震え【オル相】 かちかちと歯の根が合わなくなるような寒さを知っている。体は自分の思惑を超えてかたかたと震え出し、音を潜めたいのにそれすらままならない。
いつの事件のことだだか。
命のかかった追い詰められた感覚を思い出し、そして今のあまりにも呑気な状況と対比をして、目の前に広がる白銀と静寂の壮大さを前にただ寒さにのみ震えるだけだ。
後ろから相澤を包み込んで抱き締める温かさがある。
相澤の頭に顎を乗せて、戯れにわざと歯を打ち鳴らしたりしながら、今夜が極大日の流星群を見たいのだとわざわざ冬の、北国の山奥まで連れてきて、こうして二人ただ空を見上げている。
「……流れませんけど」
「待ってればきっと流れるよ。寒くない?」
「寒いって言ったら、温めてくれるんです?」
どんなに指先に息を吹きかけても、どんなに手を擦り合わせても、どんなに足踏みをしても痺れを感じるほどに落ちた体温はすぐに温まりはしないのだ。
真上に向けた視界から空が消える。
「汗だくになるくらいには温められるけど、せめてひとつくらい、君と流れ星、見させてよ」
剥き出しの相澤の両手を掴んでオールマイトは自分のコートのポケットに引き入れた。ミニカイロに触れた指先のじんわりとした熱さよりもっと熱いものを知っている。
星なんかどうでも良いからこの震える体を今すぐに攫って欲しいと、まだ来ぬ流れ星に願いを馳せた。