「うーん……」
彼は洋服屋のマフラーコーナーの前で唸っていた。
随分長い時間悩まれているようだったので、後ろから声をかけてみた。
「クリスマスプレゼントですか?」
「うわっ、びっくりした。」
目深にかぶった帽子の下は、人気アイドルIDOLiSH7の和泉三月だった。
「あっ、すみません。驚かせてしまって。」
他の客や店員にバレると騒ぎになりかねないので、平静を装って話を続ける。
「いえ、オレも熱中してしまって……。そう、クリスマスプレゼントなんですけど、どんなのが似合うかなって。」
そういう彼は少し顔を赤らめる。全然そういうニュースは聞かないが、彼女か好きな人でもいるのだろう。
「お相手の方はどんな方ですか?可愛い系の方?それともクール系の方ですか?もしくは大人っぽい方?」
まずはどんなマフラーが合いそうかアドバイスをするために、聞いてみる。決して彼女がどんな人か知りたいわけではない。
「うーん……普段は大人びていて、クールなんですけど、時々可愛いところもあるというか……って、そういうのを聞いてるんじゃないんですよね!すみません!」
きっと彼にとって、その人は愛おしい存在なのだろう。
まるで宝箱の中身を一つ一つ手に取るように、相手のことを教えてくれる。
「お相手の方、大好きなんですね。」
笑って指摘すると、彼は恥ずかしそうに耳まで真っ赤になった。
「えっ!?あー……わかりやすい、ですかね。」
照れ隠しにはにかむ彼。
「素敵だと思いますよ。そうですね……」
相手に似合いそうな藤色のマフラーに手をかけたとき、彼の後ろから声がかかった。
「キミ、何やってるの。」
瞬間に、空気が変わった。
「うぉあ!九条!な、なんでこんなところに!」
声をかけてきたのはこれまた人気アイドルTRIGGERの九条天。
アイドルが2人も来店するなんて、今日はすごい日かもしれない。
しかし、和泉三月の方は少々慌てすぎのような気も。
「しー、声が大きい。帰るところでたまたま通りかかっただけだけだよ。マフラー、欲しかったの?」
「え、えーっと、メンバーで、クリスマスのプレゼント交換するからさ。」
和泉三月はにへらと笑って九条天にそう答えた。
しかしさっき聞いた話と違う。九条天に隠し事をする彼。
二人のお互いを見やる眼差しが答えだった。
「なるほどね。マフラーっていうのはキミらしいね。」
九条天はふわりと笑った。
普段はクールで大人びた彼が、テレビでもステージでも見せないような無防備な可愛らしい表情。
きっと、彼の前だからこそ出てくる表情なのだろう。
「ああ、うん、そう……かな。」
和泉三月は所在なさげに熱を帯びた目を泳がせる。
「……どうしたの、選ばないの?」
九条天はきょとんとした。
「あ、えっと……く、九条!」
「なに?」
「せっかく会ったんだし、お茶でもしないか?この後、用事とかある?」
「用事はないし、キミとお茶できるなら喜んで。でもプレゼントはいいの?」
「えっと、後で他のお店も見てみようと思って……す、すみません。」
和泉三月はこちらを見てバツが悪そうに謝る。
「いいえ。またお待ちしております、ね?」
今度は、おひとりの時に。彼に内緒で。
「……!あ、ありがとうございます。ほら行こう九条!」
「ちょっと押さないで。ボクはまだ時間あるから、急かさなくていいってば。」
二人とも顔を合わせた瞬間から、なんだか幸せそうだったから。