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    okinami_saza

    土沖とみかつるの短編小説とかアップしてます
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    土沖ワンドロライ「雨やどり」
    原作軸 武州(守護霊)⇒ミツバ篇

    ##土沖

    雨やどり 土方は沖田に唆されてマセラッティを廃車にしてしまった。持ち主の資産家にバレて長々と説教され、土方もまた沖田に説教することにした。といっても可愛らしく泣いて詫びたりすれば許しておしまいにできたのに、彼は悪びれもせずに信じる方が悪いとのたまった。だから報復として暴れる沖田を貼り付けにして山奥に置き去りにしたのだ。
     置き去りといっても流石に九つも下の子供をそのまま放置できるはずもなく、沖田から気取られない位置で隠れて様子を見ていた。彼が反省したら下ろしてやるつもりだったがどうやら憎しみを増すばかりで反省する素振りがない。沖田も頑固だが、土方もまた頑固だった。絶対に謝らない沖田と、泣くまで絶対に下ろさない土方の平行線だ。
     どれくらいそうしていたのだろう。土方は廃車の件で正座でコンコンと説教されていた疲れから、うっかりうたた寝をしてしまった。ポツリポツリと音を立てて落ちてくる滴の音で目を覚ます。
    「総悟……!」
     ついに泣いたのかと飛び出ると沖田はビックリした表情をして土方をみた。彼は泣いてなどいなかった。結局、沖田の代わりに空が最初に泣いたのだ。
    「……帰るぞ」
     土方はそう言って沖田の縄を解いた。流石に雨が降ったらこのまま置いておけない。しかも隠れていたのに見つかってしまったのだ。
     山の天気は変わりやすい。降り出した雨はあっという間に大降りになってしまった。土方はともかく子供の沖田には、ぬかるんだ坂道は体力が取られるだろう。仕方がないので大きめの木を指差して提案した。
    「……雨宿りしてくか総悟」
    「アンタと雨宿りなんてごめんだぜ」
     沖田は了承しなかった。ザンザン降りの中、二人で歩く。歩幅の違いで開いてしまう距離を、土方は時折振り返って沖田が追いついてくるのを待つことで揃えた。わざわざ待たれていることに沖田は気がついていただろうが、流石に文句は出なかった。ぬかるみに足を取られて転んで、木の根に引っかかって転んで、最終的には滑って坂道を転がったりもした。それでも助けは求めず、泣きもせず、毎回自分で立ち上がって土方の背を目指して歩き出した。
     土方はもう報復のことなど忘れて、ゆっくり歩いて沖田を導いた。

     ◇

     幼少期から何をしても、何をされても土方の前で泣かなかった沖田が今、目にいっぱいの涙を溜めている。姉が長くないなど、言いたくなかっただろうに。土方はショックですぐに言葉がでない。あんなに仲の良かった姉弟、たった二人きりの家族。土方だって泣いてしまいたかった。彼の姉には幸せになって欲しいと願って武州に置いてきた。沖田が姉の前でだけ年相応になるのを好ましく思っていた。彼女の幸せを願う、その気持ちは沖田と変わらないつもりだった。できることならこの場で沖田を抱きしめて、二人でわんわん声を上げて泣ければよかった。
     でも土方の脳裏にはすぐにありし日の沖田が思い出される。

     ――アンタと雨宿りなんてごめんだぜ。

     そう、傷を舐め合うために二人でいるわけではない。
    「取り引きは明日の晩だ。刀の手入れしとけ」
     心を鬼にして土方は言った。そんなことを言っても沖田がついてくるわけがないが、それはもはや関係なかった。
    「土方ァァァァァァ」
     土方も喰らったが、それ以上に沖田に打ち込んだ。沖田は喰らっても喰らっても、その度立ち上がって土方に向かってくる。自分で地面に沈めておきながら、「そうだ、立て」と沖田に願った。最終的に沖田は立ち上がらなくなった。

     土方が沖田に勝ったのなんて何年振りだろう。真選組最強の男と呼ばれていても剣に驕ることのない沖田は、日を追うごとに強くなる。しかも土方が隊の指揮や事務、接待に忙殺されている間も沖田は現場で実戦を重ねていた。彼と土方の実力は開くばかりでもう勝つこともないかと思っていたのに。もっともそれは、それだけ彼が今回のことで精神的に弱っているという証拠でもある。最初の頃は沖田に負けるのが悔しかった土方も、今では真選組最強が沖田であることを誇りに思っている。なんだったら剣士最強とまで信じていた。

     ――俺なんかに負けてるんじゃねェよ。

     土方は強く壁を叩いた。右手が壁の凹凸で傷ついて血が滲んだが、痛みは感じなかった。
     沖田のいる場所は立ち止まることを許されない。真剣での負けは死を意味する。沖田は何があっても負けてはいけないのだ。
     どんな雨の中でも、何度転んでも立って歩いてた沖田を信じて。土方はあえて沖田を突き放して立ち去り、そして一人で戦地へ立った。
     雨はまだやまない。それでも二人は一人で立たなくてはいけないのだ。
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