだ。
    「おにいさん、一人で飲んでるんですか」
    「へ? あー、待ち合わせ相手が遅れててさ。さっきひとりではじめたとこ」
    「じゃあ、俺たちとちょっと話しませんか! お礼にご馳走しますよ」
    「え!? いやそれは、えーっと……俺としてはありがたいんだけど、アンタたちが卒倒しちまうかもしれないっていうか」
     フランクな男性のことだ。すぐに誘いに乗ってくれるかと思ったのに、男性はわたしたちの勢いにすこしたじろぎながら苦笑している。どう攻め落とそう。絶対に話が分かる相手だ。と、考えたと同時。がらりと店の扉が開いた。
     店の扉の前に立っているわたしたちは、思わずその客を凝視する。店にその客は入ってきていないので、他の店内にいる客からは見えない角度に立つその客は、わたしたちが口説き落とそうとしている男性の姿を見てパッと表情を明るくする。
    「ごめん、ロディ遅れた!」
     夜だというのにキャップを被った扉を開いた客はまだ店の外にいるというのに、慌てたように声を上げた。
     その声、その表情、その客の姿に、わたしたちは見覚えがあった。見覚えが、ありすぎた。
    「でっ、でっでっ」
    「あ、こちらの方々と話ししてた?」
    「はー……お前なんていうタイミングで来るんだよ……」
    「でっ! でっ!!」
    「あれ、お邪魔だった? すみません」
     キャップをとり、ぺこりと客が頭を下げる。ふわりと出てきた癖っ毛は緑がかっていて、かすかに香るシャンプーの匂いに気が遠くなりそうになった。
     茶髪の男性が右手で顔を抑えた。あっちゃーといわんばかりのそれに、先ほど言った彼の言葉の意味を知る。

    ――いままで、かわいい〜!! で済んでたデクのファンサ受けたらさあ……どうなるかな……
    ――俺は卒倒する自信がある
    ――それな
    ――アンタたちが卒倒しちまうかもしれないっていうか

     蘇る自分たちの会話。それを聞いていたらしい隣の席の茶髪の男性。
     そう、目の前にいる客。そして、わたしたちを助けてくれたイケメンのお兄さんの待っていた連れは、私たちの推しである「デク」だったのだ。
     隣の同期はあんぐりと口をあけて固まっている。わたしも目が回りそうになりながら、現状を把握するのに必死だ。
     そんなわたしたちを見て、茶髪の男性がデクに耳打ちをする。慣れたようにデクが男性に顔を寄せるので、わたしはそれにも驚く。
    「とりあえず、デク。お前、このお二方にファンサしてやってくれ」
    「えっ!? あ、もしかして僕のファン……?」
     驚いたようにわたしたちを見てくるデクに、言葉もなく同期とわたしはこくこくと首が取れそうな勢いで頷いた。なにか言わなければと焦るが、なにも気の利いた言葉など出てこず、わたしは決死の想いで口を開いた。
    「いつも応援してます!」
    「わあ、ありがとうございます」
     やわらかく微笑んだデクはそう言ってわたしたちの前に手をさしだしてきた。こ、これは!? どうしていいかわからず、同期とさきほど自分たちを助けてくれた男性に視線だけで助けを求める。すると苦笑を浮かべながら、男性が「アクシュだよ」と小声で教えてくれた。なにからなにまでありがとうございます。
     その声に弾かれた様に手汗を勢いよくスーツで拭いて、デクの手を握れば、力強く握り返してくれた。ああ、これがたくさんの人を笑顔で救う手――。
    「びっくりさせるつもりはなかったんだ。デクが来る前に抜け出すつもりだったんだけど、悪かったな」
     傷だらけの手に浸っていると、こそっと男性客がわたしたちに打ち明けてくれる。
    「い、いえ! ほんと! なんかもう、ごちそうさまでした!」
    「ゴチソウサマって食後にいう言葉じゃねえの」
    「ううん、そうとも限らないんだよね」
     まだ混乱し変なテンションのままわたしがそういえば、男性が首を傾げるのにデクがくすくすと笑いながら答えてくれた。隣に立つ同期は涙目だ。わかる。わたしもそろそろ泣きそう。
     店内がいつまでも入ってこない客と、なぜか大興奮しているわたしたちを変に思い始めたのかちらちらとこちらを見てくる。それがどうやら合図だったらしい。いつのまにか見守るようにわたしたちのやりとりを見ていた男性がデクに声をかけた。
    「場所かえるか。この前気になるって言ってたとこあったろ。ここから近いんじゃねえかな」
    「そうしよっか。席あいてるかな……電話してみるね。あ、ロディ飲んだ?」
    「少しな。すみません、オアイソおねがいします」
     財布を取り出した男性がそのままレジで会計をはじめる。その日本語を話す、ロディと呼ばれた男性の背中をデクがひどく優しい視線で見つめていた。その表情に、きっと謝らなければならない状況なのにわたしはなにも言えなくなってしまった。そうしているうちに、ふたりはやることを済ませ、くるりと私たちへ視線を投げてくる。
    「じゃ、楽しい夜を」
    「ゆっくり飲んでくださいね! 応援ありがとうございます!」
     そう言って、会計を済ませた男性とデクはにこやかに、そしてスマートに店から出ていった。迷惑そうな気配なんて微塵もみせずに、私たちに気を遣って、颯爽と出ていったのだ。
     閉められた扉をしばらく見つめ、同期とわたしは無言のままふらふらと席に戻った。
     いま起こったことを必死で脳内で反芻する。
    「か、かっこよかった……」
    「いまだになにがおこったのかわかんねえ……」
    「デクのお友達に助けて貰ってデクと握手したんだよ」
    「なんで?」
    「わからん。マジで全くわからん」
    「わからなさすぎてギリギリ卒倒しなくて済んだ……」
    「あのお兄さんがクッションになってくれてなかったら間違いなく卒倒してたし泣いてた」
    「それな」
     がっと頭を抱えたまま、両肘をテーブルにつく。同期も同じポーズをしていた。
     テレビでもSNSでも週刊誌でも見たことのないようなデクの顔が脳裏に焼き付いている。そしてひとつの可能性に思い当たり、わたしはハッと顔をあげた。同期を正面に見据え、意を決して口を開く。
    「ねえ、なんか、デクが垢抜けたのって、もしかしてさ」
    「やめろ口に出すな、俺たちの心の中で留めておくぞ」
     その言葉をすかさず遮ってきた同期の真剣な表情に、わたしは震えた。そうだ、その通りだ。いまわたしが口に出そうとしたのは、間違いなくスクープになりそうなネタである。推しの幸せがわたしたちの幸せなのだ。わたしは強く頷き返した。
    「がっ、がってん……!」
     沈黙がテーブルに落ちる。そうして、わたしはすっかり温くなってしまったビールの入ったジョッキを勢いよく持ち上げた。
     ざわざわとうるさい店内。空いた隣のテーブル。わたしたちの会話は、今度こそ誰も聞いていなかった。
    「……乾杯しよ」
    「するしかねえな」
    「「かんぱーい!」」
     わたしの誘いに、同期も力強く頷いた。やはり持つべきものは推しと、話の分かる同期。
     本日何度目かわからない乾杯は、わたしたちの人生を彩ってくれるデクと、そのデクの人生をどうやら彩ってくれているらしい素敵なお兄さんにささげたものになった。
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