あなたと 他の誰にも、近藤さんにも言えないことを土方さんと共有している。近藤さんを護るため、真選組を確固たるものとするために俺たちは繋がっていたのだ。
でもそんな土方さんと、途中で道が分かれてきたことを俺は感じてしまった。あくまで隊を大事にする土方さんと、自分の気持ちで動きたい俺。
土方さんの言い分ももちろんわかる俺は、ひとりで調べて、ひとりで探って。あの野郎とやるときは隊務も調整して貰って、情報も勝手に揃ってることが多いので非番にこっそり動くのは大変だった。
難しいなりにひとりで動いて結局バレた煉獄関の騒動のあと、土方さんに呼び出された。
「お前に死なれたら困るんだ。最終的に組を動かすことになっちまうくらいなら最初から俺に言え」
「俺は総悟に隠し事をしない。それがどんな機密情報でもだ」
その言葉通り土方さんはすまいるで刀を折られたことも、妖刀のことも全て俺に告げた。天海屋のことはコソコソされていた気もするが、尋ねればすんなり吐いた。
それなのにまた六角屋の娘の件を黙って動いて、それがバレて怒られた。
「旦那を動かすと足がつくのかねィ」
「そういう問題じゃありませんよ」
山崎の前でぼやいたらやんわりと指摘された。どうやら土方さんは本気で心配していたらしい。
土方さんの「どんな機密情報でも隠し事をしない」という約束は本当だった。
将軍を護るため、本来は副長までしか開示されなかった情報も伝え、他の隊長格にも伝えず空の護衛の任に俺を潜り込ませたのだ。
そのあたりから慌しい生活が続いてしまい、土方さんとの「約束」は意味がなくなった。でも土方さんからの信頼は確かに俺の心の底に蓄積して、やがてどんな秘密を共有しても良いと思えるようになっていった。
そんな土方さんとの誰にも言えない秘密の中に、大人的な意味の関係性が足されたのはもう随分前のこと。かつて俺たちが真選組の最前線にいたときのこと。
隊内で俺たちにそんな関係があることは様々な憶測を生むため、隠さざるを得なかった。しかし今はもう違う。
「沖田さん、準備できましたか?」
そう俺を呼んだのは涙を浮かべた鉄之助だ。今日からは一番隊隊長だというのに、まだ甘ちょろいところがある。そんな姿をみてしまうと少しだけ後のことが心配になってしまう。
「まだそんな顔してんのかィ」
「だってまさか沖田さんまで……」
特別武装組織である真選組は、戦乱の後の世では形を変えて存続してきた。その過程で安定した職となっていき、定年制度もできたのだ。
最初はザキが定年を迎え、去年は近藤さん、今年は土方さん。設立当時最年少だった俺は定年までまだまだあったが、土方さんと合わせて退職することにした。
「沖田さんがまだ九年もいるから大丈夫」
どこかそんなオーラがあった隊内では晴天の霹靂。今なら副長になれますよ、なんだったら局長でもという勧めをされても俺は意見を変えなかった。
「土方さんいねェんじゃつまんねぇ」
それが全てだった。説得されている過程で全て面倒くさくなり、どうせ辞めるんだしと土方さんとの関係を暴露したら隊内がまた大騒ぎとなってしまった。
土方さんと一緒に暮らしたいなら仕方がないですねと突然追い出しモードに切り替わり、連日祝賀会だの送別会だので大忙しだった。
「あとは頼んだぜィ、鉄」
俺の言葉に頷きながら鉄之助は答えた。
「お二人はこれからどうされるんですか?」
「武州に戻って近藤さんと合流して、それからまた考えることになってる」
一足先に武州に戻った近藤さんは道場を再興している。廃刀令で一時は無くなった道場が、最近はスポーツの道場として再開するのはよくあることだ。「江戸で有名になった真選組の道場」はわずか一年で門下生が入門待ちの状態になっていて人手が欲しいと聞いている。そこの手伝いをしつつ、やりたいこと、行きたいところをゆっくり考えて行こうと土方さんと決めていた。
どちらにせよ二人でいれば怖いものなど何もない。だって二人の間に隠し事はもう何一つないのだから。