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    mame

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    mame

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    出ロデ プロヒ×パイロット
    ※互いに両想いなのはわかってるけど付き合ってないふたり
    設定・過去作( https://twitter.com/i/events/1431533338406178824)
    完結の巻(前編)

     出久がロディの制服姿を見るのは二度目になる。
    一度目は再会当日。そして今回が二度目――に、なる、はずだ。出久の計画通り、ことが進めばの話だけれど。
    国際便の受付カウンターがある広いロビーの椅子に、落ち着かない様子で出久はマスクを外さないまま腰を落とす。顔の半分が隠れていたら、案外ヒーローがプライベートで空港にいてもバレないものだ。
    ざわざわと騒がしいロビーには午前中ということもあり随分と人が多い。あの家族はどこに行くんだろうなあ、なんて視界に入った楽し気な一家を眺め、マスクの下で口元を緩めた。
    記憶にある一度目のロディの制服姿を出久は思い出す。すらりと伸びる手足を覆うパイロットの制服。とてもよく似合っていた。あれはロディの夢の形だ。
     フライト後の国際便のパイロットをはじめとするスタッフは、出久のいるロビーを横切って宿泊先のホテルに向かうらしい。制服姿なのはフライト先のロッカーは限りがあるらしく、ホテルで着替えるのが一般的らしいのだ。
    ほんの数日前、今更知った事実だ。ちなみにこの情報はインターネットの知恵袋サイトで知った。じゃあホテルに行かず出久の部屋にくるとき、ロディは制服をどうしていたんだろう、とか。私服にはどこで着替えていたんだろう、とか。出久が以前迎えに来たときはロッカールームらしき場所を出入りしていたけれど、どういうことだったんだろう、とか。色々ロディに聞きたくなるけれど、すぐ尋ねられる状況にないこと。そしてロディについて知らないことが多くあることを改めて突き付けられ、情報を集めている最中に何度も反省して穴があったら入りたくなった出久だ。
    しかし知恵袋だけでは情報がたりない。そんなわけで出久は、出久を絶望に突き落とすロディ目撃情報をくれた爆豪にいつ・どこでロディを見かけたのかこと細かく聞いた。若干引きながら、犯罪だけは犯すんじゃねえぞと心外なことを出久に口にしつつ、爆豪はロディを見かけたときの状況を教えてくれた。
    その情報から、出久は再会のタイミングのフライトや過去ロディが出久の家に来た日・時間の情報を加えていき、ロディが乗っているのではないか、というフライトをいくつかはじき出した。ここまでくると正直気持ち悪いな、と、ぎっしりと、このフライトをはじき出すために書き込まれたノートを眺めながら出久自身も思った。幼馴染の犯罪だけは、というセリフはここに直結するのかとようやく思い至ったりもした。
    はじき出したフライトと出久のオフの日が被ったのは、飯田と轟に背中を押してもらった日から二週間。ロディとの連絡が途絶えてから、三ヵ月近くたっていた。
     オセオン航空のカウンター横の職員専用通路から出てきて、自動ドアを経て、ホテル直通シャトルバスが出ているらしいバス乗り場までのストレート。その間にロディを捕まえなければならない。
     あくまで出久のはじき出した答えであって、今日会えない可能性は十分にある。ちょくちょく臨時便で来た、なんてこともロディの話ではあった。でも。出久は左手にはめた腕時計を見やった。出久の予想通りならば、そろそろだった。
     さすがに通路前に立ってそわそわしていたら警備員に声をかけられてしまうだろうと少し離れた椅子に座ったのだが、ちょうど通路の扉は死角に入ってしまった。出入りする人間が数歩歩いてからでないと、出久からは見えない。
    出久がオセオン航空のカウンターへちらりと見る。約十メートルの距離にある、そのカウンターの奥。以前出久がロディに貰ったプレゼントのシャツを修繕してもらった職員専用通路があるはずの場所。そこから、ついに、制服姿の壮年の男性が出てきた。思わず目を見開いて驚いているうちに、次いで同じ制服のスタッフが出てくる。そうして見間違えるはずもない、この三ヵ月――否、二年間焦がれ続けた人間を、出久は視界に捉えた。
     視界にロディが入った瞬間、椅子につけていた出久の腰が浮く。赤いスニーカーでフロアを蹴って飛び出した。絶対に、逃がしたくなかった。
     前を歩くスタッフとにこやかに会話をしているロディとの距離が縮まる。先頭を歩いているおそらく機長だろう人が自分たちに向かって突っ込んでくる人間に気づいたらしく、目を見開き、すぐにBe wary と、後ろに並ぶスタッフに叫ぶようにして声をかけた。オセオン航空のカウンター回りの空気が変わったと同時、警戒する人混みと一列に並ぶ航空スタッフを素通りし、出久は目的の細い手首をがしりと掴んだ。白いシャツの袖ごと掴んだその手首は、ロディのものだ。出久に手首を掴まれたロディはというと、こぼれるんじゃないかと心配になるほど目を見開いていく。掴んだ手に持っていたらしい鞄が床にどさりと音を立てて落ちる。
    「ロディ、」
     彼の名前を呼んだと同時、警備員がこちらに走ってくる気配にぎょっとする。ロディの周りにいるスタッフが「彼を離せ」「君、落ち着きたまえ」と声をかけてくるものだから、出久はハッとしていまの状況をやっと考えた。
    ロディと話す機会を作らなくては、という一心の出久の行動ではあるけれど、冷静に第三者から見てみれば職員通路から出てきた空港スタッフにいきなり突撃して、スタッフを拘束した見知らぬマスク姿の男、が、いまの出久である。
