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    雨宮未栞

    @AEAIAI

    描きかけのアナログ絵や書きかけ(投げ出し)の小説を軽率に投げ入れてます。出来上がったらpixivに上げる……かも
    あとはpixivに上げる度胸のないすけべとか……

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    雨宮未栞

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    書きたいとこ部分部分でちまちま出力するばかりで中々まとまらない……
    こういうのばっかり溜まってく……

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation

    回顧 藍忘機の世界は、雅正集と雲深不知処でできていた。

     日々藍啓仁の教えを受け、藍曦臣や門弟達と鍛錬に励み、山で修行する。夜狩のために雲深不知処を出ることがあっても、他人と接触することはない。藍忘機は仙門の務めとして、ただ邪祟を除くだけだ。
     藍忘機という人間は雅正集でできていて、人情を解さないのだと言う者がいる。人心を解さずして問霊などできようはずがなく、人から生まれる怨念を祓うことなどできないというのに。
     ただ、藍忘機にとっては、周りがどう思おうとも関係なかった。兄は無表情と称される藍忘機の顔から感情を正しく読み取ってくれるし、雲深不知処にいる分には、同じ規則で生活する者しかいないのだから困ることもない。

     しかし、そんな藍忘機の世界が崩れ去るのは十五歳の時、それもの雲深不知処の中でのことだった。

     雲夢江氏の門弟として、雲深不知処の座学に訪れた魏無羨は理解不能な存在だった。
     来た初日から藍氏の家規を諳んじることができないのは仕方がないが、藍忘機の前で平然と家規を破り、罰を受けたところで反省の色は見られない。それどころか、藍忘機を揶揄うことに命でも賭けているかのような恥知らずだ。
     今までの人生で初めて会う種類の人間に、藍忘機は翻弄され続けた。碧霊湖の水鬼退治に向かった際は、藍忘機自身より彼の感情を理解していると思っていた兄に、魏無羨に来てほしそうな顔をしていると言われ、初めて反抗してしまった。
     魏無羨という男は、藍忘機が邪険にしても寄って来るし、藍忘機にばかりちょっかいを出してくる割には、江晩吟や聶懐桑などと楽しげにしている。相容れない藍忘機に関わらずとも、彼の周りには人がいるのだから、藍忘機に近寄らなければ良いのに。そうすれば、藍忘機も心を乱されることがなくなる。そう思っていながらも、気付けば藍忘機は魏無羨を目で追うようになっていた。
     家規に背くことは人の道を外れることだと教えられてきた。それであるならば、魏無羨という男は人でなしであるはずだ。
     しかし、修位は藍忘機に引けを取らず、彼には彼なりの信念と強い正義感があるように感じた。そして、何事も楽しみ生を謳歌する姿に、嫌でも惹き付けられた。
     魏無羨が雲夢に帰ってからも、夜の見回りで塀の上に姿を探し、江晩吟や聶懐桑の声が聞こえれば、魏無羨の笑い声も響いてくるのではないかと耳をすませてしまうほどに。

     変化のない淡い色合いばかりだった藍忘機の世界に、たった三か月で魏無羨という鮮烈な彩りがとても無視できない範囲に芽吹いてしまった。


    ***


     問霊の技量には自信があった。亡者であるならば喚べるはずだった。それなのに、死んだと言われた魏無羨は応えない。以前は魏無羨が乱葬崗という特殊な場所に落とされたせいだと思っていた。しかし、今藍忘機がいるのはまさにその乱葬崗で、問霊の曲に応える霊もいる。では、何故魏無羨は応えないのか。
     いつの日か彼が藍忘機に訊ねたことを問う。

    「……君は、それほど私が嫌いか」

     それに、藍忘機は答えなかった。だから、魏無羨も答えないのだろうか。

    『失せろ!』

     そう言ったから、あの日藍忘機を同じように突き放したのだろうか。

    『いつも、言葉と本音が逆だな』

     だから、藍忘機が姑蘇に帰ろうと言っても、罰するつもりだと、聞く耳を持ってくれなかったのだろうか。

     親しくなったと、仲良くなったという言葉を否定して、友達になろうという提案にも答えなかった。暮渓山では生死を共にした仲ではあるが、結局二人の関係は知人の枠を出ることはなく、鬼道を修めた魏無羨には他人と線を引かれた。戦場以外ではかつてのように接して来たが、友達などという言葉が出ることは一切なかった。
     藍忘機はもうずっと前から魏無羨を恋しく思っていたのに、藍忘機が言い表せる関係のなんと空虚なことか。

     どうか、教えてほしい。

    「私は、君にとってどういう存在なのか……」

     藍忘機の問霊に応えたのであれば、その言葉に偽りはない。それがどんな言葉でも、受け入れるから。

    「どうか、一度でいい。こたえて、魏嬰……」

     しかし、何度呼びかけても、弦は震えなかった。
     藍忘機に応えたくないだけならいい。二度と現世に戻りたくないと絶望の中で死んだのでなければ。


    ***


    「美人さん、今年も天子笑をお求めですか?」

     雲深不知処への道すがら、かけられた言葉に藍忘機は頷きだけで答える。

    「そうですか! 今年もいい出来ですよ!」

     銀子と引き換えに、笑顔の店主が差し出す酒壺を受け取って、藍忘機は早々に酒屋を後にする。
     背後から、店主の独り言が聞こえて来た。

    「毎年必ず一かめお買いになるが、何か特別な日なのかねえ。あの様子じゃ、記念日よりも誰かの命日のようだが」

     始まりは、閉関を解いた最初の年、夜狩の帰りだった。
     彩衣鎮を通り抜ける際に、呼び子が天子笑を売り込む声が耳に届いたのだ。藍忘機は吸い寄せられるようにその酒屋に立ち寄り、天子笑を一かめ買った。勿論、藍忘機は自分で飲む気はなかった。家規に反するし、正体をなくして相当な醜態を晒すことになるからだ。
     奇しくも、この日は藍忘機と魏無羨が初めて会った日だった。
     雲深不知処に着けば、塀に上り、傍らに天子笑を置いた。あるはずがないとわかっていても、今にもそれを掠め取って勝手に飲む者が現れるような想像が過ぎる。
     しかし、どれだけ時間が過ぎても、魏無羨のいない雲深不知処は静寂に満ちたままだ。

     飲むことも捨てることもできなければ、部屋に持ち帰るしかない。

    『いつかまた姑蘇に行く機会があったら、絶対に八個でも十個でも買ってどこかに隠して、満足するまで目一杯飲んでやるんだ』

     不意にそんな言葉を思い出して、静室の床に飲まれる予定のない酒壺を隠した。
     そうと決めたわけでもないのに、毎年、それを繰り返していた。

     時を止めた自分の前で、床下を埋めていくかめの数は、時間の経過を見せるものになった。

     記憶は薄れるものだと言うが、魏無羨のいる景色だけが、現実より鮮やかに色付いていた。
     藍忘機の世界は、色褪せた現実と、消えてしまった輝きに馳せる想いでできていた。
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