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    さくらい

    さくらい(@kkk_turnA)の企画用ログ。作業進捗もこっちに。自創作系は未定。

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    さくらい

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    独白。 家に着いたのは、既に夕刻を周り夜に差し掛かっていた頃の気がする。何をどうやって帰ってきたのかは朧気で、道中のことはあまり覚えていない。
     とうに心身は疲れ切っていたのかもしれない。ようやく家の玄関に辿り着いたはいいものの、家の中に入った時点で扉に凭れ掛かり、扉伝いにその場に座りこんでしまった。
     腹部に受けた傷の、固まった血が皮膚に擦れ痛みが走る。さすがに手当をした方がいいかもしれない。……が、身体が鉛のように重い。さすがに道具を取りに行く気にはなれなかかった。

    「…………っ、」

     口を開こうとした時に、口元に刺さるような痛みが走る。口の端が切れているようだ。つい先刻……いや、先刻でもないか。室園くんに殴られた時に出来たのだろうか。指で少し擦りながら、軽く息を吐いた。
     彼に受けた言葉は、至極真っ当なものだ。彼に声を掛けてもらえなければ、殴られでもしなければ。自分は未だにそこから動けなかっただろう。
     ……実際、侑兎くんの徐々に冷たくなっていく身体を抱き抱えながら、俺は目の前が真っ暗になっていた。
     いつ戦闘が終わったのか。
     鳥居から出現していた腕がいつ消えたのか。
     いつ夜が明け、太陽が見えたのか。
     それすら分からない程長い間、我を忘れていたのだと思う。
     室園くんが抱えていた槌出くんの遺体を見て、ようやく、彼女まで亡くなってしまっていたことに気付いた。
     ……我ながら最低だな。共に戦っていたというのに。
     あの時の『鳥居を壊そう』といった言葉が、彼女さえも亡くしてしまったようなものだろうに。
     ……せめて、向かう先が安らかであるようにと、祈ることしか出来ない。



    「……さすがに、此処で寝るのは……まずい、か」

     目を閉じたら、そのまま意識を手放してしまいそうだった。
     手を地につけながらゆっくりと身体を起こそうと試みた時、ジャケットのポケットからいくつか物が落ちた音がした。
     視線を向けると、……侑兎くんが持っていたメモ帳とボールペン、ループタイだった。遺体を運んだ先で、その場にいた職員に『お前が持って行け』と手渡されたもの。
    何故自分に手渡されたのか要領を得なかったが、押されるがまま持って帰ってきてしまった。彼が着ていたジャケットまで一緒に。
     ループタイとボールペンを拾い上げ、ポケットの中に仕舞い込む。失くす訳にはいかない。……でも、拾い上げたそれらを、ずっと眺めていることも出来なかった。



     ーーそういえば、侑兎くんはいつも何かあるとメモを取っていたな。自分もそういう性分であるが故に、同じだな、と声を掛けたことがある。あの時は何を書いていたのかは、最後まで見せて貰えなかったが……。
     ふと侑兎くんのメモ帳を手に取り、パラ、とページを捲る。
     そこには、侑兎くんの疑問に対しての、色々な人からの助言が細やかに纏められていた。
     甘得る、という単語は初めて聞いたが。……思えば、もう一月以上は前になるだろうが、初めて侑兎くんからケーキを食べに行きたいと言われた時があった。あの時は思わず俺は浮かれてしまっていたが……あの行動も室園くんに相談してこそのことだったのかと、合点がいった。

     次の頁は、侑兎くんが使用する術に関する記述だった。……彼は本当に勉強熱心だな。度々特訓は共にしていたが、ここまで細かく分析してあるとは思わなかった。普段使う術の詠唱速度、持続時間、使用回数の限度の平均値まで細かく考えられている。
     ……侑兎くんには、努力家、という言葉がぴったりだろう。
     侑兎くんが真剣にメモを取っていた様子を思い出して、少し口元が緩んだ。

     更に頁を捲っていくと、素直になる方法、と記述された頁があった。素直になるための目的に対しても、小さく記述がーー……
     頁を捲る手が不意に止まる。

    「……俺、の、ため………?」

     視界が揺らぎ、身体がより重くなるのを感じた。
     ここでも、色んな職員に尋ねたのであろうまとめが書かれている。不破くんにまで相談していたのは少し意外だが。彼はどう見ても素直な性格はしていないだろうに。
     侑兎くんの俺に対して厳しい一面というのは、多少なりともあったことは自覚している。それは、俺の至らなさが原因のことが大半だったはず……だが、彼の「理由」と「作戦」を見てその考えは違うのだと理解した。

