夜が明けてもどうか君ともうずっと前の話。僕が魔女様と出会った頃の話。僕の親は、きっとろくでもない親だったんだと思う。僕が変なやつに好かれやすいから気味悪がって捨てたのかな……なんて考えて考えたことがあった。だけど、気味悪がって捨てるなら覚醒世界でよかったはず。なのにこんな夢の世界に置いていった。なら、僕の両親は魔女様と同じ様な魔法使いだったのでしょうか……?
何百回もの、季節が巡った。数を数えるのはもうずっと前に辞めてしまった。というよりも、こんな霧だらけの世界じゃ季節なんてものは……感じれない。霧がない花畑……あそこだけが僕の好きだった場所。魔女様を葬ってからは、時々しか行かなくなった場所。
外に出てもいいことは無いし、霧に覆われた森の中にある家なんて誰も訪ねる人はいない。そう思っていたのに、今日は小さな人が僕らの家に来た。赤い髪の女の子だった。彼女が来てから変な幻覚を見るようになった。彼女が酷い目にあう幻覚が、壊れたカセットテープみたいにループして夢と現の間を彷徨っていた。
「魔女様……どこにいますか?」
「魔女様……魔女様にとって不要な弟子でしたか」
「魔女様……僕だけのかみさま……ゆるして……」
ただ願っていた。ただ祈っていた。どこかにいる、僕だけのかみさまにただ赦し乞う。
幻覚を見る度に大丈夫……大丈夫と自分に言い聞かせていた。あの子に、僕と同じように永すぎる孤独を経験させるのは嫌だったから閉じ込める以外の方法を考えねばならなかった。
だけど、あの子がなにかする度に酷い夢が目の前を通り過ぎていく。気が狂う。生ぬるい液体がべったりとついたあの感触が……脳を侵食していく。視界が暗くなって、何も見えなくて。聞こえなくなって。ひとりぼっちになる。
魔女様、きっともう少ししたらそちらにいけます。目の前の子が僕のようになって、僕はようやくあなたの元へといけます。
そう、思っていた。だけど……いけるなんて違うかった。目の前にいるあの子が魔女様だった。いや、性格には魔女様の生まれ変わりだった。濁流のように流れてくる情報に頭が追いつかない。魔女様……魔女様……ぼくだけのかまさま……ずっとあなたは僕を探していてくれたのですか……?理解が追いつく頃には世界は暗く音もなくなっていた。
「魔女様……ぼくを……ひとりにしないで」
願いが思わず言葉として零れた瞬間、目の前がゆっくりと明るくなる。長い夜が明けた。
いつの間にか握っていたナイフで指切って血が流れる。人しか感じれない痛みがあって、何百年も見ていなかった真っ赤な血が滴る。傷は塞がらないのが不思議、ぼんやりと眺めていた。
「ちょっと!はやくとめないと!」
「…………?」
急いでこちらに向かい丁寧に手当をした後に、ぎゅっと僕を抱きしめる。魔女様の匂い……。懐かしい記憶の中にあったあなたの匂いがした。
「魔女様……見つけてくれてありがとう」
「当たり前だろ。私の弟子なんだから」
そのひと言に安心する。何度生まれ変わって僕をあなたの弟子と、呼んでくれる。そんなあなただから僕はずっとずっと……あなたを想っていました。
魔女様が、街に行こうと言ってくれたから街に来た。魔女様は嬉しそうに僕の手を引いてワルプルギスを祝う宴に混ざる。
ねぇ、魔女様。明日は何を見せてくれますか?あなたが好きな花?あなたが好きな景色?あなたが僕に作って欲しいご飯?あぁ……もうなんでもいいや。
あなたと一緒それだけで、僕は満たされる。
魔女様、もし魔女様がいなくなったら今度は僕が見つけます。だから……僕が僕でなくなってもまた……見つけてくださいね。