Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ほしいも

    @20kmtg

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 138

    ほしいも

    ☆quiet follow

    鍋を食べる素山兄弟
    ■狛恋と猗窩煉の狛治と猗窩座
    ■現代パロディでナチュラル双子設定

    「恋雪さんと一緒に居ると、どうも自分が自分でないようで落ち着かない。」
    「たしかに、恋雪を前にしたお前は気色が悪い。」
    「きしょ…。」
    「きーっしょい。俺の顔で挙動不審になるな、みっともない。」
    「俺の顔は俺のモンだ、ふざけたこと言うな。」

     カセットコンロの上に乗せられた鍋が、ぐつぐつと音を立てて煮立っている。鍋を挟んで向かい合う少年が二人。鏡写しのように瓜二つな兄弟は、一卵性双生児の双子である。先に産声を上げた狛治に続き、18分後に控えめな泣き声を響かせた猗窩座が弟という事になっているが、当人同士にどちらが兄で弟かという拘りはなかった。
     狛治が煮立つ具材を菜箸で器用に掬い取って取り分ける。白菜、えのき、豆腐、豚肉、しいたけを摘まむと「それ要らない」と既に箸を手にして待っている猗窩座から横槍を入られる。菜箸だとしても手を付けた食材を鍋に戻す気にはならず、また、一世一代の大恋愛の悩みを吐露した結果気色悪いと切り捨てられた事も胸中に燻ぶっていて、しっかりと耳に届いたしいたけ拒否の意思を無視して皿に入れる。ダイニングテーブルの下で狛治の脛に、裸足の爪先がぶつけられる。
    「好き嫌いするな。」
    「好き嫌いではない、要らないって言っただけだ。」
    「屁理屈。」
    「意気地なしで神経質なんていいとこなしだな、狛治。」
    「うっせーぞ、黙って食え!」
    「顔だけは良いな、俺とお揃いでよかったな~!」
     取り分けた皿と菜箸に両手が塞がっていなければ、間違いなく拳が飛んできていただろうが、幸いにも手が塞がっている為に脛への蹴り入れを返されるだけで終わった。口論と、一撃ずつの蹴り合いをしながらも、一食分取り分けられた皿は大人しく受け取って湯気の立つ鍋の具材へフーフーと細く息を吹きかける。


    「……、気色悪いか。」
    「は?」
    「恋雪さんの前で、俺、そんなにきしょいか。」
    「……。」
     各々おかわりを繰り返し、シメの煮込みラーメンが茹で上がるのを待っている間、煮立つスープの音に掻き消えそうな声が卓上に落とされる。中まで熱が通って、いつまでも熱々の豆腐を一口よりもずっと小さく切り分けて、口に入れても平気な温度までフーフーと一生懸命に息をかけていた猗窩座は一度深く息を吸い込んで閉口した。
    「お前が先生に向かっていく時より気色悪いってことか?」
    「は?」
    「あれもなかなかきしょいぞ、見ていられない。」
    「杏寿郎のことを言っているのか?」
    「煉獄先生に突進していくお前の話しをしてるんだ、先生のことは言ってない。」
    「俺はきしょくない。」
     火照った体に麦茶飲むと、喉から胃に落ちていく感覚がありありと伝わってくる。思い人を前にしたとき、自分の体が自分のものではないように勝手に熱くなったり、汗に冷えたり、声が出なかったり、かと思えば想像よりも大きな声が出たりと忙しない。もしかしたら、その時に良く冷えた麦茶を飲んだら、この体は俺の物だと思い出せるかもしれない。また、自分の事をこれだけからかってくる猗窩座なら、もっと上手に立ち振る舞うのかと思うと、ぐらぐら煮える麺を眺めたままの狛治の顔に、自然と影が落ちていく。

    「お前はあれこれ考えすぎなんだ、むっつりすけべ。」
    「うるさいな。」
    「その小さな脳みそで捏ね繰り回すより、恋雪に委ねてしまえばいいだろう。」
    「恋雪さんに全て話すなんて…。」
    「俺は、杏寿郎が明日の朝ことっと息をしていなくてもいいように全部言う。言うことにしている。」
    「縁起でもない。」
    「恋雪もそうだろ。お前も、俺も、次の朝陽を見られる保証はないぞ。」
     少し柔らかく煮詰めすぎた煮込みラーメンを取り皿へよそいながら、何でもないような調子で猗窩座が続ける。またね、と言ってもう二度と会えないことがざらにある事は、今までの人生で幾らか経験した。目蓋の裏に浮かんできた姿を振り払って、息を吐く。再び浮かんでくるのは、思いを募らせて堪らない恋雪の姿だった。花が綻ぶような慎ましい笑顔に、鈴を転がしたような声で名前を呼んでいる。

    「……恋雪さんは、花のような女性なんだ。」
    「はい?」
    「恋雪さんの目の中には、花が咲いていて…」
    「おい、なんだ。」
    「俺はあの花を見ると、もう駄目なんだ。」
    「まてまて、俺に話してどうする。」
    「恋雪さん…すきだ…すきなんだ。」
    「わかった、わかった。好きなんだな、明日本人に直接言えよ。」
    「お前に分かって堪るか。」
    「生意気!」
     煮込みラーメンをふたたび取り分けると、ずっと箸をつけていなかったしいたけを上に添える。頭を抱えてひとり譫言のように呟く兄の前に差し出す。

    「頭の中が花畑とは聞いたことがあるが、目ん玉まで花畑なんてお似合いじゃないか。」
    「おい、しいたけ。」
    「好き嫌いすると、花の君に嫌われるぞ。」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖☺👏🙏❤💗
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works