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    okinami_saza

    土沖とみかつるの短編小説とかアップしてます
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    ワンドロお題「桜の花びら」

    ##土沖

    花冷え やっと暖かくなってきて桜も咲き始めた頃だというのに、思い出したかのように急に寒さが戻ってしまった日の夜だった。
     土方は突然の寒の戻りで寝付けなく、食堂で茶の一杯でも入れようと自室からでた。だから彼を見つけたのはたまたまだった。
    「……総悟?」
     沖田がフラフラと外を出歩くのは珍しくない。呪いの儀式だったり、市中にでたりと理由は様々だ。寝間着に使っている着物姿なのでおそらく前者だろうとあたりをつけた。放っておいてもよかったが、夜の寒さが気になった。沖田が儀式をするのは大体が土方に構われたいときなのだ。これみよがしに土方の目のつくとこで行う。つまり土方が行くまで寒空の下で呪い人形に釘を打ち込む可能性があり、風邪でもひかれてはことだと思ったからだ。
     土方が後を追うと彼は案の定屯所の桜の木の下に立っていた。
    「またジョギングか?」
     そう声をかけたものの、沖田は儀式らしい道具は持っておらず代わりに桜の花びらが数輪、手のひらに乗っていた。
    「桜の花を集めてるんでさァ」
    「呪い人形にでも詰めるのか?」
    「土方さんなにバカなこと言ってんでさ」
     テメェの日頃の行いだよと土方は言えなかった。沖田にいつものような覇気がないのだ。
    「桜の花びらを塩漬けにして茶にするやつ、毎年俺が花を集めて、姉上が漬けてたんですけど……」
     沖田は言葉を切ったがもちろん土方には伝わった。彼の姉が桜茶を漬けることはもうない。
    「作り方も聞いとけばよかったなぁって言ったら、花びら持ってけば作ってくれるって食堂のおばちゃんが」
     言って沖田は桜の根本に置いてあった調理用の桶を指差した。
     なんで夜にやるんだとか、普段なら山崎にやらせるだろうとか、浮かんでは消える。一番大きな疑問は桜の場所だ。わざわざ土方の部屋の前の桜の木を選んだ。それはつまり。
    「……俺もやる。どれくらいあつめるんだ?」
    「この桶半分くらい」
     拒否しなかったということは呪いの儀式と同じ理由だったのだろう。
    「つうかオメェ、どてらはどうした。そんないっぱい取るつもりだったなら上になんか羽織ってこい」
    「桜も咲いたことだし必要ねぇかとクリーニングにだしやした」
     土方はため息をついて自分の上着を脱いで沖田に羽織らせた。
    「花冷えつうんだよ。来年は気をつけろ」
    「そういうもんなんですねィ」
     何気ない言葉だったが土方には刺さった。土方に当たり前のことでも、誰かが教えるか自分で体験してないことは知りようがない。上京して四年。彼の姉の代わりに教えるものはなく、知る機会がなかったということだ。
     大人に混じって、大人びていて。大人より強くて、土方と大人の関係があったとしてもまだまだどこか幼い。それはそうだ。土方が沖田の年齢のころはまだ、バラガキをやっていたのだから。
     日ごろの仕事はサボるが、一番隊隊長の役割を違えたことはない。お前はよくやってるよ、と少しだけこぼした。
    「土方さん――」
     珍しく弱音だ。あまりにも小さな呟きだった。
    「……なんか言ったか?」
     土方は咄嗟に聞こえないフリをしてしまった。
    「いえ、せっかくの桜茶が煙草くさくならぁ」
     土方の判断は正解だったのか沖田は同じことを言わなかった。貸したどてらに袖を通しながら答える。しかし悪態も鼻声では強がりにしかならない。
    「春はダメだな、花粉がすげぇ」
     土方はもう一度気が付かないフリをした。沖田は土方の気持ちに気が付いて本格的に俯いた。
    「……そうですね」
     グスグスと鼻を啜る音を聞きながら、土方は淡々と花びらを集めた。今夜沖田ひとりで集めさせることにならないでよかったと安堵しながら。
     姉から教わり損ねた花冷えの中、姉に教えてもらった思い出をかき集めて。
    「今年も花見しよう、総悟」
     前回の花見は万事屋と一緒に散々だったが。そして多分今年もそうなってしまうけど。でもきっとそれがいい。
     願わくばどうか、桜の思い出が良いものでありますようにと。
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