Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    aYa62AOT

    @aYa62AOT

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 34

    aYa62AOT

    ☆quiet follow

    美味しいチョコありがとうございました。
    ハピエン厨ですびばぜん!!!

    #ライジャン
    laijun

    ライナーへチョコを渡せなかったジャンの話 ジャンはもう30分右へ左へウロウロとショッピングモールのチョコ売り場の前を行ったり来たり繰り返している、ここ数日売り場の前を行ったり来たりしては帰るばかりだったものの流石に今日は買わなければと意を決したようにジャンは漸く、売り場の中へと足を踏み入れる。
     友チョコ、なんてものがあるとは言えやはり居心地は悪い、しかし手近にあるチョコを買って帰る事はせずにしっかりチョコを吟味する辺りにジャンの生真面目さやプレゼントする相手への気持ちの強さが窺えた。
    「——よし、これだ」
     売り場に入ってから少しばかり急ぎ足で一周ぐるりと回って決めたビターテイストのトリュフチョコの詰め合わせを手に取る、黒に金字で文字の書かれたシンプルでシックな包装紙はきっと幾つも可愛らしいチョコを貰うであろう相手の目を引くはずだ。なんて打算的なことも思いながらジャンはレジへと向かう。支払いの間はやっぱり気恥しさから俯きマフラーへ口元を埋めながらボソボソと返事をして足早に店を出る、駆け足に売り場から何十メートルか離れたところで漸くジャンはホッと息を吐き出す。
    緊張で息をするのも忘れてしまっていたのか激しく鼓動が脈打ち思わず胸の辺りを撫でさすってやっと買った小さな紙袋を顔の前に掲げて購入出来た達成感に口元が緩む。バレンタインデーの前日、やっとの思いでジャンが買ったチョコが紙袋の中でカタリと揺れて音を立てた。
     
     バレンタインデー本番、ジャンはスポーツバッグに紙袋を大切そうにしまい込み学校へと向かう、特別な日とあって教室は浮き足立った空気に包まれ既にカップルがいくつか出来ているような、ふわふわとした擽ったい雰囲気に満たされている。
    「ジャン、おはよ」
    「マルコ、はよ」
    「無事買えたみたいだね?」
    「まぁ、…おう」
    「そ、良かったね。いつ渡すの?」
    「……んんー…多分、放課、後?」
    「そっかそっか、上手くいくといいね」
    「……頑張る、」
     唯一今日チョコを渡すことを知る親友のマルコがジャンの肩に軽く手を置いてエールを送る、嬉しい半面緊張が高まり机の横に掛けたバッグに視線を奪われる。
    「なーライナー!今日の課題見せてくれよぉお…!」
    「……コニー、お前また忘れてたのか…」
    「ライナー!お願いです!ノートを!貸して下さい!!」
    「サシャ、…お前ら本当に…」
     教室の窓際から聞こえるやり取りに敏感な程ビクリとジャンの肩が跳ねる、あんなに悩んだチョコ渡す相手、クラスメイトのライナーの声だ。そちらの方へ目を向けると仕方なしと言った顔で笑いながらノートをサシャとコニーへ手渡すライナーにジャンの胸がドキリと跳ねる。中学二年になって初めて同じクラスになったライナーへジャンは所謂一目惚れしてずっと、片思いを募らせていた。勉強も運動もそつ無くこなし頼り甲斐のあるライナーは当然男女問わずに人気者で既にチョコをいくつか貰っているらしいことは分かる。
     
     それでも、今日渡さなければと勇気を振り絞って売り場を行き来したチョコだ。早く渡さなきゃ、早く、なんて焦りがほんの少しあるものの渡す時は放課後と決めて、チャイムの鳴り響く教室にハッとして数学の教科書を机から取り出す。
     やっぱりその日は終始落ち着かなくて、授業の中身は全然頭に入らなかった。


