記憶にも残らないキミを探して20××年12月_______
「今日もいい天気だな…まぁ色なんてわかんないけど」
そんなことをポツリとこぼしながらわんちゃんの世話をしていた。
尻尾を振りながら僕のほほをなめる愛らしい姿に、不思議と元気づけられていたからかストレスとは無縁の人間になった。だけど、その愛らしい姿では埋まらないものがあった。
ミオが行方不明になったことだ。
忽然と姿を消した彼女。僕になんの連絡もなく、いなくなるなんて今までなかったのにとある日、姿を消した。
毎日のように彼女の姿を探しているのに、その姿はどこにもない。
もう諦めた方がいいと思っても諦めきれない。そんな思いから学生の本文でもある勉学との両立を図ったがどうやら僕はちょっとだけ不器用だったみたいでで、それに失敗して倒れてしまった。
その日だった。もう探すのはやめなさいと諭されたのは。自分の身体をダメにしてまで、探してほしいなら帰ってくるだろうと言われた。それは本当のことだった。言い返せなくて、悔しかったけどおとなしく僕は頷いて捜索を諦めてどうか、どうか、無事でいてくれと願うだけの日々を過ごすことになった。
ミオがいなくなって何年が経過しただろうか。
僕は無事にアニマルセラピストとして手に職をつけていた。
彼女の捜索を引き換えに手にした職…。これでほんとうによかったのかという疑問が付きまとっていた。
「書類の整理してくるから、おとなしくしておいてな」
そんなことをわんちゃんに言ってから部屋へと戻ってしばらくすると
コンコン、とノックが響いた。
今日はもう予約がなかったはずと思いながらも返事をすれば扉が開く。キィ…という音がして顔を上げる。
「あ……ひなたおにーちゃん…!」
ミオがいた。優しい声に、柔らかく表情…。僕の記憶の中に残っていたあの日の姿のままの彼女の姿が今目の前で瞳いっぱいに涙を貯めて抱き着いてきた。
「お前今まで何処に行ってたんだよ…!」
自分でもわかるくらい震えた声で抱きしめていた。
もう二度と会うことなんてできないと思っていた。
少し涙が収まったころ、ミオが口を開いた。
「ひなたおにーちゃん……っ、あのね、わたし、おにーちゃんに、おねがいしたいことが、あって、」
「ん?どうした?」
そういうとミオは日記と手紙を取り出してきた。
「来年の3月15日が近くなったら、食堂の、みんなのみるテーブルにこの手紙を置いてほしいの…。あ、でも手帳は、おにーちゃんに持っててほしいの……」
そう言われた。僕はそれをなにも考えず受け取ると、「…あのね、みんなには、わたしがきたこと、ひみつにしててほしいの…」と言われた。
それを言われた後、不思議と嫌な予感がした。
ミオが離れていくのではないかという漠然とした不安。
そんな不安を拭うために俺とだけでもいいから連絡は取ってくれないか?と提案すれば彼女は頷いてくれた。
「やっぱりいい子だね。お兄ちゃんと約束な」
「…やくそく、ゆびきりげんまんだね」
眼を赤く腫らしたまま、二人の小指を絡めた。
「あのね、ひなたおにーちゃん、これだけは忘れないでね。私は、みんなのことが、ひなたおにーちゃんのことが大好きだよ!」
そう言って彼女は指を解いた後、彼女は部屋から立ち去った。
一通の手紙と日記を残して。
わかっている。連絡なんて来やしないと。
だけど、来ると信じていたかった。毎日のように携帯を確認して明日なら来るかもしれないなんて期待していた。
ミオがいない、その事実が当たり前になっていたのに突然現れた。
嫌でもあのころの生活を思い出される。
どうせならミオが最低な言葉で僕を突き放してくれればこの心にけじめがつけれたのに。少しは後悔も、恋心も楽になったのかもしれないのにと思ってしまった。
噓の言葉とわかっていた。だけど、いかないでなんて男として言えなかった。
「もう一度だけでいい、ミオの声と温度が欲しいよ…」
そんなのことをポツリをこぼして電気を消して横になりゆっくりと意識を沈めていく。
朝、目が覚めるとなぜか泣いていた。
凄く懐かしい夢を見ていた気がする。だけど、夢の世界なんていつも曖昧なものだからどんな内容だったかなんて目が覚めた僕は覚えていない。
鼻孔をくすぐる勿忘草の香りと暖かな日差し。
ほんの数センチだけ空いた心の隙間に寂しさを覚えながらホットミルクにはちみつを垂らして朝食の準備をする。
世界は今日も色彩豊かで、たくさんの色と音に囲まれている。
そんな「あたりまえ」を感じながら朝食をとり出社した。