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    okinami_saza

    土沖とみかつるの短編小説とかアップしてます
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    土沖 ワンドロライ「エイプリルフール」

    ##土沖

    初夜 冷暖房をつけなくても心地の良い気候である春の日。そんな貴重な一日の朝、土方は春眠暁を覚えずとは程遠い目覚めを迎えた。
    「おいおいおい嘘だろ!?」
     サァァと一気に血の気が引いて飛び起きた。土方は何一つ衣服を身につけておらず、寝ていたすぐ隣には同じ格好をした人物が寝ている。なぜか枕元には丸まったティッシュが大量に落ちていて、普通に考えれば事後以外考えられない状況だった。場所が花街だったりラブホテルで、相手が商売女だったりしたなら土方とてここまで驚かなかった。「俺もまだ若かったんだな」などと内心苦笑しつつ場を収めることに注力したことだろう。そう出来ないのはここが屯所の自室であり、相手が人生で一番長く顔を合わせている幼馴染の部下だったからだ。
     そうこうしている間に隣の人物――沖田が目を覚ました。
    「ん……あ、おはようごぜぇます土方さん」
     沖田が気だるげなのはいつものことだが、言動に妙に色気が含まれている。いつも真っ直ぐ土方の方をみる沖田の目は、直視できないと言いたげに逸されている。
    「なぁ総悟、昨日……」
     何があったと聞いていいものか躊躇した。その沈黙を沖田は別の意味で受け取った。
    「……わかりやした。土方さんにとって俺は遊びだったってことですよね? 勘違いしてないんで安心してくだせェ」
     そう言って身支度を始めようとした沖田を、土方は慌てて制する。
    「違う、そうじゃなくて……責任を取らせてくれ」
     ずっと好きだった。そう言って土方は沖田を強く抱きしめた。

     朝礼で近藤や土方が話をしている最中、沖田は別のことを考えて上機嫌だった。今日は嘘をついてもいい日であるエイプリルフール。日頃の行いのせいでちょっとやそっとじゃ騙されてくれない土方のために、今年は身体を張った嘘を仕込んだところ彼は丸々信じてしまったのだ。本気になって慌てて責任を取ると言った土方を見て、自分の天才具合に感動を覚えた。「責任を取って」と言って高めのランチを奢らせて、甘味までしっかり食べて、腰が痛いとサボったりして、一日の最後に種明かししてやろうと思うと笑いがこみあげてくる。
     沖田が楽しい計画をしている間に朝礼では主要な連絡を終えたようで、最後に一つ大事な報告があると土方が妙にもったいぶって言う。なんだろうと沖田が顔を上げると土方は沖田を見ていた。
    「俺と総悟はパートナーになった。祝言ってほどじゃねぇが今夜は酒の席を設けるからよかったら参加してくれ」
     一瞬だけ静寂が訪れ、そのあと割れるような声が部屋中に響いた。なんで、どうしてと口々に言われ、誰もが沖田を見てきたが沖田にだってどういうことかサッパリわからなかった。困って近藤の方をみると、土方から事前に聞いていたようで嫁に出す父親のような表情で沖田を見ていた。土方の責任を取るという言葉が、だいぶ本格的な責任を取るという意味だったことだけは理解した。
    「エイプリルフールだからって冗談キツいですよ!」
     山崎が叫んだ。そうだいいぞと沖田はその流れで嘘だったのだと白状しようとしたが、先に土方が口を開いてしまった。
    「ついていい嘘と悪い嘘があるだろう。俺ァ人の気持ちを踏みにじる嘘はつかない」
     その言葉を聞いてしまうともう何も言えなくなってしまう。土方は沖田に好きだと言ってくれた。沖田はそんな相手に対して気持ちを踏みにじる嘘をついたのだ。

     沖田は結局否定できないまま一日を過ごしてしまった。見回りのついでに土方が高級ランチを奢ってくれたのは当初の予定通りだったのに、味がわからないまま完食してしまった。
     ――一度度寝たくらいで彼氏面しないでくだせェ。
     そう言ってしまえば嘘を本当のまま終わらせられることには気がついたのだが、やはり告げることは出来なかった。どちらにせよ土方をもてあそんだ結果になってしまう。
     沖田にとって土方は気に食わないが大切な人だ。付き合いたいなどと考えたこともなかったが、裸で布団に潜り込んでも嫌悪感はなかった。
     よくよく考えるといつでも近くにいて、一緒に住んでいるわけで、土方のいう「パートナー」がどの程度のものかわからないままだが、特に今までと変わらないようにも感じられる。
     このまま否定せず付き合って、支障が出たら別れよう。沖田はそう判断した。
     そうこうしている間に宴会の時間になってしまい、主役がなにやってるんですかと部屋から引っ張り出されて土方と並んで上座に座らされた。
     代わる代わるお酌されいつから好きだったのかとか、どちらから告白したのかと聞いてくる。うるせぇどっちからでもねぇんだよと思っている沖田の代わりに、土方が自分が武州からの念願叶って受け入れて貰えたのだと上機嫌で説明していた。
     土方は気分良く酔っているようで、そうごそうごと抱きついてくる。その度新婚扱いされて周りから冷やかされるのだからたまったものではない。
    「……もうこの辺にしときやしょう、土方さん」
     部屋に戻ろうと沖田が声をかけると室内はまた沸いた。
    「そうですよね、初夜くらい早く二人きりになりたいですよね!」
    「ちょっ、ちが……近藤さん!」
     一斉に背中を押されて、土方と一緒に部屋から追い出されそうになる。ムラムラは二十歳になってから! と言って止めてくれないかと近藤に助けを求めたが、すっかり酔い潰れてしまってピクリともしない。序盤から煽るように呑んで「トシなら仕方がないけど、でも総悟にこんな日がくるなんて」と泣き上戸だったので無理もない。
     あっという間に土方の部屋へ押し込まれ、土方を布団に転がして隊士たちは引き上げていった。おそらくこのあと飲み直すのだろう。
     沖田は自分の部屋に戻るため廊下側の気配を探った。隊士たちに見つからないようにと意識をそちらに向けた瞬間、酔っ払いとは思えないスピードで寝ていたはずの土方によって布団に引き込まれてしまった。遠慮なしに着物の合わせから手を差し込まれ、いよいよ身の危険を感じた沖田は焦って抵抗をする。
    「ちょっ、やめてくだせェ。飲み過ぎでさァ土方さん」
    「なんだよ、初めてじゃねぇんだしいいだろ?」
     ベロンベロンに酔っていたと思っていたはずの土方から酔いの気配は消え去っていた。ニヤリと笑った土方を見て沖田はようやく全てを理解した。土方は沖田の嘘に気がついていて、知らないフリを突き通したのだ。つまり騙されていたのは沖田の方だったということになる。
     呆気にとられていると口付けが降ってくる。正真正銘初めてのキスだ。
    「ちなみにもう日付変わったからな。ここから先、嘘は無しだ」
     これから全部本当になる、初めての夜がやってくる。
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