友人の距離を飛び越えて俺達はクラスメイトで仲の良い友達で親友...だったはず。
いつからそれ以上だと気づいたんだっけ。
最初はただのクラスメイト。アイクは真面目で優しくて目立たぬ生徒。俺は自分で言うのもなんだけど明るくていつも周りに人がいて、目立つ生徒だと思う。
最初のきっかけは...そうだ、授業で読む所を教えてもらったんだ。
「さっきはありがとう!これお礼にならないかもだけどあげる!」
彼の手に飴の包みを乗せる。
「わぁ、ありがとう。苺、好きだから嬉しいよ。」
ふんわり柔らかく笑う彼に何故かドキッとする。同時にもっと話してみたくなって暇さえあれば話しかけた。
ただのクラスメイトから友人へ。
階段を駆け下り下駄箱に向かう。アイクの後ろ姿が見えたので抱きついた。
「アーイク!!」
「わあ!?もぉ、びっくりした、ルカか。」
「ごめんごめん。一緒に帰ろ!」
「勿論!」
「POG!ねぇ、苺の他には何が好きなの?」
「んー、そうだなぁ...。」
炭酸ジュースに不思議なパン、電子の歌姫、本と音楽...彼は色々な事を教えてくれた。
友人から親達へ。
好きな事を話す彼は本当に楽しそうで、可愛いなあと思ったり、ん?可愛い?
「ーで、ねえ、今度一緒に遊びに行かない?」
「...え?あ、うん!勿論いいよ!どこに行くの?」
「やった!実は行ってみたいライブがあって...」と笑う彼を見れば、一瞬思った疑問もすぐ消し飛んだ。
あっという間に休日が来て二人でライブを楽しみ、気付けば帰る時間になっていた。毎日アイクと過ごしているとあっという間だけど、今日は特に一瞬に感じる。
「...もうおしまい?」
寂しい、と呟けばアイクがクスクス笑う。
「んふ、また明日も会えるでしょう?」
明日また学校で、とアイクの優しい声にたちまち元気が出てくる。
「POG!そうだよね!また明日!」
そんな感じで俺達は毎日一緒にいる仲になった。
今日の体育はハードル走。
「ルカー!頑張れー!」
先に走ったアイクがゴールの所で手を振っている。
アイクがいる。それだけで誰よりも早く走れる気がする。俺は大きく手を振り返し、スタートラインに並んだ。
「よーい、スタート!」
リズムよくハードルを越えていけば「すっげー早い!」「新記録じゃね!?」と賑わうクラスメイトの声が聞こえる。そんな中、
「ルカ!もうすぐゴールだよ!」
大好きなアイクの声だけがはっきり聞こえた。目線を上げればアイクがいて俺は全速力で駆け抜ける。ゴールラインを越え、そのままアイクの元に飛び込んだ。
「ルカ!?え、まって、うわあ!?」
バターン!!
細いアイクが俺を支えられるはずもなく二人一緒にグラウンドに倒れ込む。俺は咄嗟にアイクの頭に手を添え、潰さぬよう反対の手で地面に手を着き自身を支える。運動神経が良くて良かった、アイクを潰さずに済んだ。アイクは俺の下で大きな目を更に大きくして固まっていた。
「ごめん大丈夫!?」
「う、うん大丈夫...びっくりした。」
「ほんとごめん...アイクがいるって思ったら嬉しくて、」
「ふっ、んふふ、なにそれ!でもすごかったよ。ダントツで一番だよ!」
「だろ!?ねぇ俺偉い!?」
「んふふっ偉い偉い!」
笑ったアイクが頭を撫でてくる。POG!すっごく嬉しい!!もっと撫でて欲しくて頭をグリグリ押し付ければ「くすぐったいよ!」なんて言いながらまた撫でてくれた。
楽しい気分で一日を終え、さあアイクと帰ろう!と思っていたのに、今は放課後、俺は誰もいない教室で一人そわそわと歩き回っていた。
帰りの準備をしている最中、アイクが女子に呼び出されてどこかに行ってしまったのだ。
「先に帰っていて」と言われたけど帰れるはずもなく、かと言ってできる事もなく、俺はただ誰もいない教室をウロウロ歩き回っているのだ。時間が経つにつれ色んな想像が膨らんでいく。
(きっとあれは告白だろう。そして今アイクは告白されているのだろう。アイクはなんて答えるのか...もしOKして二人が付き合う事になったら、)
そこまで考えて俺は教室を飛び出した。
廊下を走り階段を飛び降りればすれ違った先生の叱る声が聞こえてきた。
(ごめん先生今だけ許してよ!)
