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    ankounabeuktk

    @ankounabeuktk

    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    ankounabeuktk

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    付き合ってない。
    俺の胸をあなたが占領してて苦しい、のセリフ。
    お題の改変にも程がある

    甘さでつくるからだ【オル相】 それは飲み込むたびに積もっていく澱のようでいるくせに、ふとしたことで舞い上がって攪拌されて時が経てばまた静かに底に沈んで行く。
    「相澤くん、一緒に帰ろうよ」
    「新規未読メール百三十五件あるんで無理です」
    「何か手伝えることは?」
    「ないです。お帰りはあちらで」
     視線も遣らずひらりと掌を翻して見せただけ、サービス過剰だと自分でも思う。オールマイトはにべもなく断られた誘いに、そうかあと分かりやすく悄気てじゃあお疲れ様、と言い残し職員室の扉へ向かっていく。
    「イレイザー、これで五日連続断ってっけど本当にいいのか?」
     ヒョロ長いオールマイトの姿が扉の向こうに消えたのを確認してからマイクが心配して声をかけてくるが、別に相澤はオールマイトを嫌いで断っているわけではない。
    「仕事が終わらんのに帰れるか」
    「まあそうだけど。その未読メール百三十五件、百二十件はCCだろ」
    「十五件はTOだしお前の中でCCは無視して良いってルールでもあんのか」
    「ナイデス」
     キーボードを打って定期的にファイルを保存しつつ、複数のファイルを開いて応用が効くものは流用する。集中して作業しているうちにいつの間にか職員室にいる人は一人、二人と減っていった。
     窓の外はすっかりと陽が落ちて木々と夜の区別が付かない程だ。
     相澤は親指と人差し指で押さえて固くなった目頭を押さえてぐりぐりと軽くマッサージし上を向いて目薬を差す。先日ドラッグストアで新商品としてゴールデンラインに陳列されていたそれは目薬としては高い価格帯の値札だった。痛みを感じるようなドライアイに! と謳われていたのでつい手を伸ばしたが、効能としては以前のものより若干効果があるようなないような、つまりは気の持ちようの範囲内だった。
     緑色の目薬を机の引き出しにしまってまたパソコンに向かう。作業に集中しているうちは忘れていられた思考の底で、ふわりと澱が舞い上がる。
    「……」
     一度考えてしまったらもう駄目だ。出動要請か生徒の危機か、よっぽど強い出来事がない限りこの意識の端々に浮いてしまった感情のかけらは何をしていても相澤の邪魔をする。
    「ッアーータイムアップ!」
     隣でマイクが叫んでノートパソコンを閉じた。時計に目を遣る。今日は生放送の番組の日だった。
    「早く行けよ」
    「お前も早く帰れよ」
    「終わったらな」
     腐れ縁と話している時は意識しないでいられる。それが有り難くもあり、或いは既に見抜かれているからこそスルーしてくれているのかもしれないとも思う。
    「じゃあな」
     挨拶をひとつ残してマイクも部屋を出た。しんと静まり返った部屋に響くキーボードのタッチ音。それが脳内で作成した文章を指に伝え途切れるふとした瞬間とは別のタイミングで度々止まるようになる。
     明らかに集中力が落ちた。
     長時間の書類作成のせいではない。
    「……こんな感情、時間の無駄なんだが」
     相澤は卓上カレンダーに目を遣り曜日をカウントする。マイクは五日連続と言ったが、正確には今日で九営業日連続だ。十営業日前はそもそもオールマイトは午後から別の仕事があると早退したので一緒に帰ろうと誘われてすらいない。そもそも毎日マイクがいる前で誘われているわけでもないから、実数とマイクの把握数にばらつきがでるのは当然だし相澤にはそれを指摘してやる義務も優しさもない。
     気を抜けば考えるのはオールマイトのことばかり。
     平和の象徴、同僚であり新人で年上の後輩。あらゆる言葉で冷静に平凡化を図ろうとするのに、考えれば考える程自分の彼への想いが、平均的な同僚へのソレから逸脱しているのがわかってしまって嫌だった。
    (都合良く記憶喪失になる個性があればいいのに)
     自分のこのオールマイトへの名付けたくない感情だけを綺麗さっぱり消せたら、もう少し彼に興味無く接することができるはずなのに。
     ガラガラと職員室の扉が開いた。
    「忘れ物か?」
     マイクだと思って振り向いた相澤が固まる。
    「こんばんは」
     オールマイトがそこにいた。
    「何か用ですか」
     相澤が必要以上に身構えて問い掛ける。捕縛布の内側になるべく顔を隠して表情を隠した。上手く表現できない感情は予期せぬ邂逅に嬉しさを滲ませてしまうし、そんなものを本人に見せるわけにはいかない。
