変わる刀と、欲される刀 三日月宗近が重傷で本丸へ戻って来た。顕現したばかりの刀たちを連れて、万屋へ案内がてら買い出しに行ってのことだった。
遠征中の鶴丸がそれを知ったのは、彼の手入れも終わってからのことだった。
本丸に戻るなり三日月と一緒に出かけていた刀たちが大慌てで一部始終を説明してくれた。
「主にこってり絞られたんだってな」
鶴丸が三日月の部屋を訪ねると、彼は困ったように笑った。
「うん、また怒られた」
突然の襲撃。圧倒的な戦力差。
自分以外を本丸へ逃し、殿として敵を一手に引き受けるのはよくあることだ。経験値が違う部隊でうっかり検非違使に遭遇した際など鶴丸も似た手を取る。なので今回のことは鶴丸からみて、三日月に落ち度は何もなかった。それでも「怒られた」のは「また」の部分にかかっているのだろう。
「日頃の行いってやつだな。きみには大いに前科がある」
ただの一度でも折れていいと思ってしまったこと。それは信頼できない要素だ。何をしても、どんなことをしても勝って帰る。その気概のない、自己犠牲のある者はいくら強くても安心はできない。
「俺も変わったんだがなぁ」
「多少はな! あとはコツコツと信頼を稼げ。きみたち三条のはなんでも抱え込むから良くない」
鶴丸の指摘に三日月は拗ねるように言った。
「ははは、お前も人のことは言えんだろう」
「きみよりはうまくやってるさ。俺にはストッパーがいる」
確かに伊達に連なる大倶利伽羅をはじめとした面々は、鶴丸の意図を察し、手助けし、時には止める。
「すぐにお前みたいに器用になれんなぁ……」
「それがダメだと言ってるんだ」
ここにきて三日月はやっとおや? とようやく気がついた。
「せっかくきみには俺がいるというのに」
鶴丸はにこやかにしていながらも怒っていた。彼の感情は色々な気持ちが織り混ざっていたため気がつくのに遅れた。
心配、安堵、呆れ、不安、焦燥、そして怒り。
鶴丸は三日月を模して作られた刀。
生まれが近い。時代も近い。出自に縁がある。でも三条にはなれない。否、ならない。
似て非なるものとして、彼に連なるのではなく横に並ぶため。
「きみは俺がいる意味を理解した方がいい。きみは愛でられるのに慣れてるが、俺は欲されるのに慣れてるんだ」
「……すごい殺し文句だな」
「だが事実だぜ? 俺を欲っせ、三日月宗近。そのために俺はここにいる」
揺らぐことのない鶴丸の言葉に三日月は破顔する。
「あいわかった」