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    蒼月ルートのクロロレです。

    家出息子たちの帰還.14───ダスカー人は憑霊状態になった巫者と巫者本人の間に明確な一線を引く。巫者は祖霊と交流するのに欠かせない特殊技能の持ち主であると認めているが、それでも巫者本人は祖霊の入れ物に過ぎないからだ。依頼者は巫者がその身に宿した祖霊にしか用はない。憑霊状態の時には平伏しても巫者本人は人として扱う。(中略)老いや病でその身に祖霊を下ろせなくなった巫者は弟子に地位を譲り、依頼者そして信者としてかつての弟子を相手に平伏すらするのだ───


     シルヴァンの副官として儀式に参加しているローレンツは緊張しているのか、ずっと黙っていた。本来なら俗人が入ることを許されない聖域は静謐さに満ちている。軽口を飛ばすのも憚られるような状況で儀式は失敗に終わった。望んだ時に望んだような奇跡は起こらない。
     居た堪れない雰囲気は敵襲によって終わりを告げ───シルヴァンもローレンツも何を信じれば良いのか分からなくなっている。
     フェリクスは初陣を終えてからディミトリを詰るようになった。ジェラルトの死がきっかけとなり、ディミトリの中に埋もれていた火は再び勢いを増している。あの時、彼は自分の母親を殺しておきながら、と言った。
     どうやら短剣の子、はエーデルガルトであったらしい。彼の人生は苦難と悲しみに満ちている。そんな中で短剣の子、だけは微笑ましい話として周囲から消費されていた。紋章由来の怪力を持つディミトリと凡人の間には元から深い溝があり───その溝を埋める素材はもうない。
     皆と共に教室で待機しているローレンツは儀式の時からずっと黙っている。シルヴァンは彼の隣に腰を下ろした。先ほどからフェリクスはアネットと話しこんでいるので邪魔をしたくない。
    「ローレンツ、ちょっといいか?」
    「……構わない」
    「気を紛らわしたいからこの場とは関係ない話をしよう」
     ローレンツはため息をついた。グロスタール領は帝国と面している。領民を巻き込まないために今後どうすべきか、で頭がいっぱいのはずだ。
    「理性は感情に敵わないのかもしれない」
     これは哲学の話ではない。哲学に見せかけた現実の話だ。ディミトリは首を捻じ切ることを熱望している。おそらく比喩ではない。
    「手綱が切れたら足腰で何とかするしかないな」
    「その場合、足腰は何が該当するのだろう?」
    「そこは信仰……じゃないか?」
     口をついて出た言葉が自分でも意外で、シルヴァンは思わず唇に手を当てた。ローレンツも驚いたのか何度も瞬きしている。だが、そこまで追い詰められた時に役に立たないのであれば───セイロス教の五戒など存在する意味がない。


     ローレンツは女神の奇跡を目撃したはずなのに聖墓での儀式は失敗した。大司教であるレアがベレトに求めているものがさっぱり分からない。戸惑ったまま皆で教室に戻り、しばらく待機させられた後で解散となった。セイロス騎士団のものたちもエーデルガルトの行動に呆然としている。
     元から寮で過ごす時間は残り少ないはずだった。だがこんな終わり方をするはずではなかった。
    「ちょっと来てくれ」
     クロードの表情はこれまで見たことがないほど硬い。鏡で確認する気もしないがローレンツも似た様な表情をしているだろう。
    「いや、偶には僕の部屋で……」
     フェルディナントの部屋をを横目でちらりと見たクロードは無言で己の部屋を指差した。フェルディナントは盗み聞きをするような人物ではない。だが彼を疑わずに済むようローレンツは無言で頷いた。意地を張るような局面ではない。
     
    「教会か帝国か選べってことだ」
     部屋に入るなり寝台に寝っ転がったクロードは現状を要約した。疲れて身体を投げ出したい気持ちはローレンツにもよくわかる。
    「君ならどちらを選ぶ?」
     グロスタール家は領民のため不本意でも帝国を選ばねばならない。苦い思いを飲み込みながらローレンツは文机用の椅子に腰を下ろした。
    「帝国は豊かだがエーデルガルトは無限に金貨が湧き続ける壺を持ってる訳じゃあない」
     兵士は存在するだけで糧食を必要とするし輸送部隊は物資を運びながら消費していく。
    「まさか……戦費が尽きるまで誤魔化し続けるつもりか?」
     頰に手を当てたクロードが上目遣いにローレンツの様子を窺っている。
    「信頼に値するか?」
     どちらも信頼できないのは確かだ。気取られずに戦争の準備をしていた帝国も枢機卿が別人に入れ替わっていたのに全く気付いていなかった教会も───それぞれの理由で財や命を賭ける気になれない。
    「だがそれではこちらが信頼を失ってしまう」
    「勿論、俺の私見に過ぎない。大人たちには全く別の考えがあって、そっちの方が名案な可能性だってある」
     そういうとクロードは起き上がって棚の酒瓶を手に取った。予定が狂った苛立ちを鎮めなければきっと余計な犠牲が生まれる。


     ツィリルは騎士や修道士たちの会話からエーデルガルトの檄文の内容について察した。彼女がしたいことも分かった。だが何を言いたいのか、はよく分からない。
     しかしパルミラとフォドラの国境地帯で育ったので敵の軍勢が迫ってくる際特有の雰囲気には覚えがある。生きのびるためには恐怖で強張る身体を動かさねばならない。だから空元気を出すために皆で祖霊や神霊に加護を祈っていた。しかしツィリルは結局両親を失い捕虜になっている。
     だがよく分からない女神に祈りを捧げる気も起きなかった。ツィリルが崇拝しているのはレア本人で、女神ではなくレアの行為に感謝している。それが騎士たちとの最も大きい違いかもしれない。彼らは聖堂で毎日聖典を読み、頭を垂れて祈っている。
     ツィリルはこれまで本の中身に興味を持ったことはない。だがリシテアに文字を習い始めた今なら理解できるのではないか───そう考えて手に取ったがやはり難解すぎた。
     リシテアは聖典を手にしたツィリルから聖堂で話しかけられて驚いたのか何度も瞬きをしている。確かにツィリルにとって聖堂は蝋燭を取り替えたり掃除をする仕事場であっておしゃべりを楽しむような場所ではなかったのだ。
    「リシテア、この本を読めばどうして帝国がレア様を虐めようとしているのか、ボクにも分かるようになる?」
    「いいえ、そんなことは書いてありません。そうではなくてこれまで何があったのか、してはならないこと、するべきことについて書いてあります」
     何故騎士たちは熱心に聖典をめくり、女神に頭を垂れているのだろう。
    「聖堂でお祈りするのは……しなさいって書いてあるから?」
    「そうですね。祈祷、祈りを捧げることは義務……つまりするべきこと、になっています」
     パルミラの祖霊たちの中には祈祷が足りないと言う理由で人間を呪うものも存在する。
    「お祈りしないと何か嫌なことが起きたりするの?」
    「起きませんよ、安心してください」
     リシテアはそう言って微笑んだ。しかし罰も与えられないような存在にレアや騎士それに学生たちを守る力はあるのだろうか。
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