    「いや、寮にみんな帰って来てたんだけど、相澤くんだけまだだったから。もう遅いし、お腹空いてるだろうなと思ってご飯持って来たんだけど」
    「……はあ」
     オールマイトの弁当を食べている身としては彼の料理の腕前を疑う余地はない。それよりも、わざわざ気にかけて出前までしてくれたことがより相澤の胸を締め付けた。
    「テーブルに出しておくから、キリがいいところまで来たら食べてね」
    「ありがとうございます」
     とは言え、オールマイトのことを考えている時に突然本人に出現されるとさすがに冷静になるまで時間がかかる。掻き回された澱は薄桃色のかけらになって相澤の胸の中をくるくると踊っている。
    (……あと五通)
     確認と返信、保留の判断を繰り返していた山のようなメールはやっと未読の色の幅を狭めた。
     オールマイトは椅子にもたれて画面を眺めたままの相澤の後ろで手に提げていた大きな紙袋をミーティングテーブルに乗せると、中華丼のような皿を出した。ラップがきちんとかけられたそれを空席の前に置いて、喫茶店みたいな先端にナプキンの巻かれたスプーンをいそいそと取り出して並べている。
    「何か手伝えること、ある?」
    「……資料のコピーお願いしても良いですか。クラスの人数分」
    「任せて」
     メールタイトルと送信時間、差出人を眺めて急ぎの仕事はないと判断する。相澤は席を立ち職員室のプリンターに出力しっ放しのA4用紙を掴んで全ページざっと目を通し印刷ミスがないのを確認すると、ボールを取ってこいと言われるのを尻尾を振って待っている犬みたいな顔をしたオールマイトを直視しないように振り返った。
    「枚数多いんで印刷室使ってください。コレーター使う必要はないと思いますが」
    「これ……?」
     聞きなれない用語に首を傾げるオールマイト。
    「あー……。そういや使ったことありませんでしたね。そんなに使用頻度高くないからな」
     教えた方がいいのか迷った相澤の手からオールマイトはプリントを抜き取る。
    「これなんたらはわからないけど、これを人数分コピーしてくればいいのはわかるよ。君は温かいうちに食べてて」
     そう言い残してオールマイトは上機嫌に隣の印刷室へと続く通路を明かりをつけて進んでいった。
    「コピー機、主電源切れてると立ち上がるまでちょっと時間かかります」
     姿の見えないオールマイトに声を張って注意事項を届ける。
    「了解した!」
     快活な声が返ってきたので、相澤は大人しくミーティングテーブルに用意された夕飯の前に座った。黄色の玉子で包まれたご飯の上に麻婆豆腐がとろりとかかっている。ラップを外すとわずかだったが湯気が上がった。皿もしっかりと持つには些か熱い。
     作り立てを持って来てくれた優しさに緩む口元を必死に平らにする。
    「いただきます」
     スプーンのナプキンを外して両手を合わせた。横にしたスプーンで玉子を一口大の大きさに切りがっと持ち上げて口に運ぶ。
     無言で咀嚼していると印刷室からは機械の動作音の後、複製された紙が続け様に排出される音が聞こえて来た。
     無事に任務をこなせているらしい。
     ほとんど飲み物だった天津麻婆丼を腹におさめてまだオールマイトの戻らない印刷室の入り口を眺める。
    (わざわざ、俺の帰りが遅いからって飯持ってくるとか、本当、そういうところが)
    「……勘違いしそうになる」
     これは珍しい扱いをする自分がただ懐かれているだけで。そこに他意はなくて、純粋な優しさで。
     相澤はぎゅっと胸の真ん中を服の上から握った。
     心臓とはまた別の、いわゆるこころと呼ばれる情緒の中心部、ただの脳の電気信号のはずなのに切なさが込み上げて痛むのは決まってそこなのはどうしてなのか。
    「相澤くん、終わったよ」
     電気を消して紙の束を抱えたオールマイトが戻って来た。
    「机の上でいい?」
    「ありがとうございます。ご馳走様でした」
    「大丈夫? 足りた?」
     綺麗に平らげられた皿と相澤を見比べてオールマイトは不安そうにした。
    「もっと食えと言われれば食えますが一食分としては適量です。美味かったです」
    「そっか」
     オールマイトはそう言って皿とスプーンを紙袋にしまうと、ちょこんと椅子に腰掛けた。
    「……?」
    「……?」
     相澤はオールマイトを不思議なものを見る顔で見つめ、オールマイトはにこにこと笑って相澤を眺めている。
    「どうかしましたか」
    「終わるまで待ってるよ。夜道一人だと危ないからさ」
    「俺は三十路のおっさんで一応プロヒーローで帰宅経路は寮の敷地内ですが?」
    「一緒に帰りたいんだよ」
    「……何故」
     九営業日もぶった斬るように断り続ければオールマイトも意固地になるのだろうか。
    「どうしても」
     笑顔のオールマイトは理由を話さない顔をしたから、相澤は溜息を吐き飯代のつもりでブラウザを閉じパソコンの電源を落とした。
    「あれ? いいの? まだ未読あったよ」
    「急ぎはないので後は明日以降でいいです」