人気のない場所を探していけば、旧校舎から二人の話し声が聞こえてくる。
さっきの女子とアイクだ。
「ねぇ、どうしてもダメ?」
「えっと、気持ちは嬉しいけど...」
「お願い!試してダメだったらそれでいいから、」
そこまで聞いて俺は二人の間に飛び込んだ。
「ダメー!!ダメったらダメ!!!」
「ルカ!?」「カネシロくん!?」
二人が驚きの声を上げたが、俺は気にせずアイクの身体を抱き寄せる。
「アイクはダメ!!絶対にダメ!!」
「ル、ルカ...?」「カネシロくん...?」
二人の声は困惑に変わり、俺は絶対に渡さないぞとアイクの身体を更に強く抱きしめる。
俺は女子を睨み付け、女子はそれに怯んで一歩後退りし、アイクは俺の腕に埋もれていて、三人の間に沈黙が流れる。モゾモゾとアイクが俺の腕からなんとか抜け出し声を上げた。
「〜〜〜っぷは!もう!ルカ!落ち着きなよ!」
「〜っ、だって、アイク、この子と付き合うの、「付き合わないよ!っじゃなかった、いや、そうなんだけど、〜っああもう!」
アイクは自身に巻きつく俺の腕を掴んで下ろし、女子に向き合う。
「僕、さっきも話したけど、君の事をよく知らないし、今はルカ達と遊ぶ方が楽しいというか...とにかく気持ちに応えられないんだ。ごめんなさい!」
深々と頭を下げるアイクに、女子は「...分かった、こっちこそごめん、ありがと!」と言って走り去って行った。
女子の姿が見えなくなるとアイクがため息を付いて俺に向き直る。
「ルカ...先に帰っててって言ったし、こんな...もう!!どういうつもりなの!?」
腰に手を当てプンプン怒っている。そんな姿も可愛い、と思いかけて俺は慌てて首を振り答えた。
「だって、俺、アイクがあの子と付き合うって考えたら居ても立っても居られなくて...俺、アイクと友達じゃ足りない!他の人の所はダメ!明日も明後日もずっと俺と遊ぼうよ!俺といてよ!!」
「...ふっ、ふふふ...あはは!」
「なんで笑うの!?!?」
必死な俺とは反対に突如笑い始めるアイク。
「ふふ...ごめん、なんだか君が僕に告白しているみたいで...ルカ、僕の事好きなの?僕と恋人にでもなるつもり?」
いたずらっ子な笑みで聞いてくるアイクに俺は笑顔で答える。
「! それ最高!アイク!俺と付き合って!!」
「えっホントに?」
冗談のつもりだったのだろう、俺の反応に口をポカンと開けるアイク。
「だって俺はアイクと一緒にいたいし、あの女子と違ってお互いの事知ってるし、アイクも俺といるの楽しいって言ってくれたじゃん!」
問題ないよね?と問い掛ければ「でも恋人って、その、デートとか、その、キスとか...」と頬を赤くしながら言うので俺はためらわずに口をくっつけた。
「......!?!? なっ!?えっ!?」
頬どころか顔も真っ赤にしたアイクの目を見て答える。
「俺、アイクとキスもデートも良いよ。っていうかしたい!しよう!ねぇ、恋人になってくれる?」
数秒固まったアイクは勢いよく背中を向け叫んだ。
「...色々飛ばしすぎだよ...!」
答えたアイクの耳は真っ赤に染まっていた。そのままアイクが歩き出してしまうので、俺は水溜りを飛び越えアイクの隣に並んで手を繋ぐ。
「へへっ!じゃあ早速今度遊びに行こう!キスの次はデートだ!」
「展開が早いって!」
誰もいない旧校舎に二人の賑やかな声が響いていた。