【曦澄】幸せなこと「嘘つき! 私を愛しているって言葉も全部嘘だったのね!」
ガシャーン。
卓上の茶器が床に落ちる。器は音を立てて割れたが、店員は片付けにも行けず、困ったように遠巻きにしているばかり。
だが、それもそうだろう。なにせ店内では今、男女の修羅場が絶賛展開中なのだった。
「もう何もかも信じられないわ! いったい私の他に何人の女に手を出していたの?!」
女の怒声が響く。金切り声のそれは店中に響いていた。間違いなく外にも聞こえているだろう。
江澄はその光景を苦虫を噛み潰したような顔で眺めていた。とりあえず五月蝿い。
「すげえなあ」
魏無羨は初めこそ野次馬根性を出してニヤニヤしていたが、口を開くたびに感情の高ぶりが増していく女の男を責め詰る言葉に苦い記憶を思い出したらしい。顔を引きつらせて乾いた笑いを浮かべるようになるまでそう時間はかからなかった。
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