千ゲ温泉旅行「 ねぇねぇ、千空ちゃん!温泉行かない?」
ある日、ようやく大学の課題が落ち着いた千空にそう誘いかけた。すると、怪訝そうな声が返される。
「 ぁ?」
「 この前福引で当たったの♬……最近千空ちゃん、課題の関係で引きこもりきりだったでしょ?気分転換にどうかなって思って」
あっ、もちろん俺も休暇取ったし。
だめ?と小首を傾げて問いかけると、
「 お忙しいゲーノージン様がわざわざ休み取ってくださったんなら、おありがたく行かせてもらうわ」
いつものシニカルな笑顔でそう返された。
それで、週末に二人で出かけることにしたのだが。
「 うわ、ゴイスーバイヤー……嵐、だねぇ」
千空の運の悪さをすっかり忘れていた。
家を出るまでは晴れていたのに。
現地に着いた途端の暴風雨に加えて雷、濃霧。……せっかく色々調べてきたのに、これでは、観光どころではない。
「 あっでもこの旅館、温泉とゴハンは評判いいとこみたいだから、今回は出かけないでのんびりしよっか」
フォローするように言うが、千空の側は特に気に留めた様子はなかった。
「 ぁ。……明日晴れたら、テメーの自作観光マップ使わせてもらうわ」
「 な、ななななんで知ってんの……⁉︎ 」
こっそり作っていたガイドマップに言及されて、ゲンは狼狽える。
「 テメーが居間のパソコンに突っ伏して寝てたから。あ、出力したのとテメー寝床に運んだの俺な」
あんま無理すんな。
そう言われて、顔から火が出そうになった。
確かに、あの日は気がついたらベッドで寝ていて。起きたら、作業スペースに出力済みのガイドマップがきちんと揃えて置かれていた。
サプライズが全部バレてた上に、千空ちゃんの手を煩わせてしまったなんて、ジーマーで恥ずかしい。
「 晴れるといいな、明日」
千空は本当にさりげなく、そんな言葉をくれる。
「 やだ」
「 ……うん?」
「 千空ちゃんがジーマーにスパダリで俺惚れそう」
なにげなくつぶやくと、どこかムッとしたように。千空はずい、と距離を詰めてきた。
「 ……今は違うのかよ」
今は惚れてねぇのか。と。
言外に言われて、ぶわっと羞恥とときめきが込み上げてくる。
「 はい!ベタ惚れです!!!」
のめり込むように宣言すると、目を丸くして。なんだそりゃ、と吹き出した。
「 お、部屋風呂あんのかここ。……意外と広いな」
「 うん、ゆっくりできていいかなって」
千空が話題を変えてくれたので、積極的に乗っかっていくと、そこで千空は意味深な笑顔を浮かべる。
「 ……だな。誰かさんの足腰が立たなくなっても、これなら困らなくてすみそうだ」
え、と訊き返す暇もなく、背後から腕が回された。そのまま、ちゅ、と首筋に口づけられる。
「 え、ひゃ…ぁんッ!」
ふいのことに大きな声が出てしまい、羞恥に耳まで赤く染まってしまう。
「 え待、ちょ待!……ほら、汗だってかいてるし、せめて、お風呂……!」
「 ……相変わらず、甘ったるい匂いするなテメー。花の匂いか?」
「 えっ、えっ、そう?あっでも今日は、この前千空ちゃんにもらった香水…… 」
そこまで言って、ハッとする。恋人とのデートで、贈り物の香水を着ける意味。
「 へ〜〜え…… 」
先に、千空の方がそれに気づいたようで。
もう一度、ちゅっと音を立ててうなじにくちづけた。
「 ……あとは、……ああ、ここか」
くん、と鼻をひくつかせながら、匂いをたどって耳の裏へ。
そこから、顎を通って鎖骨の窪み。
胸にもたれかからせて、肘の内側と、手首。
すべてに掠めるようにキスをして。
最後に、くちびるに戻ってきた。
「 ……ん……ふぁ…… 」
「 他にはねえのか?……キスして欲しい場所」
揶揄うように言いながら、ねこをあやすようにのどをくすぐる。
……そう。恋人からの贈り物の香水をデートに着けて行く時、香りを纏わせた場所は、恋人にキスしてほしい場所。
という俗説がある。しかし、こういったことを千空が知っているのは、少し意外だった。
「 まー、こーいう話題はどこでも尽きねぇからな」
そう言って、胸板に背を預けて脱力しているゲンの、上着を脱がせ、襟を緩めて布団に押し倒した。
「 どうせ外には出れねぇし、たまにはゆっくりしようや」
それに。
続く言葉に、ゲンは顔をあげる。
「 テメーの言う通り、ずっと引きこもってたからな。……テメーが、足りねぇ」
充電させろ。
言葉と同時に、深くくちづけられて。
ゆるやかに舌が絡みついてくる。
それに応えるように、千空の背に腕を回して、ゲンからも舌を絡めた。
荒天の薄暗い室内に、吐息と、互いを貪る音だけが響く。
「 ……ん、ぁん……ッ 、は、…… 」
狭い器官を満たされて。揺さぶられて。
嬌声を上げながら、ゲンは千空の背に縋り付いた。
「 ……ふ、……ぁあああ、ッん……せんく、ちゃ……ね、……きもち、いい……?」
問いかけて、下腹部に力を入れ、内部を締め付ける。やや狭くなったそこを、掻き分けるように千空は抉った。
「 ひゃ、ああぁんッ !」
そのまま、激しく抜き差しを繰り返していく。
「 ……ぁ?ンなの、テメーの身体のがよくわかってんだろ。そう言うテメーは、どうなんだよ?」
感じやすい粘膜を擦り上げてやると、きゅうきゅうとナカが締まった。
「 ……あ、……はぁ、ぁああああんッ!きもち、いいよぉ……っ!」
素直に応じてくるゲンのあたまを撫でて、額にくちびるを落とす。
そのまま、互いに縺れ合うように、しっとりと身体を重ねあった。
目が覚めると昼過ぎで、互いに何をする気も起きなくて。
しばらく心地よい体温に身を寄せて、シーツの海を揺蕩う。
「 ……今日、ちょっと寒いねぇ」
ぶるっと身を震わせたあと、千空ちゃんあったかい!とねこのように擦り寄った。
「 〜、せっかく部屋風呂あるし、温泉入るか」
「 あっ、そっか。いいね。入ろ入ろ!」
そう言って二人でいそいそ支度をして、部屋風呂に向かった。
部屋に入った時に千空が言っていたように、意外と湯船は広くて。
ふたりでも、ゆったり浸かれそうだった。
丁寧に髪と身体を洗って、互いにチェックして。大きな湯船にふたりで浸かった。
ぽかぽかと、身体の芯まで暖かくなって。
旅の疲れまで、消し飛んでいくようだった。
「 お風呂、ゴイスーきもちいいね」
「 だな」
はたと、先程の情交のあとが目に入って、少し恥ずかしくなる。
もじもじしていると、抱き寄せられて。
やさしくあたまを撫でられた。
身も心もぽかぽかになって、浴室から出ると、依頼をしていたルームクリーニングが来たらしく、真新しい布団が敷かれている。
ごろんと布団に横たわると同時に、眠気が襲ってきて。
気がついたら、二人してすうすうと寝息を立てていた。
結局、旅行の間ずっと、荒天が続いていたために、どこにも行けなくて。
1日目と同じ、のんびりして、セックスして、温泉でくつろいで、布団でまったりして。
起きたらまた、セックスして。と言う、スローライフと言えば聞こえの良い、怠惰で過ごしてしまった。
けれど、互いにこうしたゆったりした時間はなかなか持てないため、いい充電にはなったと思う。
帰宅してから、旅行はどうだった?と周囲に訊かれ、天気が悪くてずっとゴロゴロしてた旨を説明したところ、盛大にガッカリされたが、それでも。
いっしょに出かけられたことが、嬉しかった。