    ――ごめん、かっちゃん、もしかしなくても、やばいかもしれない。
    「……デク?」
     頭がまっしろになりかけたところで、耳に届いた声に出久は顔を上げる。思わず涙腺の奥が刺激された。久しぶりに聞いた。一度聞けるようになってから、こんなに聞かない期間はなかった、低く落ち着いた、しかしどこか甘い、ロディの声。
    「ロディ、話が、したいんだ」
     多分、情けない顔をしていたと思う。だって出久の口から出た声はひどく震えていたから。
     ロディはというと、ぐるりと周囲を見渡し、大きくため息を吐いた。そして出久がつかんでいた手をバッと振りほどいてから、うなだれかける出久の肩にその腕をガッと回し、にっこりと笑って周りを見た。
    「すみません、知り合いです! 久しぶりに会って感極まっちゃったみたいで!」
     流れるように、自然に。警備員や視線を注いでいた人間に聞こえるようにロディはそういった。肩を組まれた出久はロディが助け舟を出してくれていることにようやく気付き、真剣な表情でこくこくとうなずいた。その姿を、ロディはのちに土産屋で見た虎の首振り人形みたいだったと述べた。閑話休題。
     警備員が迷惑そうな顔をして持ち場に戻っていく。止まりかけた人の流れが、ゆっくりと動き始める。しかしロディと出久を見てくるスタッフの視線は、まだ心配の色が濃い。そりゃ一部始終を見ているのだ、知り合いだとしても出久がロディにとって危険人物じゃないとする判断材料が彼らにはまだ足りないのだ。
     そんなスタッフたちに、ロディは一度、空いている手で頬をぽりとかいて、苦みの混じる笑みを浮かべた。
    「例の知り合いです。先に行っててください」
     スタッフたちにはロディの発言に思い当たる節があったらしい。先頭を歩いていた真っ先に出久に気づいた男性がロディに「本当に大丈夫なのか」と声をかける。身長の高いロディに肩を組まれ、わずかに体の位置が沈んでいる出久がロディを見上げると、男性の言葉にロディは苦笑したまま頷いた。ロディの言葉にスタッフたちは目を合わせ、何かあったら連絡しろと言いのこしその場を離れていった。
    それからも数人がちらちらこちらを見てくるのを、ロディは薄く笑って大丈夫だという意味を無言で見せて、自分たちの周りから誰もいなくなったのを確認してから、顔に張り付けていた愛想のいい笑みをべろんとはがし、盛大に肩を落とした。そして、肩を落とした勢いそのまま出久の目線に合わせ、ぎろりとにらみつける。
    「デーク、お前なあ……?」
    「ごごごごごめんね!? ロディ見つけたら捕まえることしか考えてなくて!」
    「こんなとこまできてなんだっつーんだよ」
     やっと出久を開放したロディが腰を曲げ、落とした鞄を拾い上げる。鞄がロディの手で少し開かれると、中からピノが飛び出してくる。飛び出した勢いそのままピンクの小鳥の嘴が出久の頭に突き刺さった。
    「ピュルピピピピピ!」
    「あだだだ! ピノそこにいたの!? ごめんね、ほんと!!」
    「はあ~~……落ち着けピノ、戻ってこい」
     出久の肩にとまろうとしたピノをロディががしりと鷲掴んだ。そのままその手を後ろで組んでしまうので、出久は慌ててロディをみた。ピノに叱られつつかれた頭はまだ痛い。ロディが出久を観察するようなまなざしで見ていることに、少々ひるむが、それでも出久はぐっと奥歯をかみしめた。
    「話ってなんだよ。先行っててくれって皆に言ってあるんだ。手短に頼むぜ」
    「手短にはできないと思う。皆さんには僕のせいっていって貰って大丈夫だから、話をする時間をくれないかな。本音で話したい。君の、ロディの本音を聞きたい」
     ロディの目がわずかに座る。はっと漏らす息とともにロディは軽薄そうに笑って、それはさ、と口を開いた。
    「だから、十万ユールだって言ってんだろ」
    「うん、だから十万ユール持ってきた」
    「……は?」
     ロディのグレーの瞳がぱちぱちと開け閉めされる。小さく開いた口から洩れた疑問の音に、出久は持ってきた自分のボディバッグから封筒を取り出した。しっかりした厚みがある封筒を、そのままロディの前へ差し出した。
    「十万ユールだよ。君の本音をみせて」
     信じられないと、ロディの顔に書いてある。呆気にとられた表情のロディの目線は封筒と出久を行ったり来たりしている。出久の手にある封筒の中身はオセオンでいう十万ユール。日本円でいう百万円。つまり一万円札が百枚入っているわけだ。
    「ばっかじゃねえの……? お前、これ、ほんとに……?」
    「朝イチでおろしてきました。貯金しててよかった」
     給与口座にそのまま貯めているお金をがっつりおろした。大金だ。さすがに窓口で手続きをしたのだが、大分ドキドキした。まじめに、ロディの退路を塞ぐ方法を考えた。そうしたら、十万ユールは必要アイテムだったのだ。
     まっすぐに出久がロディを見つめると、うろたえ続けていたロディが「はあーーーー」とそれは大きなため息を吐いた。
    「しょうがねえな、ったく……」
     イラつきながら頭をかいたロディは胡乱な視線を出久に寄こし、あごをしゃくった。
    「場所移すぞ。こんなとこみられたら懲戒免職なっちまう。展望台にでも行っとけ。着替えたらいくから」
     ロディの言葉にわかったと出久はうなずいた。ピノの姿は、ロディに隠されたままだ。
    でも、傷つける覚悟も傷つけられる覚悟も決めて、出久はここに十万ユールと共に乗り込んだのだ。
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