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    aYa62AOT

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    幸せそうな尾杉です。

    #尾杉
    tailFir

    尾杉「——おかあさん、はんぶんこ——」
    「——お母さんはお腹いっぱいだから、全部百ちゃんが食べて——」


     尾形の母の口癖はいつもこうだった、貧しいなりの精一杯の愛情表現であることは幼少期の尾形も分かってはいたがその反面影で腹を鳴らしていただろう母を思って尾形はいつしか気を遣うことを覚えていた。
     何も言わないことが正解なのだ、分け与えることが、分け合うことが母を傷つけることになるのだ、と勝手に一人学んだ。

     
     それから尾形は、半分こ。と言う言葉が嫌いになった。


     悲劇か喜劇か、恋人の杉元は人に分け与えることが好きな男だ。自分が美味いと思えば必ず半分食えと差し出すし断れば不機嫌になる、尾形にとってそれは実に面倒な一面を持ち合わせていた。

    「ん、これ食ってみ?美味いから」
    「……いらん」
    「お前、ほんっと何なの!?美味いよ!?食べてみな!?」
    「…同じの買ってくる」
    「……え、そんなに?食いかけだから嫌なの?半分に割る?」
    「………美味いなら、自分で全部食えばいいだろ」
    「そりゃそうだけど、自分が食って美味いものって食べさせたいじゃん、…好きな人にさ…!」
    「…………」
    「え、黙んないでぇ…?何か言って…?」

     ほら、ひとくち。と杉元がクリームの挟まったパンらしいものを差し出してくる、まだ先程の好きな人の一言を引きずってか照れた様な顔をしていて表情にいつも嘘偽りのない男だと思いながら尾形は杉元をジッと感情の見えないいつもの表情で暫し見つめ、口元についたクリームを舐めとるように舌で掬い取る、それに驚いた杉元は目を丸くして肩を並べて座るソファーから人一人分間を開けて仰け反った。

    「あ、あああ味見すんのは俺じゃなくて、パン…!」
    「……一口味見したのに変わりないだろ」
    「お前、ひねくれ過ぎ…」

     尾形の言葉に呆れた様な顔をした杉元が何やら思い付いたとばかりに一口分パンをちぎって唇で挟む。その顔は名案を閃いたとばかりに自信満々のそれだ。

    「……なんだ」
    「ん、ひおうい」
    「……あ?」
    「いーかあ、ひおうい」

     いいから、ひとくち、とパンを唇で食んだままの杉元が口移しとばかりに顔を差し出す、恋人のそんな仕草はどうやっても可愛い訳で尾形は杉元の顎を掴まえ差し出されたパンを口に運ぶ、甘い味が口の中へ広がって溶けた。

    「な?美味いだろ?」
    「お前にも分けてやる」
    「や、今俺からもらっ、ン…!?」

     まだ薄く開いた唇の隙間を縫って尾形の舌がぬるりと入り、甘い杉元の舌を絡め取る。尾形の突拍子もない所謂デレは今に始まったことではなくて一瞬驚いた杉元も仕方なしと言ったふうに小さく鼻から息を漏らしてそれを受け入れ暫し互いの口の中で甘い甘いクリームの味を行ったり来たりさせる、杉元の指が尾形の耳の辺りをザラりと撫でると鼻先の触れ合う距離で漸く唇が離れ、しかし名残惜しげに尾形の唇が杉元の下唇を甘く食んだ。

    「……美味かった、?」
    「……まだ味見しかしてない」
    「ゎ、!ぉい、…」
    「………美味かったら、くれるんだろ?」
    「お前本当、…ひねくれモンだな」
    「…今更だろ」

     二人の影が重なりギシ、とソファーが軋む。皿に残された甘ったるいパンよりもっと甘く熱を帯びた空気が部屋に纏う。杉元の甘い声が漏れ出る度にそれを尾形が逃すまいと口で塞いで体の中へ飲み込む。

     

     尾形はやっぱり半分こ、は嫌いだ。
     杉元を余すところなく全て、独り占めにしたいから。
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    ぎねまる

    MOURNING初登場前の、苛烈な時代の鯉登の話。わりと殺伐愛。
    過去話とはいえもういろいろ時期を逸した感がありますし、物語の肝心要の部分が思いつかず没にしてしまったのですが、色々調べて結構思い入れがあったし、書き始めてから一年近く熟成させてしまったので、供養です。「#####」で囲んであるところが、ネタが思いつかず飛ばした部分です。
    月下の獣「鯉登は人を殺したことがあるぞ」

     それは鯉登が任官してほどない頃であった。
     鶴見は金平糖を茶うけに煎茶をすすり、鯉登の様子はどうだ馴染んだか、と部下を気にするふつうの・・・・上官のような風情で月島に尋ねていたが、月島が二言三言返すと、そうそう、と思い出したように、不穏な言葉を口にした。
    「は、」
     月島は一瞬言葉を失い、記憶をめぐらせる。かれの十六歳のときにはそんな話は聞かなかった。陸士入学で鶴見を訪ねてきたときも。であれば、陸士入学からのちになるが。
    「……それは……いつのことでしょうか」
    「地元でな──」
     鶴見は語る。
     士官学校が夏の休みの折、母の言いつけで鯉登は一人で地元鹿児島に帰省した。函館に赴任している間、主の居ない鯉登の家は昵懇じっこんの者が管理を任されているが、手紙だけでは解決できない問題が起こり、かつ鯉登少将は任務を離れられなかった。ちょうど休みの時期とも合ったため、未来の当主たる鯉登が東京から赴いたのだ。
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