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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    殺生丸一行

    ##犬夜叉

    *


     美しい娘が牛車に乗せられて運ばれていく。場違いなほどに煌びやかに装った女が、悲しげな表情を青白い顔に描いた女が、姫ぎみのように黒く長い髪など持たない、ただの町娘が姫ぎみのような姿をしただけの女が。
     木々が立ち並ぶ森の中からひらけた崖の上から花を握りしめた少女はそれを見つめていた。
    「生贄だ」
    「いけにえ?」
     尋ねるよりも先に殺生丸の声が頭上から降ってくる。
     日照りが続き雨が降らないから。雨が降ってばかりで晴れないから。水害で田んぼが沈んでしまったから。人間は様々な理由で生贄を立てる。「殺生丸さまは物知りだね」とりんは関心したように言うが、絶望に満ちた目をした女が運ばれていく姿を見つめる瞳には憐憫はない。
    「……神気取りの妖怪の仕業だ」
    「ふぅん?」
    「あぁして人を食らう妖怪など 人の世にはどこにでもいる」
    「怖いね、殺生丸さま」
    「ふん」
    「……でもりん、妖怪よりも……人間のほうが 怖いよ」
    「……」
    「だって もしあの人があたしだったら……」
    「お前のような粗末な娘だと誰も生贄にしとうないわ、安心せい」
    「あ! 邪見さまひどい!」
    「殺生丸さま、仰せつかっていた件ですが……あっ 痛い、痛い痛い! 殺生丸さま痛い!」
    「その口を閉じろ」
     茂みから顔を出した邪見は口を開いてすぐに殺生丸の手によって人頭杖を取り上げられ、ぐりぐりと額を突かれる。目を狙われないだけましだし、以前川の中に沈められたことを思えば随分と主人の仕置は甘くはなったものの、それでも痛いものは痛い。
     図星。
     殺生丸が手をあげるときは大抵心中を言い当てられたときだ。
    「とは言いましても……」
    「そうだよ邪見さま。言い方、っていうのがあるんだよ」
    「どぉしてお前に言われなきゃならんのじゃ。ともあれ神に化けた妖怪というのはな、大抵美しく若い娘を取って食うもんなんじゃ」
    「美しくて……若い」
     さっき見たようなお姫さまみたいなひとを。
     りんはふぅん、と言いながら手にした花束のうちの一本を引き抜くと、崖の下に向かって放り投げた。意味などない。ただ、殺生丸は今しがた運ばれていった生贄の人間を助けるつもりはないことをりんは分かっていた。
     誰彼構わず助けるほど殺生丸は慈悲深くはない。そして誰彼構わず助けられるほど天生牙は万能でもなく。
     あの人間(ひと)は助からない。だから せめて花のひとふさを。
    「妖力も霊力もなく、じゃが生命力のある若く美しい娘をな。あぁいう奴らは好むんじゃ」
    「そっか」
     じゃからお前は誰も狙うまいよ。
     そう言いたげな邪見は二度目の仕置を覚悟したが、その気配はない。
    「……ところで殺生丸さま。先日探しておられた薬草ですが……どうやらこの村の畑にあるようですな」
    「……そうか」
    「薬草? 殺生丸さま、どこか怪我をしているの?」
     そんな訳はないじゃろう!
     邪見はくぼんだ眉間を気にしながら投げられた人頭杖を器用に受け取る。
    「この間お前が熱を出して大変だったの、もう忘れたのか。人間と妖怪とじゃあ効く薬草も違うからな。慈悲深い殺生丸さまはお前のためにと人間にも効く薬草を……ってあぁ、殺生丸さま!」
    「邪見さま置いてくよー」
     そんな、ひどい!
     いつものように既に邪見の前に殺生丸とりんの姿はなく。
     ふわりと風のように漂う小娘を抱いた妖怪の姿が切り立った崖の下に見え隠れするのみだった。
    「(ま、あれじゃあどんな妖怪だろうと神仏だろうと生贄にはできんわな)」
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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