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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    せつなと殺生丸(妄想)

    ##半妖の夜叉姫

    *


     ふざけるな、と娘は激昂した。
     そんなことをしてまで人間を我が物にしたかったのか、と実の父親を問い詰める形相はその父生き写しだ。静謐の中で燃え盛る青い炎のように、無音の中で荒れ狂う大波のように彼女は怒り狂う。ちょっと、やめなよ。そう言うとわの言葉など当然聞こえていない。
     夢と記憶を奪った胡蝶をけしかけたのが父親だと知れれば。
     彼女の怒りは尤もだ。とわは住んでいた場所から弾き出されたとはいえ、何一つとして奪われていない。懐かしく暖かな夕陽を脳裏にしかと刻み込んだまま、いつか再会することを願いのうのうと生きてきたのだから。妹の苦しみを理解してやることなど不可能なのだ。
    「我が眠りを奪っておいて、尚そう言うか!」
    「……」
     父親は答えない。
     どうしてせつなの夢を奪ったの?
     どうしてせつなから眠りを奪ったの?
     どうして 妹から記憶を奪ったの?
     貝殻よりも固いとわの口が開くことはない。尋ねなければならないことは多い。愛する妹から優しい夜の眠りを奪い去った理由を問い質さなければならなかった。例え如何なる理由があろうとも──娘の夢を奪うほどの理由があるのなら──それを教えて欲しい、と。
     薙刀を手にした妹の瞳は赤く血走り、唇の合間から見え隠れする鋭い牙は妖怪のそれ。
    「答えろ殺生丸!」
     妹の赤い瞳に映るのは父親の姿ではない。自分から多くを奪った、悪しき妖怪。
    「どうすんだよ、これ」
    「……」
     もろはは呆れたように息をつく。
     彼女が父親に抱く感情は、『無』だ。そんなものを必要と感じたことはない。物心ついた時点で『それら』の存在を感知することのできなかった彼女は、半妖よりも妖の血が薄いことを自覚しながらもこの乱世の中を一人で駆け回った。せつなとはきっと、正反対の場所にいる。
     これまで短いながらも旅を共にしてきただけではあるが、もろはは直感していた。
     彼女は 父を愛したかったのだと。
     とわが育った令和という里での記憶がそれを加速させた。あぁして血の繋がりがなくとも大切に思い愛してくれる父親と母親、そして可愛らしい妹に──祖母と、その父親と。多くの家族に囲まれ、戦いのない平和な世界で暮らしていた自称・姉の姿はせつなが抱いていた無意識の炎を一層大きくさせた。
    「知らねぇぞ」
    「……せつな……」
    「分かってんだろ、とわ。お前が何言っても……」
    「うん。何も……届かない」
     せつなの痛みをとわは知らない。
    「ならば何故人間に産ませた、殺生丸! 半妖の娘など 何故!」
    「産ませた、か……」
    「返せ……我が眠りを 貴様が奪わせたものを返せ!」
     時代樹は告げた。
     父・殺生丸は誤った道にいると。
     そして父であるという目の妖怪は告げる。「その言葉を信じるのか」と。
    「……時代樹が嘘ついてるってこと?」
    「ま、本当って確証はないよな」
    「せつな、まずは落ち着いて……」
    「うるさい黙れ!」
     殺す 殺してやる!
     その首を切り落としてやる!
    「あちょっと、せつなそれはマズいって!」
    「もろは、止めなきゃ!」
     ここで話をややこしくされてはたまったものではない。どう見てもあの殺生丸という『父親』は和気藹々と話し合いに応じてくれるような相手ではない。どちらかといえばせつなと同じで──はたまた、せつなが似たのか──一度決めたことはなかなか曲げないような、そんな頑固者に見える。
     退治屋の少女は走り出す。
     真っ直ぐに武器を構え、立ちはだかる妖怪と同じ犬の毛を纏い、雄叫びをあげながら。
     ゆっくりと刃先が吸い込まれるは父の鎧。次いで それが割れる音。「やめろ!」と叫んだもろはの言葉はせつなに向けてではない。
     避けるつもりなんてないんだ!
     言葉で答えるよりも、あの殺生丸という男は行動で答えを示したのだ。
     怒髪天を突く勢いの娘に何を言ったところで否定されるのであれば、或いは元よりそのつもりだったのか。彼女は関係性が真実であれば己の叔父にあたる犬妖怪の身体にせつなの薙刀が真っ直ぐに突き立てられ、砕かれた鎧を巻き込んで腹を貫いていくのをただ見ていることしかできなかった。手を伸ばしても届かない。せつなの一歩はとてつもなく遠く、彼女が放つ異様な妖気に呑まれたもろはととわは思うように足を動かせない。
    「ふざけるな……ふざけるな!」
    「ッ」
     それが答えだと言うのか!
     薙刀から手を放ち、腰にぶら下げた刀を抜き放つ。
    「我が苦しみを思い知れ、殺生丸!」

     決して。

     彼女は決して 男を父とは呼ばない。
     然して父であるからこそ 焼け落ちた灰にすら残らぬ父であるからこそ。
     怒りの形相を湛えたまま、少女は叫び声を上げて全てを奪った父妖怪の首へと刀を向けた。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429