額の上なら友情のキス青い空。暖かな陽光。穏やかな日々を善良さでもって過ごす人々。
絵に描いたような平和に心動かされ弦を爪弾いた浪巫謠は、聆牙が思っていた以上にご機嫌であった。のどかな風景に似合いの曲を奏で吟じられたのが余程嬉しかったのか華やぐ心そのままに、聆牙の人面を模した琴頭、額の辺りに唇を寄せた。
綺麗な音を、望む音を、この景色にふさわしい音をくれてありがとう、言葉無くとも伝わる友への感謝が、触れた唇のやわらかさに丁寧に詰め込まれていた。
花咲くことを忘れたかのような浪にしては珍しい振る舞いに、聆牙の裡も自然とぬくくなっていく。相棒の心に影を差さぬ、だが適度にふざけた冗談を言おうとして――その口はかたりと音を立てて硬直した。
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