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    okinami_saza

    土沖とみかつるの短編小説とかアップしてます
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    土沖ワンドロライ「紅葉」

    ##土沖

    紅葉狩り 出かけていた土方がお土産を添えて屯所に戻ってきた。一番隊はこれから討ち入りのため、玄関で準備していたのでタイミング悪く鉢合わせしてしまった。
     一部の隊士はチラッと沖田をみて反応を心配しているようだった。土方との付き合いを隠してるわけではないが、広まってしまっているとこういうとき対応に困る。気を遣われていることに腹が立ちつつ、何も反応しないわけにもいかなくなって真顔で言った。
    「あらら、立派な紅葉。色男は紅葉が似合っていいですねィ」
     色男と呼ばれた土方は仏頂面のまま眉間の皺を更に深くした。
    「良いわけあるか。身に覚えもねェってのに」
    「へェ?」
    「お前だってわかるだろ、いついつに助けられてずっと好きでしたとか言われるやつだよ。仕事だから覚えてねェって言ったら平手打ちだ。一般人だから殺気がなくて避け損ねるしよ」
     早口でまくしたてる土方に対して、沖田は少しだけ気分が良くなった。彼は沖田に誤解をされたくなくて必死なのだ。誤解もなにも、沖田は土方の首を狙って――とは建前で、しょっちゅう土方の温もりを求めて彼の布団に潜り込んでいる。沖田の気が向いたタイミングで突撃しているにも関わらず、理由なく不在だったことはない。どちらかというとフラフラ出歩くのは沖田の方で、土方がそれを良く思っていないことも知っている。誤解する要素などないのに、焦るあまり気がついていないのだ。
     気分がよくて更に少しだけ土方にチクリと追撃をする。
    「素人の攻撃が避けにくいのはよくわかりまさァ。まあ俺は女に刺されたことしかねェですがね。父親の恨みってやつで。なにせ土方さんと違って汚れ仕事しかしてやせんし?」
    「そ、うか……?」
     土方が言葉に詰まったタイミングで、一番隊の隊士が割って入った。
    「沖田隊長そろそろお時間が」
     時計を見れば確かに、あと少しで攘夷浪士たちが会合を始める時間になるところだった。
    「じゃあ土方さんそういうことで。今からまた恨みを買いに行ってきますんで」
     ヒラヒラと手を振りながら、沖田は玄関をくぐって屯所を出て行った。

     ◇

     今夜は行き先の店が小さいとの理由で少数精鋭、一番隊だけで執り行った討ち入りだった。おかげで味方同士で斬り合うこともなく、無事全員を討ち取りもしくは捕縛することができた。
     ひと通り後処理の指示を出した沖田は、一足先に屯所へ戻ることになった。すっかり秋になった夜は一人で歩くと肌寒い。彼は早歩きで屯所の玄関をくぐった。急いでいたのでそこに土方が待ち構えていたことを、入るまで気が付けなかった。
    「土方さん……? 電話で報告しやしたが特に怪我とかないでさァ」
     滞りなく任務を終えたことは伝えたはずだが、何か問題でもあったのだろうか。疑問に思ったタイミングで土方は沖田の胸元を指差した。
    「お前も付けて帰ってきてんぞ、紅葉」
    「はっ? ……あぁまあ、そうですねィ」
     土方の人差し指の先、隊服の白いスカーフにはべっとりと血が手のひらの形に付いている。討ち取った浪士が死に際につかんで遺していった跡だ。
    「土方さんのと違って色気なんてねェですがね」
    「一緒だろうよ」
     土方は苦笑しながら沖田の頭を撫でた。
    「一緒だろ、どっちもそんな綺麗なもんじゃねェよ」
     愛憎と、憎悪。どっちもドロドロした、人間の醜い感情だ。
    「……じゃあお互い汚ねぇ紅葉見ちゃったことだし、明日紅葉狩りでも行きやしょうよ。北の御所の紅葉がなかなかの見頃だって話ですぜ」
     沖田の提案に土方はため息をついた。
    「御所ってオメェ、誰が許可取ると思ってんだ」
    「副長の座譲ってくれるなら俺がやりやすぜ」
    「うるせぇ誰が代わるかよ!」
     土方が勢いよく怒鳴りつけた瞬間、二人は顔を見合わせて笑った。
    「……とりあえず風呂入ってこい。一緒に寝るぞ」
    「はいよ」
     肌寒い日だというのに、沖田はもう寒さをまるで感じていなかった。なぜなら二人で過ごす、秋の夜は長いのだから。
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