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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    takami180

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    続長編曦澄9
    嵐来る(羨哥哥が出ます。ホワイサンも名前だけ出ます)

    #曦澄

     十日が過ぎた。
     藍曦臣から文はない。自分から文を出そうにも、何を書いたらいいか分からない。
     江澄はひと月は待つつもりでいた。
     そのくらい待てば、藍曦臣からなにかしら連絡があると思っていた。
     ところが、その前に思わぬ客を迎えることになった。
    「元気か、江澄」
     白い酒壺を片手に、門前に立つのは黒い衣の人物である。
    「何をしにきた。とうとう追い出されたか」
    「まさか! 藍湛がいないから遊びに来たんだよ」
    「いらん、帰れ」
    「そう言うなよー、みやげもあるぞ、ほら」
     酒壺が三つ、天子笑とある。
     江澄は魏無羨を客坊へと通した。
    「俺は忙しいんだ。夜になるまで、ここいにいろ。勝手にうろつくなよ。あと、ひとりで酒を全部飲むなよ」
     魏無羨は「はいはい」と返事をして、ごろりと床に寝転がった。相変わらず、図々しいやつだ。
     江澄はそれでも夕刻には政務を切り上げた。
     せっかくの天子笑を全部飲まれてはかなわない。
     家僕につまめるものを持たせて客坊へと向かう。途中、笛の音が聞こえた。
     物悲しい響きの曲だ。
    「お、江澄。待ってたぞ」
     江澄が顔を見せると、彼はすぐに吹奏をやめた。
    「おとなしくして……、いなかったことはわかった」
     机上には蓮の実の皮と、空っぽになった花托が置きっぱなしになっていた。
    「怒らなくたっていいだろ。ちょっとだけだし、迷惑はかけてない」
    「お前は……」
     江澄はそこで言葉を切った。今の魏無羨に自分が怒ってもしかたがない。
     その代わり、蓮の実代だと言って天子笑を二つ、傍らに置いた。
    「ずるいぞ、江澄」
    「うるさい」
     魏無羨は口を尖らせたあと、まあいいかと笑う。そうしていると、かつてを思い出す。だけど、もう今ではない。
     彼は姑蘇へ帰る人である。
     
    「沢蕪君と何があった?」
     天子笑を壺半分飲んだところで、魏無羨が言った。
     江澄は呆れて彼を見返した。
     唐突も唐突で、魏無羨が何のために蓮花塢に来たのか、白状しているようなものではないか。
    「何故、貴様に言わねばならん」
    「あー、なんというか、結論をいうと沢蕪君に頼まれた」
     江澄は今度こそ顔をしかめた。
    「ぶっ、めちゃくちゃ嫌そうだな」
    「当然だろう」
    「誤解するなよ。沢蕪君に頼まれたのはお前への伝言だけだからな」
    「じゃあ、さっきのはなんだ」
    「俺が心配してるだけ」
     魏無羨はにやりと笑って、壺から直接酒を含んだ。
    「江澄、恋人できたの初めてだろ?」
     江澄はがつん! と音を立てて盃を置いた。
     信じられないことを聞いた。
    「あの人はそんなことまで話したのか」
    「そんなことじゃないだろ。それに俺が先に気づいたんだ」
    「気づいた?」
    「そりゃあ、あんなにうきうきして出かける沢蕪君見てたら気づくさ」
     江澄は藍曦臣がやってきたときのことを思い返した。しかし、いつも同じ様子だったはずだ。
     首を傾げていると、魏無羨が手を打った。
    「そうか、お前はご機嫌な沢蕪君しか見たことないのか」
     彼が言うには、蓮花塢から戻った沢蕪君はいつもものすごく落ち込んでいるそうだ。
    「この間なんか、この世の終わりみたいな顔してたぞ」
     せっかくの天子笑なのに酒の味がしない。
     あの、意味のわからない「ありがとう」はなんだったのだろう。
    「だから、何かあったんだろうなって思ったんだけど、何があったんだよ」
    「知らん」
    「お前が知らなくて誰が知ってるんだよ」
     江澄は答えなかった。立て続けに酒をあおる。喉がひりひりと痛んだ。
    「もしかしてさあ、別れたいのか?」
     それは藍曦臣のほうだろう。
    「沢蕪君に無理強いされたか?」
     そんなことはない。いつも、優しすぎるくらいだ。
    「江澄、黙ってたら分かんないぞ」
     江澄は卓子の上に頭を乗せた。魏無羨め、好きなように言いやがって。
    「本当に嫌なんだったら」
    「嫌じゃない」
    「……そうか」
    「別れたいわけじゃない」
     あんなに心地いい人のそばから離れたいはずがない。しかし。
    「悪いな、とは思ってる」
    「悪いって?」
    「好きなわけじゃないから」
     げふん、と魏無羨がむせた。彼はひとしきり咳をすると、荒れた声で言った。
    「好きじゃない?」
    「ああ」
    「そんな……、そんな器用なことできないだろ、お前」
     顔を上げると、魏無羨は大真面目な顔で江澄の両肩をつかんだ。
    「うそだろ、江澄。好きでもないのにやったのか」
    「やった?」
    「やったんじゃないのか?」
    「なにを?」
     沈黙が落ちた。魏無羨はそろそろと手を引いて、信じられないといった表情で江澄を見た。
    「忘れろ、なんでもない」
    「だから、なにを……」
     江澄はそこでようやく気づいた。魏無羨の言葉に含まれた意味と、彼が危惧した内容に。
    「このっ、恥知らず!」
    「だって! してないなんて思わないだろ!」
    「黙れ!」
    「わー! 壺はまずい! 死ぬ!」
     江澄の投げた壺は、魏無羨の隠れた柱にぶつかって無残に砕け散った。
     しばし、にらみ合う。
    「……口吸うくらいはしたんだろ?」
     江澄の顔が音を立てて赤くなった。
    「魏無羨!」
    「いや、だって、そのくらいはさすがにしただろ!」
    「黙れと言っている!」
    「もし、したんだったら、好きじゃないってことはないだろ!」
     江澄は振りかぶった盃を足元に落とした。こちらは硬い音を立てて、真っ二つになった。
    「考えてもみろよ、好きでもない奴とそんなことできないだろ。例えば……、あー、聶懐桑とか」
     言った当人も、言われた江澄も、同時に気味の悪そうな顔になった。江澄は鳥肌が立ったほどだ。
     自分までそんな顔になるくらいなら言わないでほしかった。
    「ともかく、そういうことだ。沢蕪君にも言ってみたらどうだ」
    「言えるわけないだろう」
    「なんでだ?」
     魏無羨は心底不思議そうに首をひねる。
    「好きな子が好きになってくれるかもしれないんだぞ。嬉しいに決まってる」
     どうやら魏無羨の理屈ではそういうことになるらしい。
     江澄は足元の破片を拾って、卓子に載せた。
    「箒を取ってくる。お前は先に寝ろ」
    「いいよ、江澄。隣の客坊を借りるから」
    「隣はだめだ」
     思わず口をついて出た。魏無羨の口がにんまりと弧を描く。
    「分かったよ。ここでおとなしく待ってるさ」
     江澄は舌打ちをして、部屋から出た。
     魏無羨の言う隣とは、いつも藍曦臣を通していた客坊だった。
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    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

    takami180

    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

    takami180

    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050