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    ankounabeuktk

    @ankounabeuktk

    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    生存確認がヘキだなって話。
    付き合ってません。

    三十六度【オル相】 職員室に戻って来た相澤が自分の席に向かいながら特定の席を見つめて眉を寄せたので、その不機嫌の原因を知っていたミッドナイトはすすす、と相澤の後ろに近寄って声を潜めた。
    「オールマイトなら保健室よ」
    「保健室……?」
     遅刻、少なくとも朝のホームルームに間に合う時間に来なかったナンバーワンに悪態をつくことなく教室に向かって、ホームルームを終えて帰って来た相澤にその単語は意外性を持って届いた。
     普段ならば表情豊かなミッドナイトがひとつもその表情に遊びを有していないことに相澤はますます不安になる。
    「大丈夫なんですか」
    「発作としか聞いてないわ」
     過去の戦闘でダメージを蓄積した体のせいで、オールマイトは血を吐くことが多い。発作というなら今回も多分それだろう。ということは、通勤中に何らかのトラブルに巻き込まれたか純粋に体調が悪いかのどちらかで。
    「見に行くの?」
    「……保健室で休んで濁すより帰った方がいいならそうするべきでしょう」
    「そうだけど。背中蹴り飛ばしてタクシーに乗せるようなことはしないでよ」
    「そこまで野蛮じゃありませんよ」
     幸いにも一時間目は空きコマだ。相澤はチャイムと共に廊下から教室に駆け込む生徒達を横目に保健室へと急いだ。
     保健室にはリカバリーガール不在の札がかかっている。
     施錠はされていないのを引き戸の取手に指先をかけて確認した。なるべく音を立てないよう、そろりとスライドさせる。コロコロと戸車が隠しきれない音を響かせ、自分一人が通れる隙間に体を捩じ込んでまた扉を閉める。
     静寂の中に時計の秒針が動く音だけが聞こえる保健室の、一番奥のベッドのカーテンが閉じられていた。
     相澤は足音を殺してベッドに近づき、カーテンをそっと手でずらして中を覗き込む。
     青白い顔のオールマイトが目を閉じて寝ていた。
     ギュ、と心臓が握り潰されたように痛む。喉が潰れたのかと思うほど呼吸もぴたりと引き攣って止まる。
     体が強張って動けなくなったのは、あまりにも死の気配が濃かったからだ。
     目だけを動かした。
     その胸が、微かにでも上下しているのを確認して安堵したかった。でも布団を被せられて相澤が安心できるほどには明瞭に呼吸を認知できない。
     恐る恐る手を伸ばした。口元を覆うように手を被せ、小指の側面に鼻息がかかるかを全神経を集中させて探った。
     冷静に考えれば、死にかけの人間をリカバリーガールが放り出して離席するわけがない。
     生きている。
     オールマイトは、生きているはずだ。
     相澤の懇願に硬直は、ふわ、と温かな息が肌の上を撫でたことで一気に融解する。
    (生きてる)
     ほっと胸を撫で下ろせば、血が通うことを忘れたかのような末端に熱が流れ込むのがわかった。
     オールマイトの姿を見てからたった数秒の間に乱高下した情緒がばくばくと心臓を昂らせる。耳の後ろでどくどくと血管を流れる拍動を自覚しながら、相澤は触れはしていない手のひらにオールマイトの体温を感じた。
     また遅刻かと何も知らない相澤が呆れている裏で、オールマイトは人知れず誰かを助けて文字通り命を削っている。
     そしてきっと相澤が何も知らないままなら、遅刻してごめんねとそこには何事もなかったかのように職員室に入って来て、教師としての自覚があるのかといつものように説教をしたはずだ。
    「……ごめん。また遅刻してしまった」
     物思いに耽っている間にオールマイトは目覚めたらしい。咄嗟に引こうとした生存確認のための手を取られる。
    (つめたい)
     奥に体温はあるけれど季節にそぐわない冷え切った手を振り解く理由がなくて、握られたものを黙って握り返した。
    「帰ってお休みになったらいかがですか」
     言ってから皮肉の文面になっていたなと気付く。でもオールマイトは相澤の逡巡など見通して薄く笑った。
    「一時間目だけ休ませて貰うよ。そしたら大丈夫さ」
    「……そうですか」
     ベッドサイドの丸椅子を空いた手で引っ張って相澤はどっかりとそこに腰を下ろした。
    「時間が来たら起こします」
     繋いだ手から移る体温が少しでもオールマイトを温めてくれるなら、ここにいる時間には意味がある。
     相澤はそう自分を納得させた。一瞬で恐怖を植え付けた死の概念を薄めるには、きっとこれが一番いい。
     オールマイトは相澤の態度に目を丸くしていたけれど、繋いだ手を大切そうにもう片方の手で包んで目を閉じる。
    「温かいね、君は」
    「体温が三十六度を下回らないのが自慢なんでね」
     心臓の動く感覚。
     規則正しく繰り返される呼吸。
     冷えた手がじわりと温まっていく様。
    (……大丈夫、生きてる)
     言い聞かせる。
     薄氷の上を、脆さを知って尚進まなければならない不甲斐なさに唇を噛んだ。
    「なんか栄養つくもんでも食べに行きますか」
    「そうだなあ……鰻でもどうだい」
    「良いですね」
     重ねただけの手が這って指が絡む。
     何万もの人を救った手が今求めたのがこの熱なら、気が済むまで奪い尽くしてくれて構わないのに。
     その思考の出どころに相澤はまだ辿り着けずにいる。
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