    「じゃあ帰ろうか」
     紙袋を持ってオールマイトは立ち上がる。連れ立って歩き施錠を確認すると職員室の電気を消した。廊下、職員玄関と退勤チェック表に基づく消灯手順と物理施錠を行い、電子セキュリティロック開始ボタンを押した。
     帰り道にぽつぽつと話すのは生徒のこと、授業のことがほとんどで、そこに相澤の雑念が入り込む隙間はない。これくらいの距離感で常に居られればいいのにと切に願う。
     柔らかな夜風がオールマイトから相澤に吹いて、ふわりと香った匂いひとつで吹き飛んでしまうような決意だ。
     途端に相澤の思考は、歩幅の違いを気付かせないように調整して隣を歩いてくれる男のことでいっぱいになる。
     苦しくなる胸の奥に相澤の呼吸が乱れ、ナンバーワンヒーローはそれを逃さない。
    「どうかした?」
    「……いえ。雑念が多くて駄目ですね」
    「雑念? 良いじゃない、人間らしくて」
    「……あなたはないんですか、そういうの」
     まるで自分が人間ではないと悟っているような口振りに少しだけ腹が立った。あなたもこちら側にいて良いのだと、人を捨てる必要はないのだと引き戻したくなる。
    「あるよ」
     即答されて相澤はその意外性に二の句を失う。用意していた答えはそのどれもがオールマイトの解答に合うものではなかったから。
    「胸を占領してて苦しくなる感情のひとつくらい私も持ち合わせてる」
     真っ直ぐ前を見つめて静かな声で呟くオールマイトに相澤は足を留めた。
    「……オールマイトさんでも?」
     微かな呼びかけにオールマイトも足を留めて相澤を振り返る。街頭に照らされて影になった表情の中で、落ち窪んだ目の奥の青が相澤を見ていた。
    「私は神様でもなんでもないよ?」
    「知ってます。あなたを信頼はしていても信仰するつもりはありませんよ」
    「充分すぎる言葉だよ」
     職員寮へ向かう道と学生寮への道の交点に自販機がひとつ立っていて、煌々と明かりを放っている。
    「……飯のお礼に奢りますよ」
     相澤はオールマイトの返事を待たずに自販機にポケットの小銭を突っ込んだ。
    「何飲みますか」
    「……じゃあ、ありがたく」
     オールマイトの長い指が動くのが、ひどくゆっくりに見えた。握られた手の中からするりと浮き上がった人差し指の、ボタンを押すまでの流れるような動作。
     ガコン。
     取り出し口に缶が落ちる。
     その音で相澤は見惚れていた自分に気が付き意識を戻した。腰を折ったオールマイトの腕が伸びて缶を取る。
     小さい缶の甘いカフェオレだった。
    「君は?」
     ボタンを押したいのか相澤に楽しそうに訪ねるオールマイトに相澤は「同じのを」と告げた。
    「君も甘いの飲むの?」
     ピ、とボタンを押せば缶が落ちてくる。釣りを掴んで金額を確認もせずまたポケットに戻し、オールマイトが差し出した缶を受け取った。
     そのまま寮に帰る。エントランスのソファではミッドナイトが一人ワインボトルを開けていた。テーブルの上にはきっとさっきの天津麻婆丼の残り、それとも相澤の飯の方が余り物だったのもしれないが、スプーンの添えられた麻婆豆腐が酒の肴の顔をして鎮座している。
    「アラヤダ、出前届けに行ったと思ったら本人テイクアウトして来たの?」
    「仕事の目処がついたから帰ってきただけです」
     苦笑だけして会話に混ざらないオールマイトと相澤の手元を眺めてミッドナイトはふうんと興味深げな笑みを浮かべた。
    「イレイザー、カフェオレなんて珍しいわね。しかもめちゃ甘の」
    「……疲れた脳に糖分行き渡らせるには合理的でしょう」
    「まあそういうことにしといてあげる」
    「それ以外に意味はないです。おやすみなさい」
    「おやすみ、ミッドナイトくん」
    「おやすみなさい」
     手を振るミッドナイトに別れを告げて二人は階段をのぼりはじめる。もうすぐ二人きりの時間は終わって、そうしたらまた明日の朝。
     いつもと同じ朝が来れば良い。
    「じゃあおやすみなさいオールマイトさん。今日は助かりました。ありがとうございます」
    「いや。私も君と過ごせて嬉しかったよ。これご馳走様」
     さっとカフェオレの缶を掲げてオールマイトは別のフロアにある自分の部屋へと更に上へ階段をのぼっていく。
     部屋に入るとカフェオレの缶をいつもはノートパソコンが載っているテーブルに置いた。今日はパソコンを持ち帰らなくても済んだからやっとまともに眠れる。
     相澤は少し考えてからカフェオレ缶のプルタブを起こした。オールマイトとお揃いにした好みとは離れた飲み物を記念に取っておこうか迷ったその迷いごと一気に飲み干す。
    「俺の中に居座ったあんた全部」
     喉を流れていく甘さごと。
     相澤を苦しめるくせに愛おしくて手放せない今日のオールマイトのかけらたちは明日、相澤の血肉になるだろう。
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