みえそでみえない【オル相】 外したのか。
職員室のテーブルの上に置いてあった雑誌の表紙を俺は咄嗟に裏返した。特に気にするつもりもなかったのに目に入った途端そこばかりに視線が行くのが嫌で。何とも思ってなかったのに、そう思ってしまった自分が面倒臭くて。
「相澤くん?どうかした?」
「ご自分の表紙の雑誌、こういうとこに置いておかないでくださいよ」
裏表紙を上向けたまま寄ってきたオールマイトに突き返す。
「ああ、置きっぱなしになってたのか。ごめんね」
オールマイトは雑誌を受け取るとそれを胸に抱き込んだ。裏表紙に添えられた手の甲は、さっきちらりと見た黒く光沢のある長いシャツで半分程隠されていた写真とは違ってしっかりと露わになっている。
指は。
「……」
俺の視線がどこを凝視しているかをオールマイトは見ていた。多分、眉間に皺が寄っているのも。そして、胸にしまい込んだ雑誌をまじまじと見下ろして俺と表紙の自分を見比べる。
「外してないよ?」
「何がですか」
一発で見抜かれた動揺に早口で言い返して俺はこれ以上話を深掘りさせられないと背を向ける。
「指輪だよね?」
俺の前ににょきりと伸びて来るオールマイトの左手の薬指には言った通り指輪が嵌められていて。
「スポンサーさんのアクセサリーつけるから私物の指輪は外して欲しいってスタイリストさんに言われたんだけど断ったんだよ。だからほら、ちゃんと指で隠してるだろ?」
見て見てー、と呑気な語尾と共に差し出される雑誌の表紙の、左手の薬指の部分に重なっている指先。
「……へえ」
俺の合槌にオールマイトはにっこり笑って足を留めない俺の顔を覗き込む。
「機嫌直してくれた?」
「別に最初から損ねてませんから」
「そう?」
「学校でそういう話するのやめてくださいって言ってるでしょう」
「ふふ、ごめんね」
何を言っても多分今のこの人には響かない。
見破られた気まずさに俺はますます眉の皺がギュッと深まって行くのを感じながら、衝動的にオールマイトの腕の中から雑誌を没収する。
オールマイトは背を丸めて笑った。