    「——じゃあね、ジャン頑張って」
    「おう、また明日。ありがとな、マルコ」

     放課後、もうクラスメイトも疎らになった頃マルコを見送ってジャンは一つ深く息を吐く、もう教室はすっかりオレンジがかって西陽が眩しい。最後の授業でノート回収をしたライナーが職員室から帰ってくるのをジャンはただ自席で待っていた、机の中にこっそり隠した紙袋の持ち手の紐をしっかり握りながら。
     廊下から足音が近付いてくる、踵に体重を少し掛けた癖のある足音でジャンにはその主が分かる。扉が開いて西陽に金色の髪がキラリと反射して眩しい。
     窓際の席で帰り支度をするライナーと廊下側に座るジャンが今日やっと、言葉を交わす。
    「——お、ジャン。まだいたのか?」
    「……あ、おう…ノート、大変だったな…」
    「ああ、まぁ日直だったからな今日」
    「そっか、うん…そだな」
    「……どうかしたのか?」
    「え!?…な、にが?」
    「なんか、いつもと違うなって」
    「あ、や…ライナーに、話、あって」
    「……話?」
    「あの、!「ライナー!マックいこーぜ!」
    「コニー、サシャ」
    「今日ノート見せてくれたお礼に私とコニーでご馳走しますよ」
     ジャンが口を開いたその瞬間、後ろからコニーとサシャがライナーへ駆け寄りまとわりつく。口を開いた勢いで立ち上がって取り出したチョコを背に隠してそのやり取りを聞く。
    「いや、今日は用事があるんだ」
    「用事?何の」
    「コニー…コニーは本当鈍感ですね、今日はバレンタインデーですよ?用事と言ったら…」
    「げ!?ライナーマジかよ!お前彼女いんの!?」
    「いや、彼女じゃないけど」
    「けどってことは女子だろ?」
    「いや、まあ、女は女だけど…とにかく先約があるから悪いな。気持ちだけ貰っとくよ」
    「隅に置けないですねえ、ライナー」
    「もういいだろ、今ジャンと話してて……ジャン、…?」
     コニーとサシャのからかいを窘めてライナーが廊下側に目を向けるとそこにはジャンのいた痕跡だけがある様に引き出されたままの椅子がポツリとただ、残されていた。

     ジャンは思わず走り出て乱れた呼吸を抑えるようにゆっくりゆっくり肩を揺らしながら息を吐き出す。ライナーには今日、約束した彼女ではない誰かがいるのだ。その事実だけでジャンのギリギリの勇気はポキリと折れた、それでもいいから想いを伝えられる程がむしゃらにも無鉄砲にもなれなくて、その場でからかいに参加する程自分に無神経にもなれなかった。
     学校から少し離れたもう夕陽の沈みかけた薄暗い公園に辿り着く、ベンチに腰掛けてバッグに押し込んでシワだらけになった紙袋からチョコを取り出す、乱暴に包装紙を破いて箱を開けると走ったせいか箱の中でトリュフチョコがあちこちとして内側がすっかり、汚れてしまっていた。
    「……もう渡せねえや、」
     一つ摘んで口へと運ぶ、口の中で溶けたチョコは思いの外ほろ苦くて噛む度に甘い、苦い、甘いが口の中で繰り返す。
     浮かれたり落ち込んだり、ライナーへと思いを募らせてきた自分みたいだとジャンは思う、その度に箱にポタ、と雫が落ちて痕を作る。
     全て食べ追える頃にはすっかり、ヒクヒクと肩が震えていた。
     どのくらい時間が経った頃か、公園のゴミ箱へ袋ごと箱を捨ててジャンは漸く帰路へとつく。ツンと痛む鼻をマフラーで隠して俯きながら歩く。



     

     その小さな背中を、小さな女の子の手を引きながら歩くライナーが見つけ、ふと立ち止まり見つめる。あれはきっとジャンだ、とライナーにはすぐに分かった。
    「ジャン、?」
    「らいなーはやくガビのおうちいこーよ」
    「ああ、そうだな…ごめんごめん」
    「ガビ、らいなーにチョコつくったんだよ!」
    「ありがとう、ガビ」
    「んーん!はやくいこー!」
     ジャンの後ろ姿に後ろ髪を引かれる思いでもう一度そちらを見る、もうジャンの背中は見えないほど、陽が傾いていた。


    「……明日また聞いてみるか」

     

     ジャンの誤解が解けるまで、あと少し。

     もう、少し。



    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤👏💖🙏💯👍👏💜🙏👏☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    aYa62AOT

    DONE美味しいチョコありがとうございました。
    ハピエン厨ですびばぜん!!!
    ライナーへチョコを渡せなかったジャンの話 ジャンはもう30分右へ左へウロウロとショッピングモールのチョコ売り場の前を行ったり来たり繰り返している、ここ数日売り場の前を行ったり来たりしては帰るばかりだったものの流石に今日は買わなければと意を決したようにジャンは漸く、売り場の中へと足を踏み入れる。
     友チョコ、なんてものがあるとは言えやはり居心地は悪い、しかし手近にあるチョコを買って帰る事はせずにしっかりチョコを吟味する辺りにジャンの生真面目さやプレゼントする相手への気持ちの強さが窺えた。
    「——よし、これだ」
     売り場に入ってから少しばかり急ぎ足で一周ぐるりと回って決めたビターテイストのトリュフチョコの詰め合わせを手に取る、黒に金字で文字の書かれたシンプルでシックな包装紙はきっと幾つも可愛らしいチョコを貰うであろう相手の目を引くはずだ。なんて打算的なことも思いながらジャンはレジへと向かう。支払いの間はやっぱり気恥しさから俯きマフラーへ口元を埋めながらボソボソと返事をして足早に店を出る、駆け足に売り場から何十メートルか離れたところで漸くジャンはホッと息を吐き出す。
    3026