     ……俺の為に、素直になろうとしてくれていたのか。

     堪らず、息が詰まりそうになる。
     喉元をおさえ、ゆっくりと息を吐きながら、また頁を捲っていく。

     次の頁は、侑兎くんの今後の予定。色んな人との今後の予定が書かれていた。一つ一つ読み進めていきながら、侑兎くんの交友関係の広さを知った。……まだまだ、彼の知らない所というのは、沢山あるんだなと感じる。
     ここにも俺に関する記述があった。家事が出来ているかの確認……家事は、侑兎くん達に教わったお陰で、少しずつ出来るようになっているんだよ。まだ、引っ越した荷物はあまり片付いてもいないけれど……少しずつ、料理もするようになったんだと、教えてあげたい。
     ……旅行。旅行か。それも良い。最近はずっと慌ただしかったし、侑兎くんの家に行けば三つ子の妹達も一緒に来てくれて、二人きりになるという機会もあまりなかったから。二人で旅行に行きたいという予定は、叶えてあげたい。
     二人で有給を取って、御神楽を出ても良いな。電車に乗って旅をしても良いし、二人でなら何処でもきっと楽しい。
     ……叶えて、あげたかった。

     どうやら、そろそろ最後の頁のようだ。いくら自分に渡されたとはいえ、自分がここまで読んでしまって良かったんだろうか、と頭の片隅では考えるものの、指は勝手に最後の頁を捲っていた。


     ーー彼の想いが、言葉が綴られていた。
     四月以降、誰がいつ死んでもおかしくない所にいるのだと、彼自身も感じていたようだ。
     「京之介さんへ」という文字の後に綴られた言葉達。
     
     『ーーもし僕が先に死んだとしても、京之介さんは生きてください
       どんなことがあっても自分を責めないでください』

     (どうして、)
     (どうしてそんな事を言うんだ)

     そこから先の言葉も、『一人で無茶はしないで』『直ぐ動かずに冷静に』『怪我や病気には気を付けて』等、俺への気遣いや、家族への心配が見てとれる言葉が並ぶ。

     どうして君はいつも、自分以外のことを心配するんだろうか
     戦いの時だって、自分のことよりも俺のことばかり気にして
     あんなに大きな傷を受けて、出血だって酷くて、痛かっただろうに
     それなのに、最後まで、最期まで俺のことばかりで

     ーー責めて欲しかった。
     頼りないバディだったと、最後まで役に立たなかったと。
     最後まで、君に対して笑うことも出来ないような、君の事にばかり気を取られて、他人の死さえ上手く弔えない、周りの人の言葉にすら応えられない、最低な人間であると。
     それでも君は、俺のことを叱りはしても、責めはしないのだろう。"自分を責めるな"と言うのだから。
     少し意地っ張りな所もあるけれど、それでも、俺には……俺には、少なからず頼っていてくれていた。甘えてもくれていた。
     そんな優しい君だから、俺みたいな人間に好かれてしまうんだ。
     俺は君の優しさにすら、願いにすら、酷いなどと思ってしまうような男なのに。



     遺品についても書かれている。……あぁ、職員の人は先にこれを見ていたのか。だから、彼のループタイも、このメモ帳も、ボールペンも俺に渡したのか。本当に、用意周到じゃないか。本当に、いなくなることが予見出来ていたかのように。

     あぁ、二人には必ず渡そう。必ず。君がそれを望むなら。


     侑兎くん。俺の気持ちは、少しは君に伝わっていただろうか。俺も、同じ気持ちなんだ。本当に、大好きなんだ。
     君に会えて良かった。君に会えたお陰で、君が隣にいてくれたおかげで、俺は前を向けたんだ。何事にも真剣な君だったからこそバディを組みたいと思ったし、君を家族ごと守りたいと思っていたのも本当だ。君の隣にいて、君の家族と共に過ごせて。君の家族の一員の慣れたような気がして、嬉しかった。
     君と少しずつ強くなっていくのを実感出来て。君と時折笑い合うことが出来て。本当に本当に、幸せだったんだ。
     君が味方でいてくれるなら、俺はなんだって出来そうな気にもなっていた。
     君に想いを告げられたなら、君が学校を卒業したら一緒に暮らそうって、もっと早くに言えたら良かった。
     
     俺は、君がいないと何も出来ない
     このまま君の元にいけたなら、どんなに良かったか

     ーー最後に見た君の表情と、言葉が脳内を過ぎる。
     『大好き』だと。『ずっと一緒にいたい』と。

     ーーあぁでも、そうか
     俺は、これからも"生きる"んだ
     生きて、いかないといけないんだ
     大好きな侑兎くんと、ずっと一緒にいるんだから
     これからもずっと、生きて、君の側にいると、約束、した


     そう思った時には、自分の身体は地に臥していた。
     限界だ。もう身体が動きそうにない。ろくな思考にもならない。
     意識が落ちそうになる。

    「………酷いな、侑兎くん……」

     君の所に、いけないなんて。
     倒れた身体と同時に落ちたメモ帳は、隙間風に煽られてパラパラと音を立てながら、頁を捲っていく。
     意識が朦朧とする。
     視界の端に、侑兎くんの姿が見えた気がした。触れてもらえるような気がしていた。
     風を感じたことによる、都合の良い幻かもしれない。もしくは、もう既に、俺は自分に都合の良い夢を見ているのかもしれない。
     でも、それでも良かった。まだ俺の中から消えないでいてくれるなら。ゆっくりと目を閉じながら、君の姿を思い描く。

    「……傍に、いきたかったよ」


     ーーどうか、目が覚めたら、君がいますように




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