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    「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。

    #クロロレ
    chloroethylene

    8.背叛・下
     雷霆を振るうカトリーヌの名を聞いた者に多少なりとも英雄の遺産や紋章の知識があったならばそれがとんだ茶番だと判るだろう。だが無謬であるセイロス教会が彼女をカサンドラではなくカトリーヌと呼ぶのならそれに従うしかない。カロン家当主としても令嬢カサンドラに死なれるよりはガルグ=マクで生きていてくれた方が良いのだろう。

     ローレンツは霧深い街道をガスパール城に向けて黙々と進んでいた。前方ではクロードとベレトとカトリーヌが何やら話している。五年前、ローレンツは帝国軍が破竹の快進撃を見せた時に正直言ってファーガス神聖王国がほぼ崩壊したと思った。今の彼らの会話を耳にしてもファーガスが凋落しているという印象が深まっていく。青獅子の学級の学生たちは士官学校に入る前に初陣を済ませている者が多いのはダスカーの悲劇以降小規模な騒乱が後を立たずにいるからだ。

     だからあの時ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った。ファーガスは近々自壊するだろうしパルミラとの国境を守りながら強大な帝国に抗う力が同盟にはない。ならばせめて領地と領民を守りたいと思ったからだ。霧の立ちこめる行路は人生にも似ている。いくら整備されていようと足元が見えなければ転倒してしまう。ローレンツは霧の中で先日激しく転倒しそのまま人生を終えた筈なのに何故か立ち上がる機会を得た。この機会をどう活かすのかは己の言動にかかっているので慎重に行動せねばならない。

     敵襲を告げる声が聞こえあたりが俄に騒がしくなりローレンツは槍を握り直した。戦場は霧に覆われどこに何かあるのか誰がいるのか全く分からないがカトリーヌ率いる教団兵たちは四方から囲まれることを全く恐れずに霧の中へ突っ込んでいく。どうすべきか一瞬躊躇したその時後方から矢が飛んできてローレンツの目の前にいた敵に刺さった。

    「あんなの今の俺たちには無理だから慎重に行こうぜ」

     クロードの持つリーガンの紋章は英雄の遺産であるフェイルノートに適合する。現時点で将来フェイルノートを持つに相応しい弓の腕だった。

    「ありがとうクロード。そうだな、若輩者に相応しい振る舞いがある」

     せっかく露払いをしてくれると言うのだから任せておくに限る。

    「先生が言うにはこの時期この辺りはここまで濃い霧は発生しないんだそうだ」

     ベレトは人の意志で作り上げた物に興味を持たないが地形や天候には興味がある。戦闘に関わることだけはとても詳しい。

    「ダークメイジか」

     盗賊の中にダークメイジがいると厄介だ。霧や毒を発生させる。ローレンツはグロスタール領で盗賊討伐や土地の境界線をめぐる小競り合いの調停に赴いた時に幾度も嫌な思いをしていた。

    「先生は副官のヒルダと二人で突っ込んで行ったよ。まああの二人ならすぐに仕留めるだろう」
    「ヒルダさんを引っ張っていくのも大変そうだが……さすが先生だな……」

     前方からもうやだ!本気で戦っちゃったじゃない!というヒルダの声が聞こえると同時に霧が晴れどこに誰がいるのか明確に分かってしまう。手槍を構えたローレンツの後ろで弓を引く音がした。クロードは右前方で孤立している教団兵の援護をするのだろう。

     視野が回復すれば武器に慣れぬ民草などセイロス騎士団の敵ではない。ローレンツたちは街の人々による脆弱な包囲網を突破してロナート卿と直接、対峙するカトリーヌことカサンドラが雷霆を振るうところを見た。怪しい光を放つそれは紋章を持たぬ者が握ればそれだけで命を落とすこともあるのだと言う。クロード達が弓矢や手槍、それに黒魔法で援護したからだろうか。外敵から民を守るために女神から与えられた英雄の遺産は領民に慕われるロナート卿の命を一撃で奪った。

     ロナート卿の今際の際の絶叫はカトリーヌことカサンドラを守る建前を無効にしたが実家から逃走する際に英雄の遺産を持ち出した時点でもう彼女は越えてはならない線を越えている。レア以外の全ての者を自分の人生から切り離してしまったカトリーヌはセイロス騎士団の騎士としては正しい。だがカロン家の令嬢としては死刑になるような大罪を犯す男と恋仲になり家宝を盗み出したろくでなしとなる。

     その逸脱や矛盾にローレンツは五年前と同じく恐怖を覚えた。五年前は又聞きでしかなかったが直接見聞きすると迫力が違う。些細な立ち回りの錯誤で彼女は恋人を失い、名誉を失い、家族を失い、名を失った。カトリーヌという新しい名を与えてくれたレア以外、彼女は何も持たない。ローレンツは今も昔も愛する人を持たないのでそこは想像するしかないのだが他の三つは想像するだけで身を切られるような思いがした。英雄の遺産を受け継ぐ名家の者は失望させてはならない、と言われながら育つ。生まれてすぐに紋章の有無で振り分けられ誰も彼もが必死で己の立場にしがみつくのだ。

     無力感は人を狂わせる。悲惨な現実を目の当たりにして何か出来ないかと闇雲に奔走した結果が何層にも重なりロナート卿の叛乱は世の中を少し乱しただけで終わった。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    13.誘拐・上

     フレンが行方不明になった。クロードとローレンツは誘拐犯がイエリッツァであること、彼が死神騎士でありエーデルガルトの手の者であることを既に知っている。ローレンツが知る過去ではディミトリたちがフレンを見つけクロードが知る過去ではベレスとカスパルがフレンを見つけている。

    「ではこの時点でベレト…失礼、言い慣れないもので。ベレス先生は現時点で既に教会に不信感を持ち敵対すると決めていた可能性もあるのか」

     ローレンツの知るベレトは教会と敵対せずディミトリに寄り添っていたらしい。記憶についての話を他の者に聞かれるわけにいかないので近頃のクロードはヒルダにからかわれる位ローレンツの部屋に入り浸っている。彼の部屋に行けばお茶と茶菓子が出るので夜ふかし前に行くと夜食がわりになってちょうど良かった。

    「そうでもなければあの状況で親の仇を守ろうとしないと思うんだよな」
    「だが今、僕たちの学校にいるのはベレト先生だ」

     ベレスは戴冠式に参加していたらしいのでそこで何かあった可能性もある。クロードはどうしてもかつての記憶に囚われてしまう。

    「大手を振って何かを調べる良い機会なのは確 2090

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    DONE #クロロレ春のこども祭り2021重力から自由になったと思った矢先、クロードは全身に強い痛みを感じた。跳ね起きようとしてマヌエラ先生から身体を押さえられる。押さえられた拍子に視界がぐるぐると回りやがて上下が定まった。

    「落ち着きなさいクロード!貴方は飛竜から落ちたの。下敷きになったローレンツも骨折したわ。二人とも信仰魔法で治したけれど大怪我だったから落ち着くまで時間がかかるわ」

     落ち着く、とはなんだろうか。信仰魔法の主な副作用は吐き気と眩暈だ。先程マヌエラが起きあがろうとしたクロードを止めたのはせっかく治したのに目眩を自覚せず歩こうとして転倒されては無意味になってしまうからだろう。

    「ああ、それで視界がぐるぐると……それとローレンツが下敷きって??」
    「ローレンツも無事だから落ち着きなさい。目眩を起こしたまま歩くのは本当に危ないの。人によって体質の違いがあるけれど一日か二日は絶対安静よ」

    「せんせい、もうしわけないのだがおけをぼくのてもとにいただけないだろうか?」

     反対側の寝台から声変わり前の高くてかわいらしい子供の声がした。医務室の寝台には全て幕が掛かっていて互いが見えないようになっている。

    「ああ、 1753

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    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

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    7.背叛・上
     皆の初陣が終わるとクロードの記憶通りに事態が進みロナート卿の叛乱の知らせがガルグ=マクにもたらされた。養子であるアッシュへセイロス教会からは何も沙汰が下されていない。軟禁もされずアッシュの方が身の潔白を証明するため修道院の敷地内に閉じこもっている。鎮圧に英雄の遺産である雷霆まで持ち出す割に対応が一貫していない。前節と同じく金鹿の学級がセイロス騎士団の補佐を任された。クロードの記憶通りならばエーデルガルト達が鎮圧にあたっていた筈だが展開が違う。彼女はあの時、帝国に対して蜂起したロナート卿を内心では応援していたのだろうか。

     アッシュは誰とも話したくない気分の時にドゥドゥが育てた花をよく眺めている。何故クロードがそのことを知っているかと言うと温室の一角は学生に解放されていて薬草を育てているからだ。薬草は毒草でもある。他の区画に影響が出ないようクロードなりに気を使っていたがそれでもベレトはクロードが使用している一角をじっと見ていた。

    「マヌエラ先生に何か言われたのか?致死性のものは育ててないぜ」
    「その小さな白い花には毒があるのか?」

     ベレトが指さした白い花はクロード 2097

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    17.惨劇・上
     南方教会を完全に無力化されてしまったことや西方教会対策やダスカーの幕引きでの手腕には疑わしいところがあったがルミール村においてまず疫学的な検査から実施されたことからもわかる通りセイロス騎士団は手練れの者たちの集まりだ。ベレトの父ジェラルドまで駆り出されている異変においてクロードやローレンツのような部外者が介入しても迷惑がられるだけだろう。

     クロードにしてもローレンツにしても記憶通りに進んでほしくない出来事は数多ある。ロナート卿の叛乱もコナン塔事件も起きない方がよかったしこの後の大乱も起きて欲しくない。だがこのルミール村の惨劇は起きてほしくなかった案件の筆頭にあげられる。他の案件の当事者には陰謀によって誘導されていたとはいえ意志があった。嵌められていたかもしれないが思惑や打算があった。だがルミール村の者たちは違う。一方的に理性や正気を奪われ実験の対象とされた。そこには稚拙な思惑や打算すら存在しない。事件を起こした側は村人など放っておけばまた増えると考えたらしいが二人にとって直接見聞していないにも関わらず最も後味が悪い事件と言える。
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