すこし、近づく。「……あれつけて写真あげたいっちことか。」
目線の前にあるのはうさぎの耳を模したそれ。所謂、うさ耳カチューシャである。
ユニットメンバーの仲の良さが人気に繋がるアイドル業、舞台裏でじゃれ合う姿や、プライベートで食事をしたなどといった報告を、SNSやブログなどでアップする事も増えてきている。我々もアイドルで、そういった事をすればファンが喜んでくれるのを知っているし、実際crazy:Bのメンバーとはそういったじゃれ合いを写真に残したり、燐音が積極的にアップしているのだ。それらに対する反応の良さもよく理解している。
しかし、doublefaceでの活動ではそういったことをした事が全くと言っていいほどなかった。利害の一致から一時的に組んだだけであるし、彼と自身が仲良しかと問われれば、正直頷くよりも先に首を傾げてしまう。そのまま表面的なユニット活動を続けてフェードアウトすればいいとも思っていたが、最近そうもいかなくなった。
『すこしずつ、俺もみんなと関わっていこうと思ったんだ。差し伸べてくれる手を、払わなくていいように生きていきたいと、思ったんだ。』
いつか、ベッドの上で零した独り言を聞いて、彼の本心に触れて、彼を支えたくなった。自身と彼だけのユニットである。情が沸くのも仕方が無いし、特別変なんかじゃない。などと言い訳がましい言葉を並べて、それ以上考えるのをやめた。
カウンター席に並んだ2人の視線の先のカチューシャは、様々な色をしており楽しげで、寮の共有スペースに『ご自由にどうぞ』という貼り紙とともにカゴに入れられている。数日後の8月2日は語呂合わせでバニーの日、アイドルたちがうさぎの耳を付けて写真を撮り合うのが最近チラホラ見受けられた。
「……いや、写真を上げたいとまでは言ってない。他のユニットは写真を撮っていたなあと言っただけだぞお?」
隣の斑はへらりとわらってコーヒーに口をつけた。
―素直に言えばいいのに、そうやっていつも遠回しに距離を置く。そうやっていつも、いつも……
「別にええやないの。わしらも撮ったら。」
「え、」
返事を待たずに席を立つ。
カチューシャを適当に2つ、見繕って席に戻って、戸惑うような顔の斑の頭に片方を付けてやった。
「そんくらい、してもええやろ。別に仲悪いわけやないんやから。」
自分も頭にカチューシャをつける。
「……そう、だなあ。」
―後日、ふたりの写真は『double rabbit 出勤☆』というコメントとともに投稿され、多くの反響を呼んだ。