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    「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。

    #クロロレ
    chloroethylene

    17.惨劇・上
     南方教会を完全に無力化されてしまったことや西方教会対策やダスカーの幕引きでの手腕には疑わしいところがあったがルミール村においてまず疫学的な検査から実施されたことからもわかる通りセイロス騎士団は手練れの者たちの集まりだ。ベレトの父ジェラルドまで駆り出されている異変においてクロードやローレンツのような部外者が介入しても迷惑がられるだけだろう。

     クロードにしてもローレンツにしても記憶通りに進んでほしくない出来事は数多ある。ロナート卿の叛乱もコナン塔事件も起きない方がよかったしこの後の大乱も起きて欲しくない。だがこのルミール村の惨劇は起きてほしくなかった案件の筆頭にあげられる。他の案件の当事者には陰謀によって誘導されていたとはいえ意志があった。嵌められていたかもしれないが思惑や打算があった。だがルミール村の者たちは違う。一方的に理性や正気を奪われ実験の対象とされた。そこには稚拙な思惑や打算すら存在しない。事件を起こした側は村人など放っておけばまた増えると考えたらしいが二人にとって直接見聞していないにも関わらず最も後味が悪い事件と言える。

     エーデルガルトは知っていれば止めたと主張していた、と聞くが果たして本当に止める力はあったのだろうか。パルミラの王宮はクロードの敵だらけだったが当然ながら彼らは一枚岩ではなかった。そもそもいくつもの集団に分かれていたし同じ集団の中で派閥争いもあった。エーデルガルトも彼女が主張する通り何者かと相乗りしている。だから入学当初エーデルガルト本人まで盗賊に襲われて命からがら逃げるような企みが実行されたのではないだろうか。

     先にローレンツが吞みすぎた、と言って食堂から去った。クロードもフェルディナントとペトラが話すように仕向けた。今日一番の人気者であるベレトはマヌエラに絡まれている。二人にそれとなく探りを入れたかったがあの状態では無理だと判断しクロードも静かに宴の会場から去った。

     クロードがローレンツの部屋の扉を叩くと中から入りたまえ、という声がした。ローレンツは酔い覚ましの紅茶を口にしていたがそれでも身体にまとわりついた酒精の香りはまだ消えていない。

    「君も飲みたまえ」

     ローレンツはさわやかな薄荷の香る紅茶をクロードに差し出した。少しぬるくなっていたがこれはこれで飲みやすい。

    「いよいよ傀儡を操っていた本人たちのお出ましだぞ」

     喉を鳴らして飲み干した無作法を視線で咎められたがクロードは無視して茶器を置いた。

    「そうだな。当家が親帝国派にならざるを得なかったきっかけの事件だ」

     互いの知る過去について語り合った時クロードもローレンツも少なからず衝撃を受けた。ローレンツはディミトリが処断されたと言う発表があったにも関わらずクロードがセイロス教会をレスターに引き込まなかったといったしクロードはデアドラ防衛戦にローレンツは参戦しなかったといった。

    「自領ですらあんなことをしでかすんだ。最初に占領した土地なんか何をされるのか分かったもんじゃないな」

     自分ではない自分の思惑は手にとるように分かる。一歩踏み出す勇気を持てずとことん現状維持を望んだのだ。仮に攻め込んだとして出自が知れたらクロードはパルミラからやってきた侵略者として扱われてしまう。

    「僕が戦死しても自領と一族が無事ならそれで構わないと思っていた」

     フォドラ育ちの人間はいつもそうだ。自分の命や欲望を大切にしない。リーガンの紋章を持たなかったクロードの母ティアナは無意識のうちに我慢を重ね紋章を持って生まれた弟オズワルドへの当てつけのように国境警備の任にあたり捕虜となってクロードの父と出会った。クロードはリーガン家の血を引きフォドラの者のように振る舞うべく教育を受けたが咄嗟に行う善悪の判断はどうしてもパルミラのものになってしまう。

    「お前が戦死するなんて間違ってる」
    「傍流にもう一人紋章を継いでいる者がいるので尚更そう思っていたがそうだな、クロードの言う通りやはりあの選択は間違っていた」

     ローレンツは茶器の底を見つめながら言葉を続けた。

    「一族にいるもう一人の紋章保持者は今、五才だ。父のかなり歳が離れた従兄の孫娘でね。五年経っても十才だぞ。僕はその小さな又従兄弟の娘の為にもきちんと降伏せねばならなかった」

     街道の宿屋でクロードの背中を引っ掻いた白い指が白い喉の前で横に直線を描く。死を意味する仕草だ。ローレンツが指で掻き切った白い喉から信じられないほど甘い声が出る。それを知る者はクロードしかいない。ローレンツの白い指はクロードの背骨をなぞってくれないが代わりに汗が褐色の背中を伝っていった。フォドラ育ちの人間はいつもそうだ。

    「死ぬのなら当家の領地、門地、財産全ての安全を保証するという文書をディミトリくんたちに作らせてから首を刎ねられて死ぬべきだった」
    「それがお前の死に時か」

     パルミラの者たちは首飾りの向こう側に住むフォドラ人を迷信を信じる無知蒙昧な臆病者だと蔑む。しかしクロードは知っている。フォドラ育ちの人間の計算高さと勇敢さを。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    13.誘拐・上

     フレンが行方不明になった。クロードとローレンツは誘拐犯がイエリッツァであること、彼が死神騎士でありエーデルガルトの手の者であることを既に知っている。ローレンツが知る過去ではディミトリたちがフレンを見つけクロードが知る過去ではベレスとカスパルがフレンを見つけている。

    「ではこの時点でベレト…失礼、言い慣れないもので。ベレス先生は現時点で既に教会に不信感を持ち敵対すると決めていた可能性もあるのか」

     ローレンツの知るベレトは教会と敵対せずディミトリに寄り添っていたらしい。記憶についての話を他の者に聞かれるわけにいかないので近頃のクロードはヒルダにからかわれる位ローレンツの部屋に入り浸っている。彼の部屋に行けばお茶と茶菓子が出るので夜ふかし前に行くと夜食がわりになってちょうど良かった。

    「そうでもなければあの状況で親の仇を守ろうとしないと思うんだよな」
    「だが今、僕たちの学校にいるのはベレト先生だ」

     ベレスは戴冠式に参加していたらしいのでそこで何かあった可能性もある。クロードはどうしてもかつての記憶に囚われてしまう。

    「大手を振って何かを調べる良い機会なのは確 2090