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    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    オールマイトさんが相澤くんの服を買いに行く話、というリク

    三諭吉きっちり使い切るまで帰れまてん【オル相】「相澤くんの服が買いたい」
     深夜の職員室で突然呟いてオールマイトは机に突っ伏した。何回も怒られているだろうから、今し方腕をどかっと置いたキーボードが織りなすであろう謎の文字列の前に書類の上書き保存はされているのだと信じる。
     世迷言を口にするだけの判断力はあるらしいと相澤は冷めた目で金髪のライオンヘアの後頭部を見つめた。
     職員室には相澤とオールマイトしかいない。
     だからこそ、何言ってんだという視線を投げかけるだけでリアクションを終えようとした相澤は、オールマイトのストレスが高まっているのでは?という疑念に駆られた。
     まだひとりで上手くできるようになったとは言えない書類仕事、提出物と申請書の山は実技を伴う日中に消化できるはずのない業務量となっている。勿論オールマイトに預けたのは初歩も初歩のものだが、捌いても捌いても果ての見えない慣れない仕事に心が疲れている。
    (……恋人らしいこともしていないしな)
     土日とて休日出勤、疲れ果て家に帰ったら寝るだけで最早曜日感覚はないに等しい。
     このままでは、強制的に休もうと思わなければ休めない。
     相澤はこの生活に慣れすぎて何とも思わなかったが、忙しさに押し出されて忘れそうになる頃に思い出す。オールマイトと交際している事実を。
    「無駄遣いはおやめください」
    「無駄遣いじゃないよ!君を包むものだよ?!」
    「私服なんかどこで着るんです。寝巻き代わりのジャージやスウェットで満足してますよ俺は」
    「うう。でも!たまに!着るだろ!」
     交際当初、オールマイトから初手で贈られた出張によさそうなシンプルなバッグを校内で持って歩いていたら、マイクとミッドナイトに五度見されたことがある。バッグの出自を根掘り葉掘り聞かれ単純にオールマイトから貰ったと答えた際に見せられたブランドの公式サイトに記された金額に、相澤はオールマイトとの金銭感覚の違いを思い知り、勝手にプレゼントを贈るなと激しく言い含めた。反論は常識で封じて、オールマイトは相澤に何かを買いたくても買えない状態が続いていた。
     相手に似合う物を見かけたら買ってしまうオールマイトと、人から物を貰うことに抵抗感のある相澤の価値観は決定的に合わない。
     その一点で喧嘩をすることも可能だが、別に好き好んで言い争いをしたいわけでもなければオールマイトの気持ちに悪気がないこともわかっている。
     だから相澤は少しばかり眉間に寄せた皺を指先で揉みほぐしながら、今週どこかで一時間くらい空けられますか、とオールマイトに問うた。
    「デート?」
    「のようなものです」
    「行く!」
    「すみませんがプランは俺に任せてください」
    「うん!楽しみ!よーし、やる気が出てきたぞ」
     飴玉をひとつ口に放り込んでオールマイトが情熱に満ち満ちた顔でパソコンに向き直るのを眺めながら、相澤は人参の有効性が差し出した側にも良い影響をもたらすのをじんわりと自覚していた。


     さて、デート当日、夕方五時。
     相澤が指定した待ち合わせ場所で待っていると時間の五分前にオールマイトは深いチューリップハットを目深に被り、カジュアルな格好で現れた。オールマイトっぽくない服装で来てくださいと指示をしたので、ひょろりと伸びた身長から近寄って来る男がオールマイトだと相澤は察したけれど、外見だけをすれ違いざまに判断するならまずオールマイトとはバレないだろう。
    「お待たせ」
    「似合ってます」
    「ありがとう。若者ぶり過ぎてないかな?」
    「似合うからいいんじゃないですか」
    「で、どこに行くんだい?」
    「此処です」
     相澤が指差したビルの看板には世界的に有名なアパレルブランドのロゴが記してある。ただしオールマイトが普段使いをするような高級店ではなく大衆向けの衣料小売店だ。
    「このお店?」
    「入ったことありますか」
    「いや、ない」
    「この店、どちらかというとシンプルなデザインで安価なものが多いんです」
    「なるほど」
     店内に足を踏み入れ、オールマイトは一番目立つところに積まれているシャツを一枚手に取って広げてからプライスカードと見比べた。
    「それで?君は今日何を買いに来たの?」
     オールマイトの問いかけに相澤は逆に聞き返す。
    「今日、財布持ってきましたか?」
    「うん。ひょっとしてお財布忘れた?」
     いえ、と相澤は首を横に振って、ポケットから茶封筒を出してオールマイトに差し出した。
    「ここに三万入ってます。これで、この店の中限定で俺に似合う服を見繕ってください」
     オールマイトは目を見開き、それから仕掛けられた誘いの意図を把握して意味深に微笑みながら唇を指で撫でる。蠱惑的に撓められた目が相澤を上から下まで往復して、オールマイトは手のひらで封筒を相澤に押し返した。
    「私が払おう。楽しそうな試みだ」
    「制限時間は三十分で」
     すっとオールマイトが手を挙げる。
    「どうしました」
    「私、今夜の予定はもう入れてないんだ。君は何時まで自由になるの?」
     オールマイトは既に本気モードに入っている。真剣な眼差しが三十分で足りるわけないだろと訴えていて、相澤は火の付け方を間違った気がして来る。
    「……俺も今夜は何もありませんが。ここで時間を食えばそれ以降が押していくだけですよ」
     相澤の言葉にオールマイトは辛そうに考え込む。
    「此処で一時間くれ。その後ご飯を食べに行こう」
    「……その後は?」
    「朝まで帰す気はないよ。帰りたいなら無理強いはしないけど」
     相澤はポケットに茶封筒を戻しながらリサーチが無駄にならずに済んだと微笑む。
    「隣のデパ地下にお惣菜とか売ってます。朝の分もまとめて買って帰ってあなたの家で食べましょう。その方が時間の節約になる」
     オールマイトは遠回しに朝まで帰らないと宣言した相澤を前に大きな手で顔を覆った。
    「集中して服選べないじゃないか……」
    「元平和の象徴ともあろうものが誘惑に弱くていらっしゃる」
     煽る相澤は半笑いで適当なシャツを手にして自分の胸に当てて見せる。
    「どうです?似合ってますか、俊典さん」
    「……君にはその色よりこっちの方がいい」
     別のハンガーを手に取るオールマイトの苦悩の表情があまりにも面白くて、相澤は持つのを忘れた買い物カゴを取りに入り口へ駆け足で戻った。
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