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    @20kmtg

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    夢を見る宇煉
    ■死ネタみたいな感じです…死ネタとも言わないかもしれないけど…
    ■書きたいところだけ書きました…。

    前触れなく届けられた声は任務を終えたばかりで互いに返り血に濡れたままで、激闘の痕跡を復旧するのに汗をかく隠の目の前で聞くには、些か緊張感に欠けるものだった。良く通る声が「音柱!」と自分を呼び止める。まるで街で出会った知人に声を掛けるように、この状況を何でもない日常の地続きであるような響きだった。
     会話らしい会話はこの時が初めてだった。代々炎柱を輩出している由緒正しい剣士のお坊ちゃん。その剣技は申し分なく、戦場での立ち居振る舞いは目を見張るものがある。現に、この度の任務も被害を最小限にかつ瞬く間に鬼の頸を刈り取る事が出来たのは自分だけではなく、あの赫い斬撃の功績は大きかった。
    「君、所帯持ちなのか。」
    「ああ、女房が三人。」
    「三人!そうか、それは残念だ。」
    「はあ?」
    「残念だと言ったんだ。」
    「残念なことあるかよ。」
    「俺から手出しが出来ないじゃないか。」
    「はい?」
    「君にその気になって貰わなくてはならんと言うことだ。」
    「なん…。」
     功労者だからと言って、健闘を称え合うでもなく、かといって任務に絡む言葉でもなく、あくまでも個人的な事だけを捲し立て返事も待たずに背を向ける炎の羽織りを見届ける。
    「なんなんだ、彼奴。」
     品の良さそうな鎹鴉が炎柱の傍に寄り添うと、次の任務地を告げている。隠が数名、慌てた様子で彼の身なりを整えようと汗を流して手ぬぐいを広げている。世話をされる事には慣れているようで大人しくされるがままになりながら、それでも歩みを止めることはしない。どこまでも不思議な男だった。

    *

     久し振りに再会を果たしたのは、花の咲き誇る園だった。まるで夢のように美しいその場所は、自分は勿論、燃え盛る炎を宿した彼にも酷く不釣り合いに見える。
    「おい、そこの美丈夫!」
    「おー、お前まだこんなところに居たの?」
    「俺の取り分が随分と減っているように見える!」
    「取り分ね。」
    「四分割しなければならないんだぞ、隻眼に隻腕だなんて聞いていないが!」
    「土手っ腹をくれてやった野郎が何言ってんだ。」
     幾年も重ね枯れ柳のようになった手を伸ばす。濡れてこそいないものの向こう側を覗かせるその姿に、夢見の悪さに思わず笑えてしまう。どうせ夢ならば、派手に都合よいものを見たいものだ。
     齢二十のままで止まった煉獄の張りのある指先が、枯れた手をとる。触れ合った個所から、熱を分けて蘇るように彩りが広がる。一歩、距離を詰めると身を包んでいた衣が在りし日の懐かしい隊服へと変わる。そうそう、夢見はこうでなくてはいけない。

    「細君たちが此方へ来るまで、君を独り占めにしてもいいだろうか。」
    「お好きにどうぞ、欲張りさん。」
     花散る園でたった二人、夢を見る。今生では決して叶わなかった夢だ。
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