Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    okinami_saza

    土沖とみかつるの短編小説とかアップしてます
    @okinami_saza

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🐥 😍 🙏
    POIPOI 28

    okinami_saza

    ☆quiet follow

    土沖
    2022/10/16開催かぶき町12発行のペーパーです。
    言った言葉がなんでも現実になる言霊使いの沖田の話

    ##土沖

    言霊 朝の会議に蜂蜜色の頭が見当たらない。ぐるっと視点を一周させて、部屋にいないことを確認した土方は大きくため息をついた。
    「……沖田は?」
     質問に対して一番隊の副隊長が慌てて立ち上がってお辞儀をした。
    「……隊長は昨日から部屋から出てきません」
     場の隊士が探るような視線を土方に投げかけてくるのも無理はない。局中法度「理由の如何に拘らず集合に遅れる者は士道不覚悟で切腹」があるからだ。
    「……今回ばかりは仕方がねェ。出てこられて被害被っても困るしな」
    「被害を一番被るのは副長ですしね」
     局中法度に一番こだわってる土方が認めたことで場の空気が一気に和らぎ、隊士一同軽口を言って笑っている。なんとか会議に来なかった沖田の処分を回避できて安堵した。納得できないのであればあったで、沖田に謹慎を申し付ける方法しか護る方法は思いつかなかった。
     沖田は土方の前でこれ見よがしにサボることはあっても、会議に来なかったりする男ではない。理由があるのは誰もが知っているし、土方自身が妖刀やら入れ替わりと言った理由で何度か破っている法度なので大目にみるのは甘さではないと土方は自身に言い聞かせる。
     沖田は昨日護衛対象だった天人の皇子に気に入られ、とある能力を一方的に授けられたのだ。皇子は言霊使いの一族で「発言したことがなんでも現実になる」能力があるという。戦争になれば一方的な闘いになるだろうが、幸運にも争いを好まない種族で、能力に対して自ら制限を設けているそうだ。その皇子が、若くして江戸のため、ひいては国のために身を捧げてる沖田に感銘を受けたとかなんとか――理由はさておき、沖田に向かって「ぜひ志の役に立てて欲しい」と前置いて言霊能力を使ったのだ。
    「君にこの言霊の能力を授けよう」
     言葉は現実になり、沖田は口にした言葉を現実にする能力を手に入れてしまったのだ。最初こそ眉唾だった沖田は、業務的な笑顔で終始護衛の任を全うした。異変に気が付いたのは屯所に戻って風呂に入った時だった。沖田の背中を流したがる神山がしつこく付きまとったときのことだ。
    「うるせーからそのままUターンして風呂場から出てけ。一生戻ってこなくていいから」
     いつものようにそう言うと神山は「イエッサー! メモしときます!!」と言って本当に風呂場から出て行ってしまったのだ。沖田はもちろん、その場にいた一番隊の隊士全員が驚いて顔を見合わせた。あの神山が沖田に付き纏うのをアッサリやめたのは初めてのことだった。状況を理解した沖田は試しにひとこと呟いてみた。
    「あーあ、仕事おわりに男くさくてかなわねェや。たまには一人で風呂にでも入りてェなぁ」
     沖田が言うや否や、隊士全員が全裸で脱衣所へ駆け出してしまった。シャンプー中だった清蔵など、顔面に泡がついたままである。
    「……マジでか」
     一人取り残された沖田は湯船の中で頭を抱えてしまった。時を同じくして、浴室を追い出された隊士も脱衣所で放心していた。
    「これって昼間のアレだろ……? 言霊使いとかっていう……」
     一同はサァっと青ざめた。どんな発言も現実にする能力は、温和な彼らが持っているから争いの火種になっていないのである。沖田が持てば大魔王の爆誕である。イボに取り憑かれていた際、一瞬でバカイザー帝国を築き上げたことが脳裏に駆け巡る。
    「とっ、とりあえず副長に報告しないと!」
     全員そのまま全裸のまま駆け出した。そのまま副長室に飛び込んで、土方がギョッとしたのはそのすぐ後のことだ。

     沖田がどうでるのか土方含め戦々恐々と待っていた。言霊の効果で土方は風呂場に侵入することがどうやっても叶わなかった。風呂から出た沖田は何を思ったのか、そのまま部屋に閉じこもってしまった。
    「誰にも会いたくねェ」
     沖田がそう唱えてしまったようで部屋にも入れない状況だ。土方の命で部屋の外から様子を伺っている山崎に向かって「ザキ、焼きそばパン買ってこいよ」と命じるくらいで、言霊を多用している様子すらない。引きこもってるのであれば腹は減るだろうし、山崎も命じられるままに差し入れを献上し続けた。

     沖田が引きこもってからまる三日が経過した。いつまでもこのままではいられないと土方が様子を見に行くと、山崎は困ったように報告した。
    「沖田隊長、あの日から一睡もしてないようです」
     そういう山崎も寝ていないのだろう。顔面にクマを貼り付けて憔悴している様子だ。
    「俺がなんとかする。もう下がっていい」
    「死なんでくださいね」
     山崎はそう言って立ち去っていった。山崎の気配が完全に消えたのを確認してから、土方は部屋の中に声をかける。
    「総悟、入れろ」
    「嫌でさァ」
     山崎とのやりとりも聞こえていたのだろう。即答だった。
    「そうは言ってもオメェ一生このままってわけにはいかねェだろ。真選組には総悟が必要なんだからよ」
    「……でも怖いんでさァ。俺が土方さんに言って来たこと、これからは全部本当になっちゃうんですぜ?」
     沖田が一番恐れているのは「土方死ね」だ。息をするように自然とその言葉を重ねてしまっているため、寝ることすらできなくなってしまった。寝言でうっかり口にした日には土方は命を落とすことになる。それを回避したいがために、三日間不眠で部屋に引きこもってしまったのだ。
    「俺のことは気にすんな。お前が無事ならそれでいい」
    「いいんですねィ、俺が外に出てしゃべっても。うっかりいつものやつ言っちゃうかもしれやせんぜ」
     そう言って沖田は部屋の扉を開けた。やつれた表情には見覚えがあった。人里離れた場所で三日かけて行われた「監禁ごっこ」のときと同じだ。食事を摂っている分今回の方がまだマシだが、やはりいつまでも不眠不休でいるわけにはいかない。
     土方は部屋に入って後ろ手で戸を閉めると、勢いよく沖田を強く抱きしめた。
    「こんなになるまで我慢すんじゃねェ……らしくねーじゃねェか」
     土方の真剣な想いを受けて、沖田は恐る恐る彼の背中に手を回した。
    「俺が土方さんにひどいこと言ってもいいってことです?」
    「ああ、それでお前が部屋から出られるってんならそれでいいよ」
    「じゃあ死ね土方」
    「ああ……っていきなり言うやつがあるかァァァ!」
     土方は大慌てで部屋にあった壺に身を隠したが、しばらく経っても何も起きない。
    「……あれ?」
     カシャっと携帯のカメラで写真を撮られた音がしてもしやと思って恐る恐る顔を出すと、携帯を構えながらニタリと笑っている沖田がいた。
    「土方さんのビビり顔ゲーツ!」
    「はぁぁ!? 嘘だったってことかっ!?」
    「人聞き悪いですぜィ。言霊の能力は本物でしたよ。でも俺が『現実にする能力はいらない』って言ったらすぐに消えやした」
    「そーかよ、テメーはそういうやつだったな」
     またしても盛大にハメられたというのに、土方はボリボリと頭を掻いてため息を吐くだけでそれ以上は追及しない。沖田は思わず小さな声でぼやいてしまう。
    「アンタは本当に俺に甘いですねィ」
    「ああ? なんか言ったか?」
    「なんでもないでさァ」
    「……だがお前よかったのか? あの力で『副長になりたい』って言ったらよかっただろ」
     土方は彼が単純に副長の座を欲しがっているわけではないことを理解した上でそう聞いた。
    「身の丈に合わねェ能力は身を滅ぼしやす。俺には剣の腕ひとつありゃそれでいいんでさァ」
     ああでも、と沖田は笑った。
    「能力あるうちに、土方さんとえっちな言霊プレイしてもよかったですねィ」
    「命がけのプレイとか嫌だわ、そんなんするくらいだったらオメェの好きな対位でもプレイでもしてやるよ」
     完全に土方の失言だったが沖田はそれには食い付かなかった。
    「えー、屈辱的な顔しながら、抗えずシてくる土方さんが見てェだけなんですけど」
    「俺にナニさせるつもりだ!? いやいい、言うな、聞きたかねェ……」
    「まず土方さんだけ全裸になって貰いやして、そこで俺が――」
    「い・う・な!」
     土方が怒鳴りつけたところで二人は顔を見合わせて笑った。こうして身のない軽口を二人で言い合えるのはやはり楽しいのだ。
    「幸せですね」
    「安上がりなんだよお前は。いいからメシ行くぞ。菓子パンしか食ってねェだろ」
    「ザキの気がきかねぇのがいけねぇや。出前のひとつでも持ってきてくれればよかったんですがね」
    「それそうだな……」
     そんな理不尽なことを言いながら、二人は揃って食堂へ向かう。いつもと変わりのない一日の始まりだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💕💕💕💒💖☺💘🌋🙏👍👏☺😭☺☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works