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    okinami_saza

    土沖とみかつるの短編小説とかアップしてます
    @okinami_saza

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    エアブー展示作品

    ##土沖

    【土沖】遅効性の毒「なんでィ……まだ気がついてないんですか、土方さん」
     そう言った総悟の顔はいつになく覇気がない悲しみを帯びた笑いだったから、俺は思わず追求を躊躇った。

    遅効性の毒

     きっかけは桂が三番隊に入り込んできたアフロ事件だった。その中で総悟が俺のマヨネーズに下剤を仕込んでいたことが発覚する。
     それまで総悟の俺に対するイタズラはある種わかりやすいものだった。直接打ち込まれるバズーカ。繰り広げられる剣技。ケーキに仕込まれたタバスコ。
     直接的なものから、ずいぶんと間接的になった。
     聞けば総悟は毒を入手するために免許まで取得していた。なんでそんなことをと問い詰めれば、いけしゃあしゃあと「出世のために」などと説明した。
     真選組に資格手当などない。そもそも出世もなにも上の席に枠もないのだ。
    「つまり俺の席を開けるってことか!?」
    「やだなぁ土方さん。そんなに俺のこと信頼できないんですかィ?」
    「テメーのどこに信頼できる要素が残ってると思ってんの?」
     呆れた俺に総悟はニタァと笑って答える。
    「こんなに土方さんのこと考えてるのに失礼ですぜ」

     それから俺は毒に反応するという銀食器を導入して、毒物への対策をとった。しかし銀に反応する毒物は限られているらしい。検知できることなく俺はまたトイレに籠城する羽目になった。そもそも毒物のエキスパートとなった総悟に素人が思いつく対策はお見通しだったようで、こちらの対応を嘲笑うかのように網を掻い潜って毒を盛ってくる。
     最初は腹を下す程度だった毒物も、しばらくすると多種多様な変化をつけてきた。
     声が変わったり、やたらと眠くなったり、歩くたびに床を踏み抜く怪力になったり。
     それも毎日ではなく俺の気が緩んだタイミングで仕掛けてくるのでタチが悪い。
     げんなりしながらタバコに火をつけると、タバコから異臭がする。
     慌てて放り捨て山崎に確認させると、タバコの葉に愛染香と思わしき物が混ぜられていると言う。
     いよいよマヨネーズだけでなくタバコまで手を回されてしまった。大きなため息を吐くと山崎はうーんと唸った。
    「毒味? でも設けますか?」
    「総悟が他人を巻き込むわけねーだろ。確実に俺だけを狙ってくるはずだ」
    「え、怖っ」
     思わずこぼれた奴の本音に俺は頷いたが、山崎の意図とは違ったらしい。
    「いえ、副長も大概ですよ」
     なぜか総悟共々ヤバい奴と称されてしまった。そして退室する直前、山崎は思い出したようにひとつウンチクを披露してきた。
    「そういえば無味無臭の遅効性なのに致死率もあって、効果が出る頃には体内から検出されることすらない毒ってのもあるらしいですよ」
    「なんでもありだな」
     暗殺し放題の毒があってたまるかと思ったのだが、一部で流通し始めてしまっているのは事実らしい。
     でも、と言いながら山崎はニヤニヤと笑うのだ。
    「あんなに免許フル活用して毒物を入手してくる沖田隊長が、そんな便利な物知らないわけないですよね?」
    「……そうかもな」
     ヤツの考えは全く持って理解できない。俺のことを本気で殺そうと思っているのであれば、何度もその機会はあったはずなのだ。
     それでも命に支障のない程度に留められている。
     ただおちょくりたいだけなのか。俺を抹殺してすぐに足がつくのが嫌なのか。だがそんな完全犯罪が可能な毒物があるのであれば、本気で殺そうと思えば手段はありそうだ。ならば近藤さんのためにまだ必要だと思われているのだろうか。それとも他に何か意図があるのだろうか。

     ◆

     江戸も随分と落ち着いてからのことだ。そういえばふと、ずいぶん総悟に毒を盛られて居ないことに気がついた。
     あいつも丸くなったんだなと、雑談のつもりで山崎にそれを告げるとひきつった表情で答えた。
    「まさか……まだ気付いてなかったんですか?」
     山崎が言うには総悟が当時盛っていた毒物は毒性の弱い物で耐性を付けつつ、毒に対する警戒心を保たせるためのものだったのだと言う。
    「あの頃の副長たち、会食に呼ばれることが多かったですしね」
     攘夷派はもちろん、成り上がりの真選組に嫌な顔をする上層部はそれなりに多かった。実際将軍の毒味役が何度か倒れた話も聞いた。
    「あいつ……」
     ただの悪戯だと思っていたことの意図を今さら聞かされて、どうにも渋い気持ちになってしまう。
     そんな俺に追い打ちをかけるように更に告げられた。
    「その分だと沖田隊長が仕掛けてる、もう一つの劇物もまだ効果はでなそうですね」
     山崎の言葉で、以前総悟がこぼした「まだ気付かないんですね」という言葉を思い出す。
    「どういう意味だ?」
     睨みを効かせて聞いたが山崎は肩をすくめて苦笑する。
    「それは流石に俺の口からは」

     ◆ ◆ ◆

     山崎と土方の会話を廊下でたまたま耳にした沖田は、笑い出したくなるのを必死で堪えて自室へと転がり込んだ。
     ひとしきり笑ったあと畳に大の字になりながら呟く。
    「ずっと、気が付かないままだとしても、俺のことだけ意識すればいいんでさァ。ねっ土方さん……」
     何かあるたびに真っ先に「総悟」と疑い、名前を呼んで。
     長きに渡り仕掛け続けた毒は彼の中で静かに蓄積されている。
     ――今は、まだ。
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