仰せのままに「…おんどれが着したんやろが、なんか言わんかい。」
着しといてだんまりかいな。と、
不服そうに愛らしい顔をゆがめて訴えてくる彼の胸元には大き目の赤いリボンが揺れている。
大き目のカーディガンが肩幅や手をほとんど隠してしまって、彼の小柄な体系を強調していた。
チェックのプリーツスカートから覗く素足はすらっとしているとはいえ男の子の脚で、ずっと膝が外側を向いている。
膝を隠さない黒のハイソックスを選んだのは正解だった。
「…いや、似合っているぞお、予想以上に。」
「まあ…おおきに…?」
そう、似合っている。
所謂、女子高生のコスプレ。安いビジネスホテルで、着てみてほしいと頼んだのは斑だった。
理由なんて、忘れてしまった。
彼のいろんな姿が見てみたい、とか。
彼のいろんな表情が見てみたい、とか。
詮無い興味が抑えられなくなったのだ。
知り合いから衣装の試着を頼まれていて、かわいらしい体格の合う男の子で頼れるのはこはくさんしかいない。
なんてそれらしい理由をでっちあげてまで、自分は何をしているんだと今更罪悪感が込み上げる。
嫌だと一言でも言われれば引き下がるつもりだったし、そもそもダメ元での相談だったにも関わらず、
予想に反してすんなり快諾されてしまったのだ。
そんなこはくはといえば、ふうん。こんな風になってるんやねえ。なんて言いながら興味深そうにくるりと回ってみたり、
あちこち観察しているようだった。
「試着の報告が必要だから、着てみた感想をもらえると助かる。」
「ううん…わしも洋服にはまだ不慣れやからあんましちゃんとした意見は言われへんかもしれんけど…」
しゃがんだ時のスカートの丈感や、カーディガンのサイズ等、指摘箇所のメモをとっていく。
真面目に意見を上げてくれる彼に罪悪感が増した。
「ふむ。なるほどなあ、いやあ助かった。これらの意見は伝えておく。ありがとうなあ、こはくさん」
完璧な笑顔でお礼を言ってみせる。
「おん。…って、一旦は真面目に意見してみたけども。一体どういう風の吹き回しなん、斑はん?」
ベッドにどかりと座って、愉快そうに笑う彼。
「…気付いてたかあ」
「まあ、気づくわな。流石に。」
「断ればよかったのに。かわいいとか、言われたくないタイプだと思っていたんだがなあ?」
「たまにはええやろ。…それに、”カワイイ女の子みたいなわし”にええようにされたかったっちことやろ?」
話切り出したぬしはんの顔、見したりたいぐらいすけべやったで?
したり顔で言う彼は、可愛いらしい女の子には程遠い獣のような瞳をしていた。