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    aYa62AOT

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    aYa62AOT

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    ジャくんの耳を塞ぐ仕草が実はナーが教えたものだったら、と言うお話。
    ある曲を聴きながら書いた物です。
    タイトルがその曲です

    #ライジャン
    laijun

    冬夜のマジック ——ああ、違う、ちがう
        どうして、なんで、ずっと——

    「——俺の憧れで、いてくれなかったんだよ!なあ!!なんで、なん、ッ…」

     頭を抱えながら情けない程小さく蹲り震えるライナーにジャンは普段は見せない程の強い感情を声と、怒りに震える体で伝える。
     17のライナーはこうではなかった、ピンとした大きな背中と手がいつも安心感を与えていた、それなのに今のライナーはどうだ。

     頬も痩けて、痩せて、自分より酷く小さく見える。そしてそれと同時にジャンはライナーが昔の自分と重なってそれが余計に心を荒ぶらせて掻き乱す。
     自らの命の危機を前にしても手も足も出ず荷馬車の上で返り血を浴びながら仲間に辛うじて繋いでもらった命に震えていた自分を、次は必ず殺すと口では言いながら震える自分を抑えるのに必死だったあの頃を。

     蹲りながら、すまない…すまない。と繰り返すライナーの前で立ち尽くしながらジャンは冷えた風が強く吹き抜ける甲板にまだ、今より少しは幸せだった訓練兵の頃を思い出す。
     風の轟々と吹き付ける雪山訓練のあの日を。




    「ジャン、大丈夫か?」
    「……クッソ、あんな所に石なんか無きゃ、」
     定期的に行われる雪山訓練でお決まりのコースだったそこに今までは無かった岩が雪の中へ埋まっていた事に気づかなかったジャンが足を乗せ滑ってバランスを崩したのをライナーが庇い共倒れの様に崖の下へと転がり落ちて同期達とはぐれてしまったのが運の尽きだ。
     言ってしまえば訓練だからと余裕を見せて集中力と判断力を欠いたジャンの珍しい失態ではあるのだが、ライナーはそれには触れずに足を挫いたジャンを抱えながら小さな穴蔵へと身を潜めた。人二人入ればもう手狭な場所で辛うじて残っていた蝋燭に火を灯す。

     穴の外では猛吹雪で1メートル先も見えない、一人だったら心が折れてしまうだろうとチラチラと揺れる火にジャンは情けなさと内心ライナーへ感謝していた。

    「とにかく朝まで凌げばどうにかなるだろ、この吹雪じゃ歩き回るのは自殺行為だ」
    「……悪ぃ、俺がヘマしたせいで」
    「ハハ、お前が素直に謝るなんて気味が悪いな」
    「おま、ふざっけ…ッシュン、!」
    「大丈夫か、ちょっと待てよ…」

     肩を並べながらジャンが一つクシャミと共に身震いをするとライナーが自らのネックウォーマーを引き抜きジャンへと巻き付け自らのコートまで脱ごうとする様子に慌てた様に腕を掴んで止める。

    「ちょ、バカ!幾らお前でも脱いだら死ぬに決まってんだろ…!」
    「けど、どうみてもお前の方が寒さに弱いだろ…」
    「大丈夫だって…!」
    「あー…じゃ、あれだ、これならどうだ?」

     そう言ってライナーが隣からジャンの背後へと周りピタリ、と背中と胸を付ける。互いの体温を共有して幾分か暖かさが増したような気がしてジャンは背中から伝わる熱にホッとひとつ息を吐き出す。


    「あっ、たけえ…」
    「少しはマシだろ」

     轟々と風の吹き抜ける穴の外を蝋燭の淡い光の中でぼんやりと眺めるジャンは次第にウトウトと意識が浮上する、腕の中で船を漕ぎ始める様子にライナーはハッとして肩を揺すり起こした。

    「ジャン、…寝るな、ジャン」
    「——ぁ、…ゃべ…ちょっと寝てた…」
    「何か話そう、そうだな…お前の母さんてどんな人だ?」
    「俺の母ちゃん…?うるせーババアだよ、勝手に部屋には入ってくるし口うるせえし声はデケェし。…でも、飯は美味い」
    「何だ、いい母さんじゃねえか」
    「どこがだよ、じゃあお前の母ちゃんは?」
    「……ジャンの母さんとは、真逆の人だ。弱くて騙されやすくて…料理もあんまり上手くはないな」
    「……お前が他の奴より兄貴っぽいのはそう言うのもあんのかもな」
    「え?なんだ?」
    「……んでもねぇよ、」

     ジャンの背中がまたブルりと震えて吐き出した息が白くモヤりと宙へ浮く。これではジャンが低体温症になるのは目に見えているとライナーは自らのコートを遂に脱いでジャンの体を包み込みそして自らは岸壁に二人分のリュックを置いて背を寄りかからせ多少なりとも寒さは紛らわせるかとジャンを腕に抱いたまま背を丸め、どうにかこうにか体温を分け合う、ライナーの腕の中でジャンは情けなさに眉を下げるものの自分の生死が掛かっている事も自覚していて、少しでも触れ合う密度を高めなければとライナーの首へしがみつき向かいあうように体を触れ合わせ、密着する。

    「ライナー、…悪ぃ…足引っ張ってばっかで…」
    「いや、気にするな…大丈夫だ、生きて帰ろう」
    「ん…、何か風の音聴いてると余計寒くなんな…」
    「………じゃあ塞いでろ」
    「え、わっ、…」

     ジャンの言葉にライナーの手がジャンの両耳を塞ぐ、手袋ごと冷えた耳を包まれると暖かくもあり、そしてうるさい程の吹雪の音が遮断される。辛うじて耳元で言葉を発するライナーの声だけは聞き取れた。

    「……聞きたくない音がありゃ塞いじまえば怖くもねえ、不安にもなんねえ。俺は子供の頃からそうして来た」
    「そう、なのか」

     ライナーの言葉に自分は当たり前の様に母の腕にしがみついた幼少期をジャンは思い出す、さっきの母に対する口振りといいライナーは母親に甘える、ということが無かったのだろうかとぼやりと思う。そして見たことも無い少年のライナーが耳を塞いで震える姿が頭を掠めて思わずしがみつく腕に力が篭った。

    「……寒いか?ジャン、大丈夫か?」
    「大丈夫…耳塞いだら本当、ちょっと寒さ和らぐな」
    「だろ、お前は何でも真っ向勝負なとこあるから、たまには逃げてもいいんじゃねえか…?」
    「……真っ向勝負?俺が?」
    「いつもエレンの喧嘩は買うし、突っかかるし」
    「あれは、!まぁ、そうだけど…」
    「そう言うとこ俺は好きだけどな」
    「……え、」
    「あ、少し外明るくなってきたな…」

     ジャンの戸惑いを他所にライナーが穴の外へ目をやり少しばかり安堵した様子でひとつ息を吐く。好きって?と尋ねたいもののそれを聞いてしまえば今の関係に気まずさのようなものが芽生える気がして思わずジャンは口を噤む、外が少し明るくなり始めたのを感じながらあと少し、もう少しとこの寒さに身を任せてジャンはライナーにしがみついたまま互いの鼓動と合間に響く低い声を聞いていた。

     それから、ライナーへの密やかな憧れがジャンの中で少しずつ芽生え、膨れ上がった。
     今までの羨望とは違う、鼓動の高鳴る憧れが。






    「———俺の憧れなんて、俺のエゴだよな」

     冷たい潮風に吹かれる甲板でジャンは蹲るライナーの目の前に腰を下ろし、自嘲を含んだ笑いを漏らす。あの冬の訓練からあっという間に時が経ち、沢山の仲間を失ってそしてジャンは人も殺めた。
     
     ライナーが、裏切り者であることも知った。

     その間、ジャンは何度も何度も、耳を塞いだ。
     もう無理だ、怖い、俺はどうすればいい、俺は、俺は……

     そう思う度に耳を塞いで束の間の逃避を繰り返した。
     あれは確かに、ライナーが教えてくれたものだ。


    「……俺は、…ずっと、お前に、ライナーに…期待を押し付けて、勝手に好きになって、勝手に裏切られて、それで…」

     無意識にジャンが背中を丸めて大きな体を小さく、そして頭を抱える様に耳を両手で塞ぐ。それが束の間の逃避と、分かっていても。

    「……ジャン、」

     ライナーが、顔を上げる。
     頭を抱え小さく身を畳むジャンは頼りなげでそして、とても脆く見える。ボロボロの心でもってライナーがジャンへ手を伸ばしそして、耳を塞ぐ手に手を、重ねる。
     
     冬のあの日と同じ、大きな手で。

    「ジャン、…大丈夫…何も、聞こえない…だろ?」
    「……お前なんか、好きにならなきゃよかった…お前なんか…」
    「…………。」
    「また、会いたかった…」


     あの日の様に、ジャンがライナーの首へとしがみつく。
     ジャンの耳に吹き付ける風も、船が割って進む波の音も届かない。
     ただ、ライナーの声だけが届く。


     ジャンはまた、束の間の逃避へ落ちていく。
     この先に待ち受ける地獄を背中に確かに感じながら、落ちて行く。


    「……好きだって、思い出したくなかった」
    「……ずっと、好きでいてすまない…」


     ライナーの片耳を手で塞ぎ、もう一方を自らの頬でジャンは塞ぐ。

     二人は、落ちて行く。

     束の間の逃避へと、落ちて行く。
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    aYa62AOT

    DONE美味しいチョコありがとうございました。
    ハピエン厨ですびばぜん!!!
    ライナーへチョコを渡せなかったジャンの話 ジャンはもう30分右へ左へウロウロとショッピングモールのチョコ売り場の前を行ったり来たり繰り返している、ここ数日売り場の前を行ったり来たりしては帰るばかりだったものの流石に今日は買わなければと意を決したようにジャンは漸く、売り場の中へと足を踏み入れる。
     友チョコ、なんてものがあるとは言えやはり居心地は悪い、しかし手近にあるチョコを買って帰る事はせずにしっかりチョコを吟味する辺りにジャンの生真面目さやプレゼントする相手への気持ちの強さが窺えた。
    「——よし、これだ」
     売り場に入ってから少しばかり急ぎ足で一周ぐるりと回って決めたビターテイストのトリュフチョコの詰め合わせを手に取る、黒に金字で文字の書かれたシンプルでシックな包装紙はきっと幾つも可愛らしいチョコを貰うであろう相手の目を引くはずだ。なんて打算的なことも思いながらジャンはレジへと向かう。支払いの間はやっぱり気恥しさから俯きマフラーへ口元を埋めながらボソボソと返事をして足早に店を出る、駆け足に売り場から何十メートルか離れたところで漸くジャンはホッと息を吐き出す。
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