「三途の嫁ちゃん取ーり♡」
「旦那今日いないよ。俺らと遊ぼ」
突然双子の兄弟に絡まれた。なんて言う名前だったが……。花の名前だった気がするし、苗字に谷か山……。いや森……か林だったかも……が入っていたはず。そんな感じだ。
そんな双子さんに両側を挟まれる。
「こんにちは。チヨくん外回りですか?会いたかったなぁ……。あ、お弁当いつものところに置いてます。遊べないのでお仕事頑張ってくださいね!」
春千夜君が不在のビルに用はもうない。帰ろうとエレベーターホールに行くが彼らも着いてくる。
「いいじゃん。すぐ終わるから遊ぼーよ♡」
「兄貴も俺も優しいし、三途には黙っとくからさ」
「いや、お仕事してください」
この2人、蛇のようで苦手だ。苦手な理由はもう1つ。春千夜くんへお仕事を押し付け、帰りを遅くする元凶っぽいのだ。
「あのクソ兄弟逃げやがった」「適当な仕事ボケ弟しやがって!!」「ゴミカス兄貴はどこだ言え!!」とオフィスで叫んでいる姿を数度目にしている。他に兄弟がいるかわからないが、何となく彼らな気がする。
静かな音でエレベーターが到着し、ドアが開く。
マイキーくんに見つかると春千夜くんの事を探ってくるから面倒だし、早く帰ろうと乗り込めば彼らも乗り込んでくる。
「何階ですか?」
「だから、蘭ちゃんと遊べよ三途の嫁」
「外でもいいぞ。俺ら午後からしか動かねーし。兄貴どこに行くよ?」
とりあえず、一階を押しておく。
ドアが閉じ、少しの浮遊感。1分程度同じ空間がきつい。
「うおっ、なんすか……?!」
突然エレベーターの壁に押され、逃げられないよう正面に立たれる。あれだ、よく言えば壁ドンだが、俺の経験から言えばカツアゲされた時にされたアレだ。
「なぁ、三途たらしこんだ体なんだろ?俺らにもためさせろよ?」
「3Pしたことある?三途より俺ら上手いし、な?一回お試しでさ」
「竜胆クンニ上手いからきっとフェラ上手いって」
なんていう事を言うのか!カッと頭に血が上る。
「こいつ照れてる。かーわいー♡」
「あいつ、こいうウブっぽいやつ昔から好きだよな?」
エレベーターの階層を見て2になっている事を確認する。
「どこ行こっか?ホテルとか嫌なら車でもいいよ?竜胆の車だけど」
「はぁ?!臭くなるだろ!ハイエースあんだろ。それ使えるんじゃ」
ギュッと服の裾を握り、顔を上げ、微かな重力を体が受けた瞬間動く。
「遊ばねーよ!クソブサイク兄弟!!親父の精子からやり直せ!!!」
兄の頬を利き手で打って、逆手で弟をビンタし、突進ダッシュで逃げ出した。
追って来られるかも知れないが、逃げ足ダッシュは誰にも負けない!
暫く走り、振り向く。追ってはない。胸を撫で下ろし、家に帰り厳重に施錠した。
そうして頭を抱える。
やってしまった!やってしまった!時折このように衝動を抑えられない瞬間がある。昔も時折怖い感情を通り越し、暴走して春千夜くんに助けられた事が何度もある。
明日からの宅配弁当持って行きたくない。でも、あんなセクハラ受けて黙ってられないし、春千夜くん以上に上手い人なんていない!!
いつもお弁当を楽しみにしているマイキーくんに連絡だけ入れておく。
『マイキーくん、ごめんなさい。双子の方と会うのが気まずいので、明日お弁当休みます』
『何?どうしたの?蘭と竜胆のことか?なんかした?消しとくから明日も楽しみにしてるね。なんで今日俺に顔見せてくれなかったの?明日は絶対見せてね。二人は俺がちゃんとしとくから。絶対お弁当持ってきて、約束な?』
マイキーくんは人の話を全然聞かないし、決めたことは絶対なので明日も持っていく。
春千夜くんが帰ったら相談だな。痛い手を冷やし明日の献立を憂鬱だが考えるのだった。
エレベーター内でポカンとする蘭と竜胆。女に刺された事も殴られた事も星の数程ある。
2人とも三途の嫁は押しに弱く、流されやすく、強引ならヤレるタイプだと経験から分かっていた。
「なぁ……竜胆……」
「何……兄貴……」
「あいつ、めっちゃグッと来たな……!!」
「タケミっち、やべぇな!!」
あんな気弱そうなやつに汚く罵られ、ビンタされてしまい、今まで無い体験をしてグッと来たのだ。新しい扉を開くとはこのことだ。頬を幸せそうに撫でるのだった。
頬を腫らし、上に戻るとマイキーがウロウロしている。
「首領どうした?迷子?」
「迷子とか兄貴ウケる。タケミっちならさっき帰った」
「あぁ、お前らそんなとこにいたんだ……。その顔どうした?」
「あぁ、これ?タケミっちから貰ったら♡」
「そ、貰った」
「は?俺も欲しい……」
「それより首領、俺らになんか用?」
「あぁ……そうだった。お前ら2人、スクラップな。タケミっち明日弁当届けに来たくねぇって言ってたから」
「「えっ」」
「今までお疲れさん」
必死に説得し、武臣にも説得してもらってスクラップは保留になった。