小さな嘘【オル相】「ねえ相澤くん。もし良かったら週末、映画見に行かない?」
「あー……すみません。マイクと先約が」
「そっか。じゃあ、またタイミング合う時にでも」
「はい」
宜しくお願いしますと下げた頭を上げた時にはオールマイトはさみしそうに微笑んで俺から遠ざかって行った。その後ろ姿が職員室から出て行くのを見送って、キャスターを転がして椅子ごと勢い良く寄って来た人影がある。
「ヘイマイフレンド。俺週末なんか約束してたか?」
「いや」
「大好きなオールマイトからデートに誘われて断る理由を是非とも教えて欲しいなァ?」
「ボロが出るから嫌だ」
「いや出せよ。むしろマイティはそれを求めてるんだろ?!」
「無理」
捕縛布に顔を埋めて薄目でパソコンを見る。俺の顔を覗き込んだマイクは苦笑してぎし、と椅子を最大限反らせて嘆息した。
「家に誘えって言っとくわ」
「……もっと無理だろ」
「うるせえ。さっさとくっつけ。間に挟まれる俺の身になれ。週末の約束ダメになったって俺からマイティに言っとくからな」
「は?!」
「家で手料理振る舞われて代わりに喰われてこい」
「他人事だと思って好き勝手言いやがって」
「お前らがくっつくためなら俺だって合理的虚偽のひとつやふたつやみっつくらいなんでもないのよ」
ししし、とどこかで見たような犬のような秘めた笑い声を漏らしてマイクはオールマイトの後を追いかけるのに椅子から飛び降りる。
予定のないカレンダーが、視界の端で存在を主張していた。