Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    okinami_saza

    土沖とみかつるの短編小説とかアップしてます
    @okinami_saza

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🐥 😍 🙏
    POIPOI 28

    okinami_saza

    ☆quiet follow

    土沖webオンリー&ワンドロライコラボお題
    「月明かりに見守られ」

    ##土沖

    月見 幕府主催の中秋の名月を楽しむ会とやらに、真選組も客として招待された。
     月見とは名ばかりのただの酒の席だ。流石に公式の場で飲ませるわけにもいかない未成年組は置いてきて正解だったと言わんばかりの醜態となっている。
    「……近藤さん?」
     最初こそ固定されていた席を各々移り始めてからは、いよいよ誰がどこにいるのかすらわからない。トイレに立った近藤さんが一向に戻らず探してるのに会えなくなった。
    「……それならそれで好都合か」
     たまたま見つけた隊士に言伝を頼んで早々に切り上げてしまった。誰がどこにいてもわからないのであれば、そもそも居なくても問題ないだろう。誰よりも早く切り上げた俺はタクシーをつかまえて屯所へと戻った。
     人の少ない屯所はがらんとしていて、明かりも乏しい。玄関から自室へと向かう途中大部屋から光が漏れているのを見つけて襖を開く。中では終と鉄が酒のつまみをチビチビ無言で食べていた。俺に気がついた鉄が慌てて立ち上がって駆け寄ってくる。
    「あれ、副長忘れ物ですか?」
     あまりにも早い時間に、一人で戻ったのでそう思ったのだろう。何も理由を言わないのも躊躇われ質問を質問で返す。
    「いや……総悟は?」
    「沖田隊長なら部屋だと思います。居残り組で軽く晩酌してたんですけど、すぐに切り上げてたのでもう寝てるのかも――」
    「ならいい、悪かったな」
     総悟は俺をおちょくることに命をかけているので昼間惰眠を貪ったりするが、実際は責任感が人一倍強い。
     総悟と終という真選組の戦力を屯所に残している以上、間違ってもこのタイミングで寝入ったりしないだろう。終が口下手な以上総悟だけがこの屯所の要であり、緊急の通報があった場合指揮を執る必要があるのは奴なのだ。
     広間にいないのであれば自室だろうか。そうあたりを付けたが総悟の部屋は空っぽだった。
    「どこいったんだアイツ」
     そう思ったとき、更に奥の部屋。俺と近藤さんの部屋しかない方角からポソポソと歌う声が聞こえた。歌声に誘われるようにしてそちらへ向かえば、暗闇に溶けない色素の薄い髪色が俺の部屋の前の縁側に座っているのが見える。
    「兎美味しい彼かの山、小鮒釣りし彼の川」
     見た目と雰囲気だけは極上なのに口を開くとこれである。自分しかいないときでも名曲を台無しにしているのだ。
    「……随分と食い意地の張った歌だな」
    「あり、土方さんずいぶん早いおかえりで」
     おそらく気配には気がついていただろうに、知らないフリをする総悟にため息をつく。
    「なんか嫌な予感がしたんだよ」
    「へっ? 別に鬼の居ぬ間に洗濯なんてしてやせんよ」
    「……それは知ってる」
     中秋の下冷する縁側で一人、月見団子をつまんでいる。
    「お前メシは?」
    「団子」
    「だと思って二人前包んでもらってきた。部屋で食うぞ」
     座ったままの総悟に手を差し出すと、冷えた手がそれをつかんだ。引き寄せた身体を抱きしめると、身体もすっかり冷え込んでいる。
    「いつからここにいたんだ」
    「……最初から」
     ――いつまでここにいるつもりだったのか。
     その質問は聞かなくても答えがわかるので口にしなかった。
     総悟を自室に招き入れて襖をしめる。人のいない屯所で、月だけが俺たちを見ていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍😍💖☺💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works