善は急げ【オル相】「いいお式だったねえ」
「そうですね」
二次会へ向かう面々に別れを告げ辿り着いた自宅マンションで、やっとひと心地ついた気持ちで引き出物の紙袋をテーブルに乗せる。窮屈なネクタイも今日ばかりは真面目に締めたし、役割は全うしたと急いで解く仕草を見てオールマイトが苦笑した。
「やっぱり苦手?」
ついと伸ばした手が半端に解けたネクタイの端を摘む。得意ではないですと問いを消極的に肯定すると、オールマイトは長い指に絡め取るようにしてしゅるりと引いて相澤の首からネクタイを外した。
上機嫌なオールマイトはそれを自分の首に掛け、お裾分けされた幸福を抑えきれないかのように相澤を見つめて微笑んでいる。ともすればだらしなく鼻の下が伸び切ったようなそれも、オールマイトにかかれば全てが様になっているのだから不思議だ。
「素敵な二人を見ると、羨ましくなっちゃうねえ」
「あなたには俺がいるでしょう」
「うん。私は幸せだ」
そう言ってぎゅっと抱き締めてくるオールマイトの胸に顔を埋めるには今日の一張羅の価格が怖すぎて勇気が出ない。ワンクッション手のひらを挟んでひとしきりの抱擁のあと、相澤は腕の中でオールマイトを見上げた。
「……結婚しますか、俺達も」
ぱち、と瞬きの音が聞こえた気がする。
それくらい、オールマイトはびっくりしたように目を見開いてから何度も、目の前の相澤が現実かどうか確かめるように真顔でじっと見つめてから、いいのかい?と小さな声で確認をした。
のらりくらりと避けていた話題だ。二人で共に暮らしている今はもう事実婚のようなものだったけれどそれ以上に触れないオールマイトの真意と相澤の本音が交わるにはきっかけが必要だった。
例えばこんな、互いの関係を改めて考えざるを得ないような時間とか。
「良いですよ」
だってきっと何も変わらない。
今日のような明日が続くかはわからなくても、胸の中の愛だけはきっと永遠と呼んでも構わないはすだから。
「言ったね。じゃあ今から役所に行こう」
「今からですか?」
「ああ。折角おめかししているんだもの、このまま私達も籍を入れてしまおう」
オールマイトは解いた相澤のネクタイをテキパキとまた結んで手を取った。
「さ、善は急げだ」
手を繋いだまま部屋のドアを開け、さっき戻ってきたばかりの地下駐車場から夜の街へエンジン音を響かせてオールマイトの愛車が躍り出る。
幸せに当てられた浮かれ気分と勢いに背中を押され、誰にも秘密で愛を紙に書き付けて今夜二人は家族になった。