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    safe_4771

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    safe_4771

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    お題:「動物園か水族館に行くシチュエーション」
    コミティア合同誌「片思い拗らせ」の『きみは友を捨ててくれ』の世界観で。

    『ぼくは友を捨てきれない』


     県民の日は、県下公立学校は休みになる。市立戸張烏丸高校一年生にして部活には未所属だが、金もなく、しかして偶然予定もなにもいれていなかった、三宅景一、美墨翔太、下山遥人はこの空白の一日に対し、一体なにをしようかと額を突き合わせて悩みこんだ結果。
    「そういえば僕、動物園に行ったことがないなぁ」
     という景一の鶴の一声により、学校から三十分電車に揺られたところにあり、旅行雑誌にもそれなりに取り上げられるような動物園に行くことにした。
    県民の日では、一部の県運営の施設に大して使用料や入場料が割引になる。現役の学生なら、なおさらその恩恵を大きく受けられる。三人は学生証を入場ゲートで受付の女性に提出し、堂々と入場した。
     受付の女性に渡された全体マップを見る限り、動物園はある程度屋内施設も備えているようではあった。しかしほとんどは整備された公園のような広々とした空間のなかに、動物が仕舞われた檻が点在しており、すべて回るのもなかなかどうしていい運動になりそうだった。
    「ケイちゃん!こっちチーターいるぜ!」
    「こっちトリ。すげーでけートリいる」
    「ふたりとも全然違う方向行くな!迷子になる気か!!」
     てんでんばらばらの方向へ突っ走ろうとする翔太と遥人を御しながら、景一は散策を続けていく。
     歩いていくうちに、景一の歩みがとある檻の前で止まる。キリンの檻の前だった。一頭しかいない。キリンは体格の大きな生き物ではあるけれども、それでもこの檻はあまりにも広すぎるように思えた。
    「…………」
     檻の前に設置されている説明文を読む。昔は複数頭飼育されていたようだが、今はこの一頭しか飼育されていないらしい。動物園の方針や、このキリン自体の相性というのもあるかもしれないけれど、だだっぴろい空間のなかたったひとりしかいない環境というのは、かつての自分が思い起こされて。
     この高校生活が悪あがきだというのは、自分でよく理解しているけれども、また今更あの環境に戻る可能性があるかと思うと、ふたりと会えない未来が来るかと思うと、どうしても気が重くなる。景一は溜め息を吐いた。
    「うわーキリンだ!背ぇたけー」
     景一の心を知ってか知らずか、翔太と遥人は再びかしましく騒ぎ始める。
    「ケイちゃん、見てよここ」
     遥人が指で指し示したのは、先ほど景一が見ていた案内板だった。それを改めて見ても……と思いながらも、景一は従った。
    「このキリン、飼育員さんにすごい懐いてるんだって」
    「足音聞いただけで寄ってくるのかー、おれより賢いわ」
    「……そう、か」
     ふたりの会話を聞いて、景一は理解できた。
     もう自分はかつての檻のなかひとりぼっちの自分ではなくなってるのだと。そして今、自分はまだ檻のなかからまだ完全に出ることはできていないかもしれないけれど―――違う視点をくれる
    大事な友人がいるのだと、確信したのだった。
    「ケイちゃんどうしたの、なんか遠い目して」
    「ひょっとして、サクジョの子から返事来てないの、まだ気にしてんの?もう諦め時だと思うぜ」
    「うるさいうるさい。ああもう、折角おまえたちってバカじゃないんだなあって思ったのに」
    「えっ、おれ巻き添えくらってない。言ったのハルじゃん」
    「わーん、ケイちゃんの反抗期ー!」
     やかましく言い合いをしながら、キリンの檻の前から離れていく。騒がしかったのだろう、キリンは長い首を一瞬三人組の方に向けて、大きな瞳を不思議そうに瞬かせた。


    ―――おわり―――
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