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    kubikubiri3

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    極道PPF 初代うさぎ頭 始まりの話

    推奨される愛玩動物と死にかけの美少年について「ペットに相応しい動物って、なんだと思いまス?動?」

    「…へ?」


    …自分が初めて彼に会ったのはもう15年も前のことになる。自分も彼も、10代前半の時。

    清潔に整えられたベッドの上、いくつもの管で繋がれた美しい少年。それが、七司之瞬だった。

    生まれてから…正しくは、異国の地の孤児院で死にかけていた彼を偶々、旅行で訪れていた日本の富豪の七司之夫妻が養子として引き取ってからずっと、彼はこの病室の一角でひたすら治療を施されている。生まれながらの免疫不全。内臓の機能不全。生殖機能の…とまあ、全身くまなく全てに何かしらの不備がある。

    ただ息をするのも奇跡であると主治医であった父に言わしめる程に彼の体は弱々しく、壊れかけているのだ。それでも惜しみなく注がれる金銭で雇われた医者達の尽力で、彼は息をしていた。

    しかし、お世辞にも気楽に生きられるとは言い難い環境でありながら彼は朗らかで聡明な性格であった。彼にとって異国であるこの国の言葉もすぐに覚え、本で知識を増やし、辛い治療にも弱音を吐かず、医者や義両親へもいつもニコニコと明るく愛らしく対応して、誰もが彼を愛していた。

    だからこそ、彼が唐突に「友人」がほしいと言い出した時、義両親はその申し出を叶えるために奔走し、父にすぐに相談したらしい。

    衛生的に医療関係者以外を近づけない方がいい状況ではあったが、それでも父がそれを叶えようとしたのは、メンタルケアの一環だったのだろう。滅菌された病室で白衣の大人ばかりに囲まれてばかりではストレスも溜まる。同年代とくだらない話もしたいだろう。それならば 、と彼と同年代だった自分に白羽の矢が立った。

    自分も、悪い気はしなかった。
    仕事で滅多に帰ってこない父の側にいられるのも嬉しかったし、皆に愛される病弱な少年、という映画の主人公のような存在にも少なからず興味が湧いていたから、半ば喜んでその申し出に頷いた記憶がある。



    …初めて彼を見た時、素直に綺麗だと思った。色素の薄い肌に細い首元。整った顔の大きな緑の目は静かに手元の本を眺めていた。それが自分に向けられた瞬間愛らしい笑顔の形になる。



    「貴方がボクの【ともだち】ですカ。…どうモ。はじめましテ。」


    少しイントネーションが独特の落ち着いた声。…たしかに愛らしく綺麗な姿だったが、初めて遭ったその時から、自分は違和感を覚えていた。…それを、具体的には表現出来なかったけれど。


    しかしながら、彼との友人関係は、想像以上に静かに穏やかに発展し、そして意外にも彼はよく喋った。というよりは、よく質問をされた。自分はこれについてこう思う、その答えについて君はどう感じるか。考えるか。

    まるで道徳の授業風景のようであったが質問に正解があるわけではなく、自分の答えを聞いた彼が偶にいつもと違う表情をするのを嬉しくも思ったから、特段嫌にもならず彼のところに足繁く通っていた。

    そして、冒頭の問いかけである。



    「…ペットに…相応しい?」

    「そう。色々いるでショ?」

    「…俺は犬が好きだけど…」

    「犬は噛むシ、鳴き声が煩イ」

    「…猫は?」

    「気紛れで奔放、家具を引っ掻ク。」

    「…蛇とか…爬虫類。」

    「論外。可愛くなイ。」

    「…個人の感覚じゃね?」

    「一般ではなイ。毛も生えてないシ。」



    珍しいと思った。前述の通り普段の彼は自分を否定はしない。何か正解を求めるための質問をしてこないのが常なのだが…今日は、彼の中で答えがあるらしい。


    「…お前はなんだと思うんだよ?」

    「……お答えしますヨ。ペットに一番相応しいのはネ。」


    うさぎ、ですヨ。



    「…うさぎ?」

    「えェ。…愛らしくて物静かで何かを必要以上に傷つけることも無く毒もなく害も与えず愛玩されるためだけに生まれたと言って過言ではなイ!!…そう思いませン?」

    「…家具は噛むんじゃ?」

    「…ゲージから出さなければいイ。決められたスペースだけデ、愛玩したい時にだけ取り出して膝の上に乗せていればいいでしょウ?」


    「…まあ…そうだけど…。」


    閉じ込められて愛玩されるだけの存在。いや、ペットとはそういう物なのだが。あまりにも一方的過ぎないか、と思うと同時にふと考えてしまう。…その状況、


    「…ボクに似てるでしょウ?」


    一瞬考えたことを見抜かれてどきりとする。


    「…違…」

    「…ゲージから出ることもない、反抗もしなイ、呼べば答え、撫でれば微笑み、必要な時健やかに愛玩されるためだけに生きていル。…そっくりデショ?」


    緑の瞳にじっと見詰められ、クスクス揶揄うように呟く彼に違う、と言いたいのだけど言葉がうまく出てこない。…彼の両親は、彼の具合が悪く辛い治療が続く時は殆ど訪れないことをどうしてか思い出す。

    笑う彼がふと、遠くを見ながら呟く。


    「…うさぎの寿命は10年らしいですヨ。…ボクも、お揃いですかネ。」

    「…そんなの…」

    「貴方のお父様は、成人するのは難しいとはっきり告げてくれましたヨ?」

    うさぎの方が長生きかも…と笑う言葉を自分は、遮る。


    「お前は、うさぎじゃねぇ!人間だよ!!」


    荒げた声にびっくりしたのか、それこそ大きな緑の目をうさぎのように丸くして彼が黙った。


    「…10年掛からないで俺も医者になる。父さんよりすげぇ医者に。そんでお前をちゃんと長生きさせてやる。だから、うさぎみたいだなんだって変な風に落ち込むな。…俺も頑張るから…お前も…がんばれよ…」


    めちゃくちゃを言っている。なによりも現状自分より何十倍も頑張っている人間に何を言うんだと尻窄みになってしまう言葉を聞き、キョトンとしていた彼がははは、と声をあげて笑った。


    「…失礼、ちょっとしたジョークだったんですけド。何か熱くさせてしまってすみませン」

    「…ジョークって…お前…」

    「…でもわかりました。貴方がそう言うなラ……貴方に治してもらいましょうカ。」


    予定を少し変えますヨ。



    …自分の言葉に恥じていてきちんと聞いていなかった最後に彼が呟いた言葉を、今思えば、もっときちんと聞いていればよかったと今も時々、思う。


    (この会話の数年後、自分が医大に合格したその年に彼は、義両親と自分の父を含めた数名の医師全員を殺害して失踪した。

    …彼が「予定」の何を変えたのか、本物の彼がいなくなった今では、何もわからないのだが。約束さえ守れなかった今となっては、知らなくてよかった気も、少しだけ、する。)



    【少年がうさぎを救うと言わなければ、惨劇は起こらなかったかもしれない昔話】



    『because。貴方が治すと言ったかラ、私は死ぬのを辞めたのデ。感謝はしましょうネ。お陰で彼女と会えましたのデ♡』
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