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    はねた

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    はねた

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    ファ環とオル相前提、ファットさんとあいざわ先生

    #hrak
    lava
    #ファ環
    fahrenheitRing
    #オル相
    orbitalPhase

    きみは太陽 花の下で子どもが眠っている。くるりとまるまって、ちいさな頭をかたわらのひとの膝にのせている。
     尖った耳、黒髪がさらさらと風になびく。ファットガムはベンチに両腕をまわし、こどもの眠りを妨げないようにしていた。
     足音に気がついたか、その目がこちらに向けられる。その姿はずいぶんと痩せて、戦の激しさをものがたっていた。
    「よお」
     短いひとことにも西の風情がある。そういえば数日前、会議のために方々からヒーローが集まるという話を聞いていた。返事のかわりに相澤は片手をあげる。ベンチに歩み寄れば、金属の義足がかしゃりと鈍い音を立てた。
     昼の陽射しがきらきらと、ファットガムの髪を金色に透かす。秋海棠の花が背後にあって、ベンチのなかばほどを覆っていた。戦況は厳しく、いつであれ予断を許さない、そのなかにあって、ファットガムと眠る子どもの姿はまるで一幅の絵のようだと、そう思ったけれどもそれを口にするのはやめておいた。
    「どうした」
     たずねればファットガムはにいと笑ってみせる。
    「泣かれた」
     快活な普段には似ず、その声は低くちいさい。その膝のうえ、子どもはすうすうと静かな寝息を立てている。
     こちらの目問いに応えるつもりか、ファットガムは背もたれに肘をかけ、こころもち体をそらすようにした。
    「まあ、なんかな。一線越えたいとかそういう話をな」
     相澤は無言で眉をひそめる。ちゃうて、とファットガムは苦笑いしつつ、手のひらをひらりとふってみせた。
    「いつどうなるもんやらわからんから、ファットのもんになりたいて泣くわけや。あかんて言うたら子どもやからってなめんなって、すごいで、タコやら鳥やらばんばん食って総動員して追っかけてきよる。ほんまうちのスーパーホープえげつないわ、こちとら逃げるのに必死でよう対抗もできん。好きな子に追いまくられて全力ダッシュなんて昔のギャグ漫画かと思ったわ。あげく怒り疲れて泣き疲れてこのざまや」
     どこかで遠くチャイムが鳴った。要塞、シェルター、そう呼ばれるようになっても、この場所は学び舎の気配をとどめている。
     なあ、とファットガムが笑ったままでそう言った。
    「泣き疲れて眠ってまうねん。俺らはこんな子どもらになにを託しとるんや」
    「おまえだって俺よりは若いよ」
     そう言えば、ファットガムはせやなとちいさく肩をすくめる。
    「年食ってるからまるごと責任負ってええって、そういう話でもないけどな」
     豪放なように振る舞っておいて、西の英雄はめっぽう聡い。余計なお世話だと舌打ちすれば、しししと歯を剥きだしにしてくる。
     空は青く、風は涼しい。木々がそよいで葉叢を揺らす。
     戦禍のさなかにありながら、景色はあまりに美しかった。
     ファットガムが口元で両手のひらを合わせるようにする。表情がなかば隠れて、かすかな笑みばかりが妙に目についた。
    「いつどうなるもんやわわからんねんし、跡なんか残したないな。若い身空でそんなもん負わんでええねん」
     ファットガムの懐にもぐりこむようにして子どもは眠っている。しらじらとした横顔、その目元ばかりうっすらと朱が滲む。それを眺めながら相澤は口を開いた。
    「ヒーローってのはどうしてこうもクソ与太を飛ばすもんなのかね。俺も昔、似たようなクソ話を聞いたことがあるよ」
    「いや、クソって何回言うねん教職者が」
     真顔でつっこみを入れてくるファットガムをよそに相澤は話を続ける。
    「クソはクソだろうが。だいたい他人の心に傷を残せるなんてのうのうと思ってるところがおこがましいんだよ。ヒーローだからってそんなこと自分の意思でどうこうできるわけねえだろ」
     ちらりと脳裏によぎるものを、相澤はかぶりをふって払いのける。口にした、その言葉をほんとうにぶつけたいのは目のまえの相手ではなかったし、それはきっとファットガムにも気づかれていた。
    「それで先生はそのクソ与太になんて返したん」
    「『やったとかやらないとかでいまさらなにも減ったり増えたりするわけねえんだからとっとと年貢を納めろクソが』つったな」
     率直に答えれば、ファットガムは大仰に天をあおぐ。ベンチの背にもたれかかって、手のひらで目のあたりを覆ってみせた。
    「うっわ怖ー。怖すぎやろ。あーよかった、うちの環かわいくて。環かわいいわほんま」
    「これは教師としての勘だが、天喰も俺くらいの歳になったらこれくらいのこと平気で言うようになるぞ」
    「あーわかる、環そんなんなる、見える見える。あーさすが環かっこいいなーほんまかっこいいわー」
    「結局どうしたいんだ、おまえは」
     環かっこいいかわいいと身悶えしながらも、ファットガムは子どもを揺らさないように細心の注意を払っている。ちいさく息をつき、相澤はその顔をのぞきこむようにかがんでみせた。
    「ちなみにだが、未成年の教え子に手を出したら俺がその場でおまえを仕留めるからな」
     その言葉は想定内だったか、はいはいとファットガムが両手をあげる。全面降伏ですわと茶化すような、そのもの言いがうっとうしく相澤は盛大に舌打ちをした。
    「怖いなあ」
     へらへらと笑うファットガムの鼻先に、だまれと相澤はひとさし指をつきつける。
    「俺がターゲットに定めたんだから、ほかのやつに殺されるようなヘマはしないし、おまえにもさせないよ」
     ファットガムが目をみひらいた。金の瞳がきらきらと陽に透ける。たとえ恋心など抱いていなくても、この光をうしなうのはつらいだろうなとそんなことを頭の隅で考えた。
    「先生、おせっかいって言われへん?」
    「俺にそんなこと言うのはひねくれものだけだ」
    「あー、はい、そういうことにしといたろか」
    「なんだ、いま仕留められたいのか」
    「えー、それは堪忍したってや。俺は先生の言いつけ守って、環が大人になるまで先生にも先生以外のやつにもやられへんようにせなあかんねやし」
     ありがとな、とファットガムは笑う。ふんと鼻を鳴らし、相澤はゆっくりと踵を返した。
    「まあ、あとはそこで狸寝入りしてる未成年とよく相談しろ。あと、落ち着いたら生徒指導室にくるように言っとけ。じっくりきっちり指導してやる必要がありそうだからな」
    「先生、それいま言う? 環せっかくがんばって耐えとったのに台無しやん」
     あ起きた、とファットガムの呑気な声を背後に聞きながら、相澤はもときた道をゆっくりと辿る。 
     陽は高く、空は眩しい。
     見あげるさき、校舎の輪郭がしらじらと、光のなかに輝いていた